お邪魔します
「さ、おいで」
じいちゃんの後を着いて門を潜ると、ほのかな土と草の匂いが鼻をくすぐった。
小さな飛び石の上を歩き、玄関を潜ると、懐かしい香りがした。
じいちゃんの家の匂いはやっぱり好きだ。
最後にこの家を訪れたのが小学一年生の頃だったが、あの時と何もかもが全く変わっていなかった。
そう、この匂いでさえも。
靴を脱いでじいちゃんの後についていく。
リビング、食卓、トイレ、風呂場。
どの場所も古いが、どこか懐かしい雰囲気が漂っていた。
そして、新しく(夏休みの間だけだが)俺の部屋となる場所へ向かう。
そこには小さな簡易用のベッドと机が置いてあり、隅に小さなテレビもあった。
そして、最後に仏間に案内された。
小さな仏壇の前に一枚の白黒写真があった。
今の時代とはまた違う美しさを漂わせる女性だった。
誰かは知っている。
ばあちゃんだ。
もちろん、会った事はない。
ばあちゃんは俺が産まれるずっと昔、三十ちょっとで亡くなったと聞いてる。
父さんを産んで、しばらくして病気で亡くなったんだ。
「何見とれてんだ、平助」
じいちゃんが笑いながら仏間に入ってきた。
「せっかく来たけん。線香でも上げて挨拶しとき」
「うん」
教わるがままにろうそくに火を灯し、線香を焚いて手を合わせる。
(ばあちゃん、平助です。夏休みの間だけお世話になります)
おっと危ない。忘れるとこだった。
俺は土産の水羊羹をデパートの袋から取り出した。
「じいちゃん、これ。母さんと父さんから」
「ほぉ~、美味そうな水ようかんばいた。ありがとさん。じゃ、お先に、よっ…」
じいちゃんは受け取った水ようかんをばあちゃんの仏壇に供えた。