出会い
目の前に女の子が一人突っ立っていた。
日に焼けた健康そうな小麦色の肌。黒髪のウルフカットにシャツと短パン。
年齢は俺と同じくらいだろうか。
「お前、今日こっちに来たんだろ? 」
色々唐突すぎてしばらく口が開かなかった。
そして、やっとの思いで呟いた返事は、
「うん」
「やっぱり。笹水駅に知らない子がいるなと思ってさ。あ、いや、尾けてきた訳じゃないからな。散歩してたらたまたま…」
「…」
「怒ってる?」
いや、驚きすぎて声が出ないだけだ。
しばらく固まってると女の子が何か閃いたかのように言った。
「そうだっ、案内してやろうか?どうせ暇だし」
「い、いや、いいよ。観光する訳じゃないし、駄菓子屋に行くだけだし」
「じゃ、尚更だ。私も丁度何か飲みたいとこだったし」
まぁいいか。
あ…
「もしかして、奢…」
「え?私がお前に奢るのか?」
「いや、逆…」
「あっははは!私だって自分のもんぐらい自分で買うさ!気にすんなっ」
良かった。
女の子が言う。
「それじゃ、行こ!」
二人で並んで歩いてると、女の子が先に口を開いた。
「お前、名前は?何処から来た?」
「俺は平助。潮沢 平助。山須から来た」
「よろしくな、平助。ふーん、山須かぁ。良いじゃん、都会だろ?」
「いや、こことあまり変わらないよ。でもまぁ、確かにこっちの方がもっと田舎な気もするけど」
「だろ?ここより田舎なとこあるわけ無いよな」
“山須”ってのが俺の地元なんだ。
女の子が続ける。
「そういや、私の自己紹介がまだだったな。私は海。美津那 海だ。よろしくな」
「え、う、海?」
「あぁ、海だ」
珍しい名前だった。そして、綺麗な名前だなとも思った。
だが、あまり詮索はしないでおこう。ちょっと失礼な気もするから。
しばらく肩を並べてとぼとぼ歩いていると、お目当ての駄菓子屋が見えてきた。
昭和を思わせる色褪せた看板が時代を感じさせる。
俺は海について引き戸から店内に入った。
「わお…」
まるでお菓子の王国だった。
小さな商品棚に様々な種類の駄菓子がところ狭しと置かれていた。
冷蔵庫には見たこと無いカラフルな瓶ジュースが並べられている。
勿論、お目当てのラムネもあった。
冷蔵庫を開けて一本手に取る。うん、キンキンに冷えている。
海はさっきから両手に“ヨーグレット”と“ハイレモン”を持って見比べていた。
「なあ、平助。どっちがオススメ?前から気にはなってたんだけど、私、この手のお菓子食べたことないんだ」
“ヨーグレット”と“ハイレモン”は錠剤を大きくした見た目の駄菓子で、この二種はヨーグルト味かレモン味かの違いがあるだけだ。
俺も幼い頃に食べたことがある。
コーラ味とかもあった気がする。
味には好みがあるし、取り敢えず無難な選び方を提案することにした。
「甘さが欲しいならヨーグルト味、スッキリしたいならレモン味かな」
「ふーん。じゃ、両方買うか」
両方買うなら何で聞いたんだ。
彼女と入れ替わりで今度は俺が駄菓子を選ぶ。
ラムネだけ買ってそのまま帰るつもりだったが、まぁ、駄菓子もあった方がラムネも倍美味しく感じられるかもしれないから。
俺が選んだのはカルパスと五円玉チョコだ。
懐かしい、これもよく低学年の頃に食べていた。
ただ、この季節にチョコは少しリスクがあった。
早く食べなければ溶けてしまいかねない。
俺達は会計済ませ、店の外へ出る。
良かった。やっぱりベンチがある。
ホッとして腰を降ろそうとしたときに、海が言った。
「そうだ、海で食べようぜ。ちょっと遠いけど」