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29.訪れし者 ②

 「あ、何かすいません……」


 かくてテーブル対面の席に座す二人を見て、アクセルは何ともすまなそうな表情を浮かべていた。


 それは宿の店員に案内され、この部屋にやって来た、その直後のこと。

 むろん事前に予想のついたクロニカはいかにもにこやかに、そしてすんなり少年を迎え入れていたものの、対照的にロビーは彼を見た瞬間さすがに驚き隠せぬようであった。相棒からいくらか話は聞いていたとはいえ、何せ以前見かけた不思議な修道士だ。そんな彼が突然訪問してくるなど、およそ予想外きわまる事態だったのだろう。

 少年はしかも何か大事な話があるのか、入室して二人を目にした瞬間は、やたらと強く緊張した様子だった。自然ロビーとしてはどうにも声を掛けそびれ、結局椅子を勧めたのは今やそれなりに顔なじみへ昇格したクロニカの方となる。

 

 とはいえこれまでの経験上、彼女は目の前の修道士が所詮子供に過ぎぬと明らかに油断もしていたようで――。


 「あら、何いきなり謝ってんの? 悪いことなんか何もしてないわよ」

 「え、でも、どうやらお邪魔してしまったようで……」

 「え?」

 「せっかくお二人でいたのに――」

 「……お二人?」


 それゆえ謝りながらのそのか細い一言にこめられた思いがけなさは、彼女に相手がとんでもないマセた早とちりをしていると驚かせるに、まこと充分過ぎる攻撃力持っていたのである。



 「ハハハ、まさか私がロビーと(ねんご)ろな仲だとでも思ったの? そんなはずないじゃない。彼は仕事仲間」

 「いや、僕は何も……」

 「この部屋だって、泊っているのは間違いなく私一人。ただこの宿二人部屋しかないから、ベッドも二つあるだけなの」


 しかしてつかの間の絶句後響き渡ったその高らかな笑い声は、まさにアクセルの疑惑を一笑に付す、というやつだった。すなわち言外に、クロニカは隣にいる彼が完全なる恋愛対象外だと示してきたのである。

 むろん変な空気を招いてしまった少年としてもこれ以上つっこむつもりは皆無のはずで、とりあえず今のところお邪魔虫でなかったと否定してもらえれば、後は特に知る必要もない。相棒と紹介された件のロビーの沈黙が少し気にはなったようだが、いずれにせよ大人の事情に限りなく疎い人間の出る幕など、すでに遠く圏外へ去っていた。

 彼はそうして返事する代わりに何とはなしにうなずくことによって、一応了解の印表わしたのだ。


 「オーケー、変な誤解はもう解けたようね。ではそろそろ本題に入ろうかしら?」


 ――そして当然クロニカとしても、彼がここへ来た本当の目的をそろそろ知るに、まことやぶさかではなかったのである。


                  ◇


 相変わらず爽やかな風吹きこむ部屋の中、ロビーは大いに納得したように一人深くうなずくと、満足げに言った。


 「なるほど。以前クロニカが修道院へ伺った時、君はここの住所を聞いていたのか」


 それはひとまず場が落ち着きを取り戻し、互いの自己紹介も終わった後のこと。むろんその目はアクセルを向いたままだ。そう、彼はその訪問時の顛末(てんまつ)はだいたいクロニカから聞いていたが、その際この少年が連絡先を教えてもらっていたということまでは知らされていなかった。それゆえ色々な意味で疑問が湧いていたものの、それも今やすべて解消された、というわけである。


 「はい。とにかく何かあったら、ここを訪ねてくれと」

 「色々まだ話したいこともあったしね。でも、まさかこんなに早く来てくれるとは思わなかったわ」

 「その、僕の方も少し急いでいるので」


 一方あずき色の服まとった少年の方はそんなロビーをもう既知のようで、いきなりベッド二つの部屋に二人がいたことを除けば、特に驚いた風もなく彼に対応していた。もっとも言葉通り何やら緊急の案件は抱えてきたらしく、そう告げると椅子に座ったまま、ふと神妙な面持ちともなる。(はた)から見てもそれは明らかに何か大きな相談事を抱えていそうな雰囲気だったので、クロニカはむしろ声を穏やかにさせたほどだった。


 「ふうん。私たちに、相談でも持ってきたの?」

 「相談……というより、この前クロニカさんが話してくれた件についてです」

 「え、この前って、まさか」


 だが、続けて少年の放った言葉があまりに予想外だったため、一瞬クロニカは言葉を失ってしまう。何よりその青い瞳が宿すのは実に真摯な光――到底看過などできるわけもなく、はたして自然と息まで飲んでいる。傍らの相棒はまだよく事情が掴めないようだったが、いずれにせよもたらされたのは相当重要な発言のはずだった。


 「あのこと、なの?」


 それゆえ彼女は彼女で、そんな相手に正面から対応しようと、次には真剣な面差し現わさざるをえない。そうした反応をさせたくらい、ことほど左様にいつしか事態はめくるめく急展開見せつつあった。


 「はい。クロニカさんが、宮殿に行きたいと仰っていた、あの件です」


 ――何よりアクセルが、意を決してそう告白したのだから。



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