表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/24

-Chapter7-

松岡千秋です。

よろしくお願い致します。

-Chapter7-


さて、目の前の三人は復讐代行屋の一味だ。私は善良な一般市民。

滅多に顔を出さない不愛想なマスターが"秘密の茶会"を開くとか言い出した。


茶会、アリス、白ウサギ。なるほど。そういえば喫茶店の名前は「Carroll」だ。

それぞれが"アレ"にちなんだ名前を持っているとみた。

「人の心を弄ぶ質の悪いフォークロア」というのはあながち間違っていなかったわけだ。


推測と整理を重ねていると"カランカラン"と静かに、伺いをたてるようにドアベルが鳴る。


……?また妙な男だ。

「妙な男」の人口密度は全世界でここが一番高いだろう。


「あー、と。一通りは終わった感じかな?」


気怠さと艶を織り交ぜた声で男は尋ねる。

どうやらコイツも仲間らしい。

前をカッキリと閉めたベージュのトレンチコートに同色のハット帽。

……嘘でしょ。この恰好で刑事じゃなければ変態かコスプレイヤーだ。


「時間には遅れてるが、確かに良い頃合いだ。

 手短に。コイツは警察官、そっちは常連さん。」


だろうな。

マスターはご丁寧に私に話を振ってくれる。

名前は……帽子屋とかか?


「初めまして。まあアレだ。キャップとでも呼んでくれ。」


ほらな、当たった。私だって伊達にミステリードラマをみてないぞ。


「君には聞きたい事も、聞かれてマズい事もあるが……」


そういって他の変人男性に伺いを立てる。


「OK、なるほど。そういう方向ね。

 ……端折っていくけどついてきてくれよ?」


そう言って彼は話し出す。やはり優木孝也の件だ。


「申し訳ないけど、僕は一課の人間じゃない。

 つまりは管轄外だ。だけど、一応の当たりはついた。」


「誰だ?」


どうやら、話の流れはマスターが仕切っている。

ということは彼がこのチームのリーダーなのだろう。


「……安い半グレ集団だよ。信念の無い、何でも屋。

 僕らとは、同じ穴のムジナかもね。」


「顔見知りの犯行ではないと。

 ……ふむ、それでキャップ。ドッグタグはみつかったのかい?」


序列としてはマスター≧白ウサギ=キャップってところか。

リズちゃんは……わからない。


「いや、それはまだ……。

 資産管理のご時世に強盗とは考えづらい。

 きっとそれが鍵になってくるだろう。」


「優木孝也の勤め先は?」


「それがさ、彼はどうやらエンジニアらしくて。

 会社は解ったけど、部署がどことか何をしてたかとか、その辺はまだね。」


「強盗でも怨恨でもない。ただの親父狩りにしては異常な上に不可解だ。」


「リズちゃ……あー。

 アリスちゃんの方から、タグのGPSとか辿れないの?」


……?リズちゃん、GPS…?

キャップの言葉を加味して思考する。


「え、と……それは、モデルにもよるし、

 解析に、掛かる時間を、考えると、得られる成果は、割に合わないかも……

 それに多分、もう……破壊されてると、思うし、無理そう、かな。」


強く目を瞑る。なるほど。

リズちゃんことアリスちゃんが、「チームの中のインターネットに精通した奴」。

私を"トラップ"に掛けた張本人だったのか……


しかし。それにしたって彼女の表情には不可解な所が多い。

白ウサギに連れてこられたときの反応も腑に落ちない。


「……それくらいか。ありがとうキャップ。

 しかし、管轄外なのに、よく尻尾が掴めたな?」


「ん?ほら、僕って優秀だから。」


復讐屋、ホームレス、ウェイトレス、警察官。そして私は一般人。

その異様な光景は、私を取り残して世界が吹っ飛んでいったようだ。


「それじゃ、茶会はここまでだ。」


「あの!!」


思わず待ったを掛ける。


「私は……」


彼らはお互いに顔を見合わせる。

まさかこいつら、私を忘れていたとでもいうのか。


「あー……ううん……」


「ふむ……」


スーツとトレンチは悩んだ振りをしながらそっぽを向く。

リズちゃんに決定権はないだろう。だとすると……


「……瞳さんは、もう依頼をしたんですね?」


「ああ。」


素っ気なくマスターは答え、そのまま言葉を続ける。


「だからお前は、そのまま帰れ。

 いままでと変わりない日常に。

 そして、ここには二度と、来るな。」


なに?ふざけるな。

アレだけ白ウサギと問答をしたのに今更なんだというんだ。


「ね、千紗ちゃん……」


不安を浮かべた看板娘は私の袖を取る。


……そうか。

いままでのこの娘の表情は――ー


「お願い、"こっち側"には、来ないで。」


私の身を案じてくれていたのか。


「千紗ちゃんには、笑っていて、欲しいの。

 変わらないままに、私の"日常"でいて欲しい……」


この娘は自分の平穏の象徴として、私を好いてくれていたんだ。

それでも、私は。


「ごめんね、リズちゃん。

 私は自分の納得の行くように生きていたい。

 貴女の平穏は絶対に壊れない。私は貴女の側にいるよ。」


これじゃまるでプロポーズだ。

きっと彼女は異常な世界から、私を守ってくれようとした。

落ち込んでいる時も、自分の苦しみのように寄り添ってくれた。

私に、不器用な優しさを向けてくれた。


この優しさは、私が誰かに向ける番だ。


決意の眼差しはマスターを折れさせることに成功したようだ。

きっと、彼も。私とリズちゃんのためを思って冷たく言ったのだろう。


「……わかった。なら手伝ってくれ。

 もちろん、殺しはさせない。それは約束する。

 君の納得するところまで、俺たちを助けてくれ。


 ……きっと君は、彼女が生きていく為の、最後の希望となるべき人間だ。」


ああ、この人も優しい人間なんだろう。

リズちゃんも、白ウサギも。おそらくキャップも。

"人を想う気持ち"の使い方が絶望的に下手な人間たち。

歪な形でしか人を守れない狂人。


私も、同じなんだ。


「ちょちょちょ、え?待って待って。

 ……いやーさすがにまだ仲間じゃなかったなら、僕の話色々マズかったんだけど……」


馬鹿警察官め、水を差すな。


「そういえば、なんで警察官なのに復讐屋に?」


「んー……僕にもいろいろ、事情があるのさ。」


シャシャリ出てきて濁すな。


「あ!マスターにも名前があるんですよね?その……コードネーム的な……」


「ん?ああ……」


私はまだ、迷いを捨てきれていないかもしれない。

きっとマスターも揺れていた。


白ウサギに言った、私の言葉を信じたかったから、キャップの捜査状況を聞かせた。

私が、迷いながらも前に進めるか。

自分の目で、耳で、私の事を確かめた。


きっと名前を聞いてしまったら、もう戻れない。

自分の為、誰かの為。希望という無形を観測するために、前へと進む――


「俺は、カイコだ。」

何卒、よろしくお願い申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ