6話 この体の主
「契約の前に、聞きたいことがある。」
「ええ、なんなりと。」
「この体の娘についてだ。」
「お気づきになったかもしれませんが、
皇帝陛下の愛人です。」
なるほど、やはり。
よく聞く展開…
…、
…なんか、よくある中世ヨーロッパ風恋愛物語的な
まともな皇后vsうざい愛人と馬鹿な皇帝っぽいな。
「名はルクリア・グラティッシマ
グラティッシマは陛下の忠臣の姓で、養女となって手に入れたのです。
生まれはピンセアナ家。田舎の男爵です。」
ごめん、横文字の名前続くとわかんないや。
「陛下は4年に1度、地方へ出向いて国中を見て回るのですが
去年その視察の折 ある城に泊まり、どこぞの男爵の娘と仲良くなったそうで
宮殿にまで連れ帰ってきたのです。」
あ~はいはい。
「それはそれは仲睦まじい様子で腕を組んでほほ笑みあいながら
わたくしに紹介なさいました。」
怒ってるねえ…
「わたくしと陛下は当然、家同士そして、国の行く末を担って夫婦となりました。」
はいはい。
「決して恋愛をしていたわけではございませんし」
そうでしょうねえ。
「皇帝が皇后以外の女を見初めることなど珍しいことでもありませんから
まあ、こういうこともあるかと思っておりました。」
読者目線でもここからイライラし始めるんよ。
これを直にやられたらと思うと本当に気の毒。
「しかしあの女、宮廷に住み着いた挙句に
無理矢理高位貴族の爵位までねだって
皇室主催のパーティーに何食わぬ顔で出てくるようになったのです。」
うんうん。
まあよくある展開ね…
身の程知らずの愛人が、皇后の領域に踏み込んできて皇后の顔に泥を塗った、と。
ここでプッツンと切れた皇后がやり返すのがメインの物語で
そのクライマックスの直前に私が割り込んできちゃったってことか。
「ふむ。
だいたい、どういう関係かは分かった。
この身体の年齢は?」
「16だったかと。」
若!
高校生じゃん。
皇后はいくつぐらいだろう…
さっき見た所23~26歳…くらいか。
うん、現代に置き換えて考えるのはやめよう。
「どういう性格だ?」
「身の程知らずで、」
知ってる。
「ワガママ。」
分かるよ~
「あざとく、教養がない。」
私が読んでいた漫画や小説によくある展開だな。
皇帝にも愛人にもちゃんとムカつけて、
皇后にはちゃんと共感できる。
「ワシはそいつのフリをして過ごすことになりそうだからな…
もう少し具体的な行動を教えてくれ。
例えばホラ
甘えた声で皇帝にいつもへばりついてるとか」
「ええ。」
「自分のことを名前で呼ぶとか」
「その通りです。
さすが、悪魔様。
なんでもお見通しなのですね。」
何パターンも読んだよ。
そういうやつに皇帝が騙されて、なんやかんやで結局皇后は死刑。
そして気が付いたら10年前に戻っていて?!
みたいなやつでしょ。
「皇后は人生2回目だったりするのか?」
キョトンとされた…
違うのか。
「それは、いったい…」
「気にしなくていい。」
「…ええ、分かりました。」
違った。
離婚した後でスパダリに出会ってめっちゃ幸せになるパターンのやつや。
はあ…
私はそれから、そのぶりっ子の真似をして過ごせばいいのか?
これから…帰る方法を見つけるまで?
…うーん、地獄だ。
嫌だよ。
心にもない甘ったれた声出すの…
無理だよ…
私はそういう女に近づきたくもないのに、なんで自分がそのぶりっ子にならなきゃいけないんだ…
「黒魔術師がどうのこうのってさ、
皇帝とかここにいる人は知ってるんでしょ?」
「ええ。皇帝の耳には入っています。
宮廷の者たちも、貴族たちにもいずれ知られることになるでしょうね。」
「じゃあ、記憶がないってことにしていい?
黒魔術になんかされて、自分が誰かも分かんなくなっちゃったって設定で。」
「そうですね…
下手に本人のふりをするより、その方が安全なのかもしれませんが…」
ルクリアという名前は花から持ってきてます。
低木の薄桃色のお花で、家名として使用したグラティッシマやピンセアナは、ルクリアの品種の名前です。
皇后の名前がダリア
侍女がエビネ
なので、花の名前シリーズね~と予想している方がいたら大正解!
今後出てくる横文字の名前もほとんど花由来です。