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50.背く者たち ②

 数分後、薄暗い部屋の中、アクセルは八人の男女に囲まれていた。

 夜道を駆け抜けやっと辿り着いたこの酒場の主人に、まだ息完全に治まらぬうち案内されてきた、その後のことである。むろん最初は老齢男性の主人も突然夜中やって来た見知らぬ少年修道士にあからさまなほど怪訝な表情見せたものの、しかし彼がある言葉を告げると途端驚きの色見せすんなり扉通したのだ。

 そして急ぎ連れられて行ったのが、店の一番奥まったところにある小さな部屋。門番役らしき男が一人扉を背に立ち、何やら中は厳重に守られている模様。

 かくて主人が彼に一言告げてから慎重に扉三回ノックすると、しばらくして中から鍵を開ける音がカチャリ聞こえて来た、という次第だった。



 「リンツの名を告げてきた、だと……?」


 リーダー格の男はむろん入ってきたアクセルを見るなり主人以上にまず訝しげな面現わしたが、しかし一緒に入室した老人が事情を手早く説明すると、途端その顔も違うものとなった。さらにそれは他の七人もまったく同様で、赤毛の女などははっきりと眼を丸くしたくらいである。

 よほどリンツの名が彼らの驚愕を誘った、ということらしい。

 しばらく誰も、何も言えない妙な時間が過ぎて行ったほどなのだから。


 「――どういう関係なんだ、君とあの子とは?」


 それでもやはり僅かな間の後、最初にそう問いを発したのはリーダーだった。

 九脚目の椅子に座らされたアクセルがすかさず張り詰めた視線で捉えたのも、当然その戦士の風格すら漂わせる顎髭の男に他ならない。

 彼は正面に座すそんな相手に対し、ゴクリと唾飲みこむと、ようやく口を開いていた。


 「行き場を失くしたあの男の子と、そして妹を今修道院で保護している者です」

 「! そうか」

 「そしてあなたがハウドさんですね、以前リンツに会いにサミュエル修道院を訪れた」


 確信とともにはっきり宣う少年。その瞳はむろん緊張感湛えながら、しかし同時に真摯な光にも溢れている。

 男――ハウドと呼ばれた人物がそれに対し真剣な面持ちで答えたのは、わざわざ言うまでもないことだった。

 

 「……リンツから聞いていたか。そうだ、私がハウド、この町で武器商人をしている」

 「そしてあなたは、リンツとリルカのご両親、つまりカルさんとメオナさん、ゴルディアスに歯向かい囚われた人たちの親友でもあった人」

 「――そこまで言うということは」


 そしてアクセルがさらに言葉を続けると、きらり、瞬間ハウドの瞳に烈しいまでの光が宿る。それは怒りとも闘志ともとれる、げに力強き輝き。


 瞬間それを見た少年が、思わず気圧されてしまったほどの。


 はたしてほんのひと時、そんな彼を試すように小さな間が置かれて……


 「……恐らく、我らが何の用でここに集まったのかも、十分分かっているようだな」


 やがて男はロウソクの火だけが辺りを照らす中、凄まじく固い意志のもと、はてしなく厳格にそう言い放ったのだった。



 アクセルは決して相手の気迫に押されぬよう、声に力をこめ答えていた。


 「もちろん。いえ、そもそもこの会合場所含めリンツがそれを話してくれたので……」

 

 これには知らず呆れたような笑みが零れるハウド。


 「あいつめ、誰にも口外するなと言っておいたのに……。まあ、君がよほどあの子に信頼されているという証左でもあるが」

 「……あなたは前に修道院を訪れリンツに会った時、両親のこと含め色々話されたそうですね? もちろん、今度の計画のことも」

 「うむ、あの兄妹の親は反乱軍の礎築いた大功労者。もっともそれが原因でゴルディアスに捕らえられてしまったが。――そして特にリンツはその勇敢なる二人の血を継ぐ以上、いずれその意志も引き継がなくてはならない。彼には未来の反乱軍を率いるべき責務があるのだ」

 「……」

 「たとえ我々が失敗したとしても。それゆえ彼には、蜂起するということは伝えてある」

 

 そして続けたのは、まるでもはや決定済みのような言だった。

 どうにも悲壮な口ぶりといい、彼にとっては、そう思うことでしかもう希望ある道は見出せない、ということなのだろう。

 だが、あたかもそうして自分たちの残したものを全てリンツ、そして彼を支える人々に無責任に任せんとするような態度は、当然アクセルをして必死に反論させるに充分なのだった。

 つと懇願するような光瞳に灯らせて。


 「でも、彼にも当然自ら選択する権利はあります。何より、妹のリルカを守るという務めがあるわけですし。そう、ゴルディアスに抗うだけがリンツの人生じゃなく、もっと別の道も……」

 「――ほう、まさかそんなことを言われるとは……。いや、そもそも君は一体何が目的でここへ来たというのだ? その口ぶりだとどうやら反乱に(くみ)する気もないようだが」

 

 はたしてそこでようやく、ハウドもアクセルが何を考えているのか微かに分かり出したようである。その表情が、かなり懐疑的なものへなっていったとすれば。


 「……目的、ですか」

 「そうだ。まさか物見遊山で来たわけでもあるまい」

 「……」


 そして冗談交じりながらも口調に険を乗せて男が宣ったその言葉は、アクセルをしてついにまなじり決して、ここへ訪れた真の目的の告白決意させるに至ったのだった。

 むろんハウドのみならず、他の七人も覆いかぶせるように耳、じっと傾け続ける中――。


 その声へ真摯にして、そして切なる願いまでしかと籠もらせて。


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