-Chapter20-
松岡千秋です。
よろしくお願い致します。
-Chapter20-
サーバールームへの扉は開かれた。
アリスはメインコンピューターにハッキングをしている。
……これが止まれば、爆発騒ぎは止む。
――実に静かだ。
奴らはもう、しばらくの間……
いや、いまは時間の感覚なんてまともじゃないが。
ともかく、奴らは来なくなった。
「ごめんね、ごめんね……」
「大丈夫だよ、アリス。私は大丈夫。」
彼女はずっと謝っている。
きっとカイコと同じ気持ちなのだろう。
しかし、私は冷静だ。極めて冷静そのものだ。
初めて錠剤を飲んだ時、初めて注射を打った時。
確かにそれらは怖かった。知らないからこそ怖かった。
だが、二度目のそれに恐怖はなかった。
感情のピークがわかっていれば、限界に達する前に叩けばいい。
それでも、敵わないなら。
……私はこの銃と、同じ気持ちになればいい。
「アリス、焦らなくていい。確実に、確実に止めろ!」
カイコは警戒を続けている。
私は、アリスが落ち着いていられるよう、側にいる。
――爆発が始まってから、どのくらいの時間が経っただろう。
どのくらいの人間が、死んでしまったのだろう。
……私が殺した人間よりずっと、数が多いんだろうなあ。
「もう、少し!もう少しで、終わるから……!」
決して広くはないサーバールーム。
籠城してから随分と時間が経った。
敵の本拠地とはいえ、上では銃撃戦。人間に限りはある。
ここに誰も来ないということは、そういうことなのかもしれない。
「出来た……出来たよ!」
その言葉を聞いてすぐに、カイコは携帯デバイスを確認する。
「アリス、よくやった……爆発は、止まった。」
アリスを抱き締める。
肩が上がらなかったが、そんなことどうでもいい。
いま出せる精一杯の力で小さな身体を労う。
「犠牲者は、少なくない。
だがアリス、お前のお陰で救われた命は、それよりも遥に多い。
本当に、よくやったな。ありがとう……」
アリスを情熱的な抱擁から解放すると、強張っていた私の肩はだらんと垂れる。
それと同時に、無意識に制限していた呼吸が回数を増やし、
いっきに取り込んだ酸素は私の頭を朦朧とさせた。
……私の肩は休まることなく、息をするために使われた。
「それにチェシャ。……約束を守れなくて、すまなかった。
君は、俺とアリスを救ってくれた。
そして多くの人間の、希望となってくれた。本当に、ありがとう。」
カイコは真っ直ぐに私をみる。
希望、か。
私がしたことは"彼ら"と同じことだ。それに後悔はない。
……だがいずれ、私も同じように死ぬのだろう。
怖くはない。もうなにも。
ああ、ようやく"覚悟"が決まった。
孝也さん、瞳さん。
あなたちのせいにしてごめんなさい。
私は――"ひとの死"を、受け入れよう。
コツ……
ん?
コツコツ……
音?
カッカッカッカ……
なんだ?
カチッ、ギリ……
違和感。
こんなものは先ほどまでの"短編映画"にはなかった。
どうしてなにも疑問に思わない?二人には聞こえていないのか?
どっちだ、右、入口の方……なにかみえる。あれは……ああ、銃身?
ギラついたシルバーだ。"それ"はカイコの方を向いている……
ああ、ああ……そうか、マズい。
『カイ……』
声が出ない。いや違うそれじゃ遅い。
2度。破裂音が響いた。
ほんの少しだけ、タイミングのズレた、疎らな音。
良かった、私の方が早かった。
カイコは理解が追い付いていないようだ。
それはそうだ。カイコは私に撃たれたのだから。
「チェ、なっ……?!」
彼も気が抜けていたのだろう。
一瞬、鳩が豆鉄砲を食らったような間抜け面を晒したが、すぐに事態を理解したようだ。
「――ああ、そうか、また救われたな。」
銃身はカイコを捉えていた。目に見える距離だが、遠い。
私の腕では到底、その主を撃ち抜くことはかなわない。
声に出すよりも早く、言葉で動かすよりも早い。
私が先に、カイコを撃ってしまえばいい。
「ああクソ!日本人ってのはいつの時代もこうなのか!
チクショウふざけやがって!"神風"はとっくに止んだはずだろうが!」
粗暴な声だ。
私たちはその方向を睨む。
「あ……?おい、クソ野郎。
なんでお前がこんなとこにいるんだ?」
そうか、奴が。奴こそが。
「まったく……"上の連中"は無茶苦茶だ!
日本は戦争できないはずだろ、バカスカ撃ちやがって!
死体を数えるよか生きてる人間を数える方が早くなっちまった!
お前もだクソ野郎、国じゃ殺し足りなかったか?ならニッポン人を殺せ!」
「……あいにくだが、無実の人間は殺さない。」
私が撃ち抜いた肩を抑え、カイコは立ち上がる。
「うるせえ、ふざけんじゃねえ!」
カイコは、彼の名を、ゆっくりと呟く。
「アルフレッド・ネイピア……」
「気安く呼ぶんじゃねえ裏切り者。先に地獄で寝てろ。」
何卒、よろしくお願い申し上げます。




