1話 冷たい地下室
薄暗い部屋、冷たく反響する靴音、衣擦れの音。
黒いローブを被った2人の女が荒々しい手つきで、床に寝ている女の衣服を脱がせていて
それを私は監視カメラのように上から眺めていた。
石の床に寝る女の意識はないようで、手足や首をだらりと垂らしてなすがままになっている。
衣服を剝ぎ取った女たちは、隅々まで体を眺めて何かを探しているようだった。
部屋には外からの光は入って来ず、1人が燭台をかざして女の裸を照らしている。
炎がゆらゆらと女たちと部屋を橙に染めては女たちの影が大きく壁に映し出されている。
ローブの下には腰からボリュームのあるドレスを着ているようで、そのせいで光が遮られて床までは届かず全体が良く見えない。
が、床にも湿った何かが鈍く反射して、何かの紋章を思わせるような、やや規則的なパターンがある。
「どこにも、ありません…」
「ええ…そのようね。」
服を剝ぎ取った方の女たちは大きなため息を吐いて憔悴した表情をしていた。
「…生きてはいるようね、」
衣服を剥ぎ取られ、床に横たわったまま女の胸はゆっくりと上下している。
何をしているんだろう。
そう思った瞬間、何かとてつもなく強い力に引っ張られるような感覚がして
ぎゅっと閉じていた目を、開けた。
今度は驚いた顔の2人の女が、私を見下ろしている。
視点が変わった…
私を見下ろすこの女たちは、さっきまで私が俯瞰してみていたあの女たち…?
それならば私は…
自分の体を見ると、やはり裸体だ。
冷え切った足先がジンジンした。
低くなった視線からは、床に描かれた湿った紋章が血のように赤いことや、牛の頭、液体の入った桶や分厚く古めかしい本が見えた。
ああ。
なんか、これは絶対。
悪魔崇拝的な、黒魔術的なやつをしている。
この2人の女は…私、この裸体の女に何か悪魔かなんかを憑りつかせようとしていた、とか?
そして何かの間違いか、憑りついたのが私ということか…
え?なんだそりゃ。
いや、それしかないよね。
自分が混乱しているのか冷静に判断しているのか分からないが、凍える体からの感覚は私が生きていることをありありと感じさせた。
「…皇后様ッ」
消え入りそうなその声は、もう1人の女に助けを求めていた。
皇后…
再び彼女たちを見上げると、鋭い目つきで睨みつけられた。
この緊迫した状況…
私、この女たちに殺されてもおかしくない。
とにかく、この状況を打破する必要がある。
先手必勝。
ブラフでもいい。
「わしを呼び出したのはお前たちだな?」
いけるか…
「…!あ、あなたは…、悪魔スルク様でしょうか…」
よし。
乗ってきた。
そしてこの怯え顔…
推しきれそうだ。
はったりをかませ!私…!