-Chapter16-
松岡千秋です。
よろしくお願い申し上げます。
-Chapter16-
――うるさい音だ。
"それ"は警鐘ではなかった。
既に始まってしまったを意味する、地獄の門が開く音。
「クソ、遅かった!!」
「これ、って……」
「……始まった、審判の日だ。」
四人の持つ携帯デバイスは、けたたましく叫びを上げる。
大規模テロを知らせる緊急アラート。
逃げ場もないのに、不安を煽るだけのインフォメーション。
……きっと多くの人間が混乱に陥っている。
無論、私たちもその例外ではない。
情報の高波に身体を飲まれ、流されることしか出来ない。
「おい!白ウサギはどこで死んだんだ!」
「わからない、わからないんだ……」
「アリス!探知は!」
「複数の、IPを全部は、時間的に……無理、だと……」
「ああ、クソ!クソ!!」
さすがは警察組織の人間だ。彼は人を采配するのに長けている。
いつもの気怠さを微塵も感じさせず、ただひたすらに思考し、手段を探る。
……しかし、焦りだけでは解決の手を見出せない。
「なにか……なにか……
そうだ!横浜!奴らに直接……」
「正確な、発信源がわからないと……!」
「……待て、静かに。」
――着信。
……誰だ?カイコは今更、誰と話そうというのだ?
「……はい。」
「私だ!スピーカーにしろ!」
女?スピーカーにせずとも漏れ聞こえるほど声を荒げている。
彼女の声は年を感じたが、強気で絶対的な拘束力を感じる。
カイコが畏まる、ということは彼女の方が立場が上?
どういうことだ。「Grim」はカイコが……
いや、違う。私はこの人物を……
この人物の"存在"を知っている……?
ああ、そうか。彼女は。
彼女の名前は――「クイーン」。
いつか白ウサギの口から聞いた、謎の存在。
白ウサギに"銃"を与えた……と思われる人物。
「全員いるな?」
「はい。」
「遅くなってすまない。
多少の無理はしたが、奴らの根城を割った。
……まったく、事が起こらないと動けないとは、
私も自衛隊や警察のことを言えないな。」
「……どうかお気になさらず。」
「いいか、カイコ。
攻撃の発信源は"アメリカ軍 横浜第四駐屯地"だ!
正確な位置情報は通信後に送る。それと、キャップ!」
「お久しぶりです。」
「"メイド"を呼べ。」
「……!了解です。」
「アリス!」
「はい……」
「お前の仕事は日本の存亡に関わる。
DDosを止めるには、大元のコンピュータを直に叩くしかない。」
「もちろん、承知しています……」
「プレッシャーをかける訳じゃないが、頼んだぞ。」
攻撃の発信源、つまりは敵の拠点を炙り出した?
……彼女はいったい何者なんだ?
いいか、整理しろ。
的確な指示を出し、チーム全員の士気を高めた。
得体の知れぬ力を持ち、白ウサギを含めたメンバーからの信頼がある。
それはつまり……
「Grim」は彼女が設立した?
「これ以上、私は表立って動けない……
いいか、アメリカに日本で好き勝手させるな!
命令だ……!過去の日本の、アダを討ってこい!!」
なんてことだ。彼女は私たちに、日本に。
アメリカを相手取った"戦争"をさせようというのか……?
「……クイーン、タグは……」
「……心配するな。私は止まらない。」
どうやら、彼女のタグも爆破されたようだ。
おそらくは彼女も、日本を指揮する立場の人間。
……さしずめ私たちは女王の私兵部隊、か。
「あとは――"チェシャ"。」
チェシャ……?ここにそんな名前の人物は……
「え、私?……ですか?」
「ああ、私は君に期待をしている。
……みんなをよろしく頼む。」
チェシャ……チェシャ、か。皮肉だな。
首を刎ねることもままならない、死ねない、飼い猫か。
ならば、上等だ。
このシチュエーションにあった言葉選びをしてやろう。
「……女王の仰せのままに。」
私は「Grim」の"チェシャ"。
物語の狂言回しを務める、トリックスターだ。
≪――私もヤキが回ったな……。だが、この借りは高く付くぞ……!
己の激情を押し殺すように、左目を強く抑え、クイーンは静かに"飼い犬"を呪った。≫
「ねえ、カイコ。クイーンは眼窩にタグを入れたんだよね?
よく、死んでないよね……」
「……彼女のことだ。爆発の前に目ごと抉ったんだろう。」
このチーム、「Grim」はクイーンが作った。
「Carroll」という夢の皮を被った、侵略者を殺す残虐な"銃"。
"私"たちは強い信頼で結ばれた仲間だ。
そうか、確かに。そういうことか。
白ウサギのいった"家族"の意味が、いまやっと正確に、解った気がする。
間を置かず、それぞれの携帯デバイスへと目的地の座標が送られた。
シロさんを弔う時間もなく、私たちは横浜第四駐屯地へと向かう。
――ああ、私は。
知りもしない平和のために。戦うのか。
何卒、よろしくお願い申し上げます。




