2話 悪魔は嘘をつく
「…!あ、あなたは…、悪魔スルク様でしょうか…」
黒いローブの女たちの顔は怯えに変化していた。
悪魔って言ったらサタンくらいしか聞いたことないぞ。
スルク??なんだそりゃあ…
下手に知ってるフリしても墓穴を掘るかもしれない…
「さあな。」
よし。
ちょっと悪魔っぽいやろ。
「…教えていただけないということですか。」
「教えて何になる。」
大丈夫大丈夫。
「さ、先ほど、私たちはその女に悪魔スルク様の加護の印を授かれるよう、儀式を執り行いました!」
声を裏返らせながら喋った女は焦りと不安とでおかしな顔をしている。
私、役者でもなんでもないけど、めっちゃ怖がってるじゃんか…
なんか、申し訳ないような…いやこれでいいのか…
その女を落ち着けるように、もう一方の女はすっと手を握った。
こっちは、相方がテンパっている分冷静になったのか、肝の据わった顔つきになりつつある。
冷静なやつは手ごわいぞ…
「加護は無くても構いません。その女に印を授けてくださいませ。」
印…
そうか。
服を脱がせていたのは、儀式の後に印が出来たか確かめるためだったのか。
「…。」
なんといえば良いのか迷って、私はただポーカーフェイスを決め込んだ。
マジックのように印をすっと出現させることなんて出来ないし
求めている印がどんなものなのか想像もつかない。
沈黙がさっと取り囲むように冷えた空気。
ふうと吐き出した呼吸の音でさえ大きく聞こえた。
「スルク様の印でも、そうでなくても構いません。
悪魔の印であれば良いのです。」
「嫌だ。」
出来ない、とは言わない。
焦った女は、隣の冷静な女をちらちらと伺っている。
そういえばさっき、この冷静な方を皇后と言っていたな。
「それは困りました。
わたくし達はそのためにこのような儀式をしたというのに…」
「何故ワシがお前たちの願いを叶えてやらねばならんのだ」
皇后(仮)と視線が交じり合い、目を反らせない。
目を反らせれば負ける。
「だって…!あ、あの本にはそう書いてありました!」
「声を抑えなさい。」
「あ、す、すみません、」
上下関係が明らかになった。
冷静な方を皇后、焦っている方を侍女とみて良さそうだ。
「その本の信憑性は?
おまえ自身で試したことがあるのか?」
「い、いえ…」
よし、こっちの侍女は私に騙されている。
問題は皇后…
「でしたら、お帰りください。」
それでいいのか?と言いたげに侍女が皇后を見つめるが
皇后は私から目を反らさない。
帰れと言われてもな、私にはどうしたらいいのか分からない。
「その本に帰らせる方法がのっているんじゃないのか?」
侍女の手をぱっと放して、皇后は持っている燭台を侍女に渡す。
小さな台に置かれたその本を手に取るが
「一通り目を通したはずですが、お帰りいただくための儀式は記載されていたようには思えません。」
なん、だと…
皇后の目線が鋭くなる。
一瞬気が緩んで私のポーカーフェイスが崩れていたのかもしれない。
まずい…
「余程考えなしにワシを呼び出したようだな?」
怒気を感じさせるように出した声は上出来で、侍女は後ずさった。
侍女の持つ燭台の炎がぼうっと燃え上がる。
皇后の鋭い視線に押し負けぬよう、私も睨みつけた。
悪魔スルクの元ネタは、トリカブトです。
アイヌの人たちはトリカブトをスルクと読んでいたらしい(Wikipediaより)
スルクのルは小文字のルみたいなんですが、変換する方法が分からないので大文字にしています。