-Chapter17-
松岡千秋です。
よろしくお願い致します。
-Chapter17-
酷いものだ。街中が大パニックだ。
県外への道も交通規制が敷かれており、神奈川へ出るのも一苦労だった。
目的地は「アメリカ軍 横浜第四駐屯地」。
……私たちは、彼の地に繋がる"三途の川"を渡っていた。
道中、本当に外側からのハッキングは不可能なのか。改めて聞いてみる。
「うん、とね。私も一応、試してみたんだけど、やっぱり無理だった……
共同自治区は、日本からは、独立した……別の国として考えた方が、いいかも……」
うーむ、こういう時にパソコンに疎いと本当に困る。
『DDos攻撃を止めるには、大元のコンピュータを止めるしかない。』
解ってはいる。だが不安だ。異邦人への反撃には大きなリスクが伴う。
……自分の事はもちろんだが、何よりもリズちゃんの事が心配だ。
「ねえ……チェシャ。
大丈夫。大丈夫だよ?」
……彼女は私の事をよくわかっている。
時たま、見透かされているようで不気味だが、それはいま一番欲しかった言葉だ。
ああ、彼女は。
アリスは、私が守らなければ。
――キャップは私たちと別行動だ。
そういえば、彼は"一課の人間ではない"と言っていた。
まず間違いなく「刑事」なのだろうが、一体……
「えーと……これでいいのかな……
ん、んん、えー"本日は晴天なり"……」
「キャップ、聞こえてる。」
無線通信?色々と大丈夫なのか……?
「あ、ホント?一回言ってみたかったんだよねー。」
「おい、ふざけてる時間はないぞ?」
「大丈夫、こっちは準備OKだよ。
そういえば、チェシャ。僕の所属って言ったっけ?」
知る訳ないだろ。
みんながみんなお前に興味があると思うな。
「えーと……どこ、なんですかね。」
「んーじゃ、改めまして……
"警視庁刑事部捜査第二課 第二知能犯特別捜査 第七係"係長及び、
"警視庁組織犯罪対策部 組織犯罪対策 第二、第四、第五課"による、
合同特殊犯罪対策チーム"対特殊侵略執行係"、
"Marshall Anti Invader Domination"、頭文字から通称……」
「まいど……?!」
「チェシャ、MAID、メイドだよ……」
ああ、クソ。邪魔したくなってしまった。
だが私の恥で奴の自慢げな肩書を台無しに出来るなら安い……!
「……よくそんなのが通ったな。」
「まったくみんなさ……
口上くらい気持ちよく言わせてくれる優しさはないの?
ま、ともかく、MAID、通称"メイド"の"キャップ"こそがこの僕……ってわけ。」
時間の無い時に長ったらしくペラペラと。
……彼はいい意味で肩の力が抜けた。
アラートの際はテンパりまくってたが、クイーンと"まいど"のお陰だろう。
「で、その"MAID"はどういうチームなんですか?」
「んー……それはみた方が早いかもね?
カイコ!"川"を渡り切ったか?」
「……ああ、もう抜ける!ナビを!」
「OK!」
彼らは無線通信に慣れていないのかと思ったが、そうでもないようだ。
キャップの指示は手際が良く、私たちは"獣道"を駆け抜ける。
そして――
「ここからは荒くなる!しっかり掴まれ!」
……ああ、ひどい。
キャップは組織犯罪とか侵略執行とか言ってたな。
"みればわかる"とはこういうことか。
駐屯地の正面ゲートでは、武装したアメリカ兵たちと、
"MAID"とおぼしき集団が銃撃戦を繰り広げていた。
ひとが、大勢倒れている。
きっともう、"中身"は抜けてしまっているのだろう。
揺れる。大きく揺れる。
私たちを乗せた車は"もの"と成り果てた"それ"を踏み付けて前進する。
直視。
揺れる。大きく揺れる。
三半規管が"これは現実だ"と告げる。
……怖い、怖いなあ。痛みなんてとっくにないんだろう。それでも。
死んでまで、ひとに足蹴にされるなんて、思ってもないことだったんだろうなあ。
そんな覚悟をしてまで戦って。ああ、馬鹿だなあ。私は痛いのなんてごめんだ。あんな風に
「チェシャ。」
え?なに?どうしたのアリス。
「私、だけを、みてて。」
……ああ、アリス。
どうか、どうか私の心を、つかんで離さないで。
「出ろ!エレベーターだ、走れ!」
通用口を走り抜ける。
決戦の地は、地下フロアのサーバールームだ。
カイコの姿はまるで武蔵坊弁慶だ。
……いや、それ以上か。
大きな体躯に、七つでは収まらない武装を背負っている。
「どけ、寝てろ!」
からんからん、と何度も音がする。
聞きなれた音とは別の、あまりにも軽い――
……ひとが死ぬ光景は慣れた。
いまならどんなスプラッター映画を観ながらでも、ハンバーガーを頬張れるだろう。
慣れてしまった自分が怖い。
生涯脳裏に焼き付くと思われた、あの"アメリカ人"の顔も、いまでは思い出せない。
「……チェシャ。」
私たちはエレベーターに乗り込んだ。
アリスは私の手を強く握る。
ああ、私よりも小さいのに、なんて温かく、頼もしいんだろう。
……まったく、不安なのはどちらだろうか?
静かに下降する。深く、深く沈んでゆく。
重力に逆らわず、慣性に浮かされぬよう。
――冷たい鉄の箱は、私の"心"そのものなのか。
何卒、よろしくお願い申し上げます。




