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懐かしい声

笹水(ささみず)ー。笹水ー。」



降りるべき駅名の車内アナウンスで目が覚める。


ゆっくり景色を堪能していたいところだが、次第に減速しつつある車輪のリズムが俺を静かに焦らせる。


荷台から荷物を担ぎ上げ、乗降口に立つ。


最後に座席や荷台を見やり、忘れ物が無いかを確認してから俺は笹水駅に降り立った。



俺の家がある地域もまぁまぁ田舎寄りではあったが、ここは正に田舎の中の田舎という感じだ。


この古びた無人駅の他には、


田園、自販機、錆びたバス停…


以上。


本当に何もなかった。



「そういえば」



ふと思い出し、さっきの母さんからの便箋を広げてみる。

微かな記憶はドンピシャリ。文章の最後に電話番号と小さなメモ書きが添えられていた。



『おじいちゃん家の電話番号。駅についたら公衆電話かけて迎えに来てもらいなさい。テレフォンカード持ってるでしょ?』



テレフォンカードは財布の中だ。


同じクラスの中にはキッズ携帯を持ってる奴がチラホラ居るが、俺はこの通りテレフォンカードしか持ってない。

父さんが結構厳しくて、少なくとも中学を卒業するまでは買って貰えない事になってる。

子どもはテレフォンカードで十分だってさ。


3回目のコールの後、懐かしい声が受話器から聞こえてきた。



『はい、潮沢です』


「じいちゃん?」


『ほぉ~、その声は平助か。凛々しか声になっとるばいねぇ』


「へへっ」


『お母さんから連絡があってからたいね。平助がこっちさん着いたら一報寄越すやろけん、て。時間的に今笹水さん着いたとこか?』


「うん」


『解った解った。今から行くけん、ちょ、待っとき』



プツン。


切れた。



「はぁ…」



受話器を戻しながら軽くため息をつく。

相変わらずじいちゃんの方言はクセが強い。注意して聞かないと、とてもじゃないが理解出来ない。


ふと、喉が渇いてる事に気付いた。


そういえばあのお握りを食べた後から水一滴も飲んでいなかった。

自販機にはコーラ、オレンジジュース、水、お茶、ポカリスエット。

王道だな。シンプル イズ ベスト。




バス停のベンチに座り、コーラのペットボトルをプシュッと開ける。

それに呼応するように遠くに見える林からセミの合唱が聞こえてくる。


一気に喉に流し込むと、激しい清涼感が火照った体内を巡り渡る。


そうそう、夏休みとはこうでなくちゃいけない。


涼しい部屋でゲームするのも悪くはないが、暑さの中で冷たいコーラってのがこの季節を楽しむ最高のシチュエーションなんだ。




本当にのどかだなって思う。


セミの合唱はいつの間にか止んでおり、代わりに二羽のアゲハチョウが静かに舞っている。

時折吹く風は暑くも涼しい。


のんびり入り浸る俺の耳に車の音が響いてきた。



白の軽トラ。じいちゃんだ。

目の前で停まり、運転席の中からじいちゃんが手を振る。



「平助ぇ!久し振りやねぇ。大きくなっなたぁ。暑かろ?はよ乗りんさい!」


「うん!」



ベンチから荷物を掴み、助手席に上がり込む。

戸を閉めた途端に再び走り出す軽トラ。




さぁ、楽しい夏休みの始まりだ!

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