-Chapter19-
松岡千秋です。
よろしくお願い致します。
-Chapter19-
――ああ、これが銃声か。
想像以上に大きな音。鼓膜が破れそうだ。
振動が伝わってくる。
これは反動の……いや、ビリビリと感じるから音のせいか?
もしかしたら、震えているのは私なのかもしれない。
ん?カイコ?私に声を掛けている?
聴こえない。何を言っているのだろう?
肩が強張る。顎は引けて、目は見開き、自然と上目気味になってしまう。
私は興奮しているのか?呼吸を忘れそうだ。
ようやく耳が慣れてきた。
……なに?銃声とは別の音だ。なにか、重たい音。
ああ、それか。大の男が倒れるとこんな音がするのか。
"死の重さ"で空気が震える。
人間が積み上げてきた"命の重さ"で地面が震える。
……いや、違うか。それは違う。
きっと「死」に音は無い。
私が勝手に、意味を見つけたいだけだ。
まるで"映画"のようだ。
客観的な没入感に我を忘れそうだ。
私は"これ"を観終わった後、反芻し考察することがあるのだろうか?
「――チェシャ、チェシャ!!」
ハッ、と息を吸う。
忘れていた。呼吸をしなければ。
他人事のようだった。
それを思考している間、私は私ではなかった。
アリスの声は、私を"上映会"から引き戻した。
彼女は確かに存在する。私と現実とを繋ぎとめる"か細い糸"。
大丈夫、私は私だ。まだ、ここにいる。存在する。
息をしろ、大きく吸え、飲み込まれるな、私が飲め。
「止まれ!!」
制止と同時に、カイコは新たな"短編映画"を封切る。
短い、短い――
効果音はたったの二つ。
銃声と人間の倒れる音。
いくつも、いくつも、数えるの嫌になるほどに。
それらは決してオムニバスにはならない。
それぞれが、たったひとつの命だったのだから。
それは、ああ……
――なんてつまらないの?
私たちは走る。足よりも肩が痛い。
射的だって苦手なのに、鉄砲を当てる技量はない。
私が出来ることは"数撃ちゃ当たる"だ。きっとカイコの何十倍も撃った。
やがて一つの扉が見えた。
壁にはいかにもな電気錠が取り付けられている。
「アリス、ここだ開けろ!
……後ろはみるな、任せろ。」
サーバールームは目と鼻の先だ。
私は目線をカイコへとやる。眉間には川の字が沢山できていた。
……怒っている、わけではなさそうだ。
ただ悲しそうに唇を噛み締め、感情を押し殺している。そんなようにみえた。
「チェシャ……」
どうやら感情の矛先は私のようだ。
それは、私への憐憫なのか?それとも、自責の念を抱いているのか?
『もちろん、殺しはさせない。それは約束する。
君の納得するところまで、俺たちを助けてくれ。』
ああ、そうか。別に気にしなくていいのに。
私の納得なんて、どこにもないのに。
私はただ、全ての人間が、
平等に"幸せ"の機会を与えられれば、それでいい。
何にも縋れなくなった人間の、
最後の"希望"が私なら、それでいい。
"誰か"を殺すことで、"誰か"の幸せを救えるなら、それでいい。
……そんなものに納得なんて、訪れないって知ってるくせに。
私は"再生ボタン"に指を掛ける。
似たような"短編映画"をひたすらに繰り返す。
ノンストップで垂れ流しの音楽。継ぎ目の下手なカット割り。三文役者のつまらない殺陣。
ああ……最悪だ。
せめてロマンチックな映画なら良かったのに。
でももう、上映会はおしまい。
――次からは私が、メインキャストだ。
何卒、よろしくお願い申し上げます。




