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-Chapter21-

-Chapter21-


『アルフレッド・ネイピア』


カイコの"元同僚"。

優木孝也を殺害し、大規模テロを引き起こした"悪魔"。


そして、私の運命を大きく動かした張本人。


「ああ……」


こいつは日本を混乱に陥れた。

騒動が終われば、これからも沢山の人間を殺すのだろう。


「ああ……!」


なるほど。私は怒っているのか。

怒りも悲しみもコントロール出来るようになったと思ったが、どうや


「殺してやる!!」


カイコより先に、私は動いていた。

しかしそれよりも更に早く、リズちゃんが私に飛び込んきた。


「ダメ!チェシャ、チェ、シャ……千紗!!」


暴れる私を取り押さえながらリズちゃんは叫ぶ。

……ダメだ、彼女をぶん殴って引き剥がすようなことはできない。


「ごめ、ごめ……ね……

 千紗ちゃ、わた、が……止められ、れば……」


どうか、泣かないで。私のせいで、ごめんね。

貴女が辛そうにしていると、私の心臓はピアノ線で縛られたみたいになるの。


「おいおいおい、こりゃ目の保養になるな。

 女同士ってのも思ったよか悪くない。」


……奴は私たちを撃たない。この状況を楽しんでるみたいだ。

コイツの娯楽は、酒と女と殺しなのだろう。


「……ネイピア。」


「誰が喋っていいつったこのクソ野郎!」


カイコは彼に相当嫌われているようだ。

過去にいったいなにがあったのだろうか?


私は左手でリズを宥めながら背後へとやる。

そして、右手で銃を握り込む。


「お前らコイツが何をしたか知らないのか?」


……まさか私に振るのか?この流れで?


答えは……無言だ。


「おい、答えろ!」


ああ、クソ!アメリカ人はいつの時代もこうなのか?

二言目には鉄砲だ。無暗にバカスカ撃ちやがって。


「……知らない。」


「おい、カイコ!仲間にはちゃんと教えとけよ!

 それが"ファミリー"だろ!センセイから教わったことを忘れたか!」


彼らは銃を突きつけ合っている。

私たちへ向けての発砲は、威嚇だとわかっていた。


だから、動かなかった。


しかし、カイコは。なぜ彼は撃たなかった?

私たちに発砲した間に、奴に銃弾を浴びせることは容易だったはずだ。


……ネイピアに対しての感情が、彼に撃たせなかった?


ネイピアは息を大きく吸う。

それを吐き切った頃には、言葉を紡ぐ準備ができたようだ。


「……お前が言わないなら俺が言ってやる。

 コイツはな、アメリカを裏切った。

 "家族"を殺したクソ野郎だ!」


ここでいう"家族"は白ウサギが言ったそれと同義だろう。


奴は静かに、話を続ける。


「なあ、俺たちはチームだったよな。大戦中は色んなとこに行った。

 中国、ロシア、自由のためなら誰だって殺した。

 食って寝て殺して、酒を飲みながらポーカーもやった。

 もちろん抱いた女の数だって互いに知ってる。」


まったくもって想像が出来ない。

奴とカイコが、下世話な話題を忌憚なく語り合う"家族"だったと?


「その日何人殺したかも競い合ったよなあ……

 だが、コイツは。大戦が終わって変わった。


 このクソ野郎は!自分の信じるクソみたいな自由の為に!


 仲間を……"家族"を……皆殺しにしやがった!!

 センセイを含めた十二人、俺を除いた全員を、殺した……」


カイコの信じた自由とは、なんだったのだろう。

寝食を共にした仲間を殺してまで、手に入れたかったものなのだろうか?


「……俺を裏切ったのはアメリカだ。」


「その報復に"家族"を殺したってのか?」


「俺たちは存在してはいけない、過去の、遺物だ……!」


「ならお前から死ねば良かっただろ!!」


言いたくはないが、ネイピアの怒りはもっともだ。


「……"家族"を殺して、アメリカは変わったか?

 核の爪痕も、俺たちが殺した人間も、お前の個人的な傷も!

 なにも元には戻らない。それでもアメリカは自由の国でいなきゃならない!」


「その自由の国が監視社会を容認した!」


監視社会……個人識別と資産管理。

日本もアメリカも昔から国民に番号は振っていた。

それらを基盤にして、世界的に導入されたシステム。

いまの世界は、昔のフィクションでいう「ディストピア」に、首まで浸かっている。


「……それだけか、それだけで殺したのか?」


「アメリカは、間違っている……」


≪正しいも間違ってるもない。


 みんな、生きているだけで幸せなはずだった。


 自由な者にしかいまの世界は、アメリカは救えない。≫


ああ、あの、倉庫で出会ったアメリカ人の言葉が脳裏に蘇る。

顔も思い出せないと思っていたが、彼の言葉は、私の胸を深く突き刺していたのか。


「……ほざくなよ、祖国を売ったクソ野郎が。

 犬に飼われるのはどんな気持ちだ。」


「"首輪"もまともに付けられなくなった"老いぼれ"よりはマシだ。」


「犬に情が湧いたか?」


『カイコはクイーンのもとで「日本の為」に汚れ仕事を請け負っている。』


そう、思っていたが違う。ただの相利共生だ。

彼の本当の奉仕先は……最も大事な"祖国"だ――


「……最後に聞かせろ。なぜ、アメリカを捨てた?」


「それは、違う。

 アメリカが、世界の手を払いのけた。」


「それでもだ!俺たちの、故郷だろ……!」


「……ふるさとはもうない。アメリカは、あの日死んだ。」


彼はきっと、このままではどうしようもないと悟ったのだろう。

信じた自由の為に払った犠牲。"核の過ち"、殺した人間、己の傷跡。


そのすべてが無駄に思えたのだろう。


"家族"を殺したのは、犠牲への贖罪だったのかもしれない。

……もしくは、その十字架を背負うのは自分だけでいいと、驕り高ぶった結果なのかもしれない。


「俺たちは同じ"過ち"を繰り返した。

 だがこの国は……日本は、痛みを知っている。

 だから、生き残った……!

 俺たちはもう、守られる立場なんだ――」


私たちは、当事者であったはずなのに。忘れていた。


世界は今度こそ、忘れてはいけない。

絶対に、忘れてはいけない。


ああ、全て、すべて。

――私が殺した、その命も。


「忘れたか!俺たちは国の為に戦ってきた!

 俺も、お前もだ……!取り戻せばいい!また自由の為に、戦え……!」


「時代は変わったんだ。過去の自由はもう、どこにもない。」


「あるさ!たったいま俺が、取り戻した!」


「ないんだ……!もう、俺たちの信じた、アメリカは。

 俺は日本と共に死ぬ。かつてのアメリカとは違う、正しい"自由"へ導くために。

 

 ……そのためなら、過去の"祖国"を捨ててでも、未来の"祖国"のために生きる。」


誰よりも国を愛し、人を愛し、世界を愛している。

同じ過ちを繰り返さぬよう、正しくあろうとしている。


どれだけその身が汚れても、世界が敵に回ろうとも。


巻き戻らない時計の針を、正しく進めるために。

――彼は、精巧な歯車になろうとしている。


「……ああ、そうか。なら精々、アメリカのために死ね。

 お前はきっと後悔する。日本は崩壊し、世界は再び、混沌に足を突っ込む。


 アメリカは死なない。……死ねないんだよ、クソ野郎。」


カットの掛け声は銃声だった


自分の頭を撃ち抜き、彼の物語は幕を下ろした。


――私たちは地上へと戻った。

エンドロールだというのに、耳障りな拍手は既に止んでいた。


……ネイピアが何を想い、何を憂い、何のために死んでいったのか。


私にはわからない。

おそらく、この先も絶対に。

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