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54.追憶(3) ③

 「グオオオオ!」

 「ガルウウウ!」


 玉座で泰然と待ち構える城主ザカリエへと飛びかかって行く、二体の光纏った獣。

 ミコナが<エメラルド・タブレット>で文字打ちこみ生み出した、アストラル体持つ幻獣――獅子と狼。

 その力は鋼のごとく強く、風のようにすばやい。


 そんな二体は一気に相手との距離詰めるや、両サイドからザカリエの黒い鎧めがけ襲撃かけていった。


 「よし!」


 何と言ってもその(あぎと)大きく開いた、牙による鋭利な一撃だ。いかに凄腕ブレイカーでも、とっさに避ける術などありはしまい。

 実際二体は閃光めいた速さで瞬く間にその相手の左右の肩へ食らいつくや、そのまま引きちぎらんばかりに凄まじき力こめだしたのだから。

 その後には、当然激痛に苦鳴もらすザカリエの姿が認められたはず――。


 だが。


 「グオ!」

 「グウア!」

 「え?」

 

 刹那後、なぜか獣たちの方が響かせた悲鳴に、ミコナは思わず耳を疑っていた。いや、悲鳴だけではない、獣たちは何に反応したのか同時にたまらず鎧から口離すと、怯えたようにザカリエの元からやや退きさえしてしまったのである。


 「どうしたの、やられた?!」


 すなわちそれはミコナが声を大きくしたように、完全に何らかの攻撃を受けた挙動としか思われない……。

 

 「ふん、小賢しい真似を」


 ――そしてその後には、さも相手見下した嘲笑。自信の現われか、よろめく獣を追うこともせず、いまだ玉座から立ち上がろうともしない。彼はそうして、まず先制攻撃かけてきた勇敢な少女を青く光る瞳でじっと見据えるだけだったのだ。


 「召喚型か。私は初めて見た」

 「……」

 「だが私には効かん。この<死鎧>には」


 そう、いかにも余裕の態で宣いながら。



 すばやい身のこなしで石像の一つに隠れた後、マリーは距離を置いてしばらくそんな戦闘の推移見守っていた。もちろんここからなら余裕で<サラマンダー>使える位置ではあるが、しかしいまだその引き金に指を掛けることはない。まだ、その時にはとても至っていないのだ。とにかく相手の隙を、一瞬の空隙を狙えるまでは。そして幸いにも、ザカリエは今のところミコナに係りきりで、自分のことは完全に想外の存在のようだ。ならば、そんな好機は徹底的に利用するべきである。後はミコナがどれだけ粘れるか、にかかっているとはいえ。

 そう、何より勝敗を決するのは、ミコナと自分との完璧なコンビネーション。いついかなる時も、どんな強敵相手でもそれで生き抜くことできてきた。

 

 ――その二人の名出ただけで、まさしく相手(ひる)ませるにふさわしいくらい。


 (ミコナ、もう少しだけ頼むわよ)


 一流の戦士の証明ということか、かくて石像の陰で精神研ぎ澄ませながらも、マリーはその時、口元にうっすら笑みさえ零すのを禁じ得なかったのである。



 「いかに光で獣作ったとはいえ」


 (ほの)暗い青光包む部屋の中、二体の幻獣の放つ緑色光に照らされたザカリエが、さも楽しげに外から見えぬ口開いていた。


 「我が猛毒に(まみ)れた<死鎧>には傷一つつけられん」


 そして一拍の間の後、大仰に肩を(すく)め、続けてミコナあからさまに挑発せんとする。


 「すなわち、お前では絶対私に勝てないということだ……」


 「そうかしら?」


 ――だが、対してミコナの方は相変わらず冷静で静かな表情変えない。

 一の太刀が見事相手の何らかの技によって阻まれたというのに、これはなかなか度胸の据わった態度というべきである。

 しかも加えてすっと再び胸の下辺りへ掲げたタブレットの板面に、何か文字叩こうとしている彼女――。


 余裕は当然残しつつも、それを見たザカリエが恐らく仮面の下で眉ひそめたのはまず間違いない。気持ち、玉座から身体を前の方へと乗り出したほどなのだから。


 (よし、やっと動いた……)


 そしてむろんその素振りを見逃すはずもなく、ミコナは心の内で少しだけほくそ笑んでいた。

 そう、今はとにかく相手のペースから、自分たちのそれへと変えるのが先決。そうして戦場が自らのものとなれば、二人の連携技もフルに発揮できる。

 いかなる強敵にも構わず対応できる、最強のコンビが。


 (さあ、勝負はこれから!)


 ……はたしてカタカタとリズミカルに指は止まることなく舞い踊り、そんな彼女の命令届けんと、刹那タブレットより獣たちへ光の信号が一斉に飛んでいったのだった。



 (!)


 その瞬間、広間入口傍にいたアクセルは突然起こった事象に思わず目を丸くしていた。

 あろうことか、玉座前、それまでザカリエ睨みつけていた二体の幻獣が互いに近づくと絡みあい、いやまさに融合し始めたのだ。しかも途端一段と輝きは増し、その光度は目に眩しいほど。

 まるでそのまま光の大爆発起こすかのような、凄まじい光景――そして二年間ミコナの戦いぶりはそれなりに見てきたが、そんな彼でもそれは全くもって知らぬ現象だったのである。


 (何だ、何が起こったんだ――)


 知らず、心の声も震え帯びている。

 ましてや玉座を中心として、いよいよ戦闘の空気は濃密さ増し――。

 対峙するは黒い鎧の男と、二人組の対ブレイカー専門ハンター。

 はたして一体、どちらが有利だというのか……。


 とはいえその自問に対する的確な答えが、単なる平凡な少年に見つかるいわれなどあるはずもなかった。

 できるのはただひたすら、忸怩(じくじ)たる思い抱えながらじっとその成り行き見守るのみなのだ。

 恐怖や不安と、どこまでも背中合わせの状態で。


 (ど、どうすれば……)


 もちろんそんな彼の怯懦(きょうだ)に満ちた呟きを慰めてくれる者など、今は探したところでどこにもいるはずなく、そしてやがて光の充溢は収まっていき――。


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