見えないけど確かにあるもの
あれから海の仕掛けた罠を回ったが、成果は小さなカナブン一匹だけだった。
海は落ち込むどころか謎に対抗心を燃やし、“どんな虫でも虜になってしまう罠をいつか必ず開発してやる”と意気込んでいる。
少し休憩した後に海の案内で例の一本竹へと向かった。
林の奥へと進むに連れて木立は繁り、いよいよ夕暮れ時と変わらない程の暗さになったが、ある開けた場所に出るとそこだけ木々は繁っておらず、降り注ぐ日の光がとても神秘的だった。
そして、その日光の中に立つ一本の竹こそが、海の話していた“一本竹”だった。
一本竹は今までに見た竹とは比べ物にならないほどに空高く、太くしっかりとしていた。
何処からか川のせせらぎが聞こえてくる。
辺りを見渡したが、川らしきものは無かった。
海が不思議そうに言う。
「 あの小川の上流は確かにこの林の中にあるんだ。せせらぎも聞こえる」
「でも…」
「そう、見えないんだ。この辺の大人や都会の研究者がこの林の中を探して回ったが、上流らしいものを見付けることが出来なかったらしい」
不思議な話だ。しかし、それが綺麗で、謎だからこそ神秘的で。
そして、これからも解明されずにあって欲しいとも思った。
そんな俺の表情を見て、海が呟く。
「私も、謎は謎のままが良いな」
しばらくしてその林を後にし、例のミカン畑に向かった。
ミカンの葉っぱにはアゲハチョウのタマゴが付いていた。
そのまま千切り摂るわけにはいかないと思い付近に建っている小屋を訪れたが、既に廃墟と化していた。
管理者はもういないだろうから、一枚二枚千切ってもバチは当たらないだろう。という海の後押しもあり、結局タマゴの付いた葉と餌になる葉っぱ数枚を虫かごに入れて帰ることにした。