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-Chapter12-

-Chapter12-


アメリカの関与は確信的なものになった。

しかし敵がわかったところで、その目的は掴めないでいる。

私の担当していた契約者の死は、徐々に波紋を広げていく。


「アメリカ、か。

 カイコ、思ったよりもこれは……」


「ああ、大ごとになりそうだ。」


喫茶「Carroll」はしばらくの休業をしていた。

前と変わらない日常を送っていたならば、私は大好きな紅茶を飲めないでいたのだろう。

そんなことを考えつつ、悩ましい二人を横目に優雅なティータイムを過ごす。


カランカラン、と勢いよく扉が開いた。


「お待たせ!!」


ドアベルの音で大体誰が来たのかがわかる。

今日もうるさい。声じゃなくて全部うるさい。


「時間。」


「掛かり過ぎじゃないかな?」


「いやー、いくら優秀な僕でも"縄張り"には敵わなくてね。

 ……そう怒んないでよ?」


不良警官は優木孝也の勤め先について情報を持ってきたらしい。


「エンジニアってのは機密情報が多くて困るね。

 ようやっと、会社側と話せるようになった。

 ドッグタグのハードもソフトも、開発を請け負っているトップ企業だ。

 外様が入り込むのには相当苦労したよー……あ、僕メロンソーダね。」


「で、優木の居た部署は?」


「ああ、それそれ。

 タグのシステム管理とアップデート。

 彼のいた部署は民間委託の中でもトップシークレットだ。なるほど堅い訳だよ。」


「ふむ、しかし優木のタグを使ったところで社内には入れないだろう?」


「入るのが目的じゃなかった……

 いや相当ヤバい産業スパイだったりしてね?」


「……行ってみなければ、目的は掴めそうにないか。」


――この大都会の中で最も高いビル。

このビルの全てのフロア、全てのオフィスが同じグループの会社だという。

ビルの高さ(メートル)×フロア数×オフィスの数=この会社の権力なのだろう。

……うーむ、鼻の高さが鼻持ちならない。


今回は私、カイコ、キャップ。

そしてこの手のスペシャリスト、リズちゃん。……もといアリスちゃん!

私たち四人は「株式会社 秋星アース・グローバルシステム」へと足を運んだ。


「……ええ、ですから。

 わたくしども秋星グループは政府から委託されました、

 ドッグタグの開発、システム管理を請け負っておりまして……」


品の有る無しなど、ムカつかなければどうでもいい。

この会社の人間の話し方をみていると私はそう思った。


「ははは、いやーほんと、この度はありがとうございますー。

 ……で、ですね?優木孝也の件でお聞きしたい事がありまして。」


私、他二名は面倒ごとを押し付けるように押し黙っていた。

キャップは手際よく先方の話を受け流し、要件を伝える。


「ええ、存じております。

 優木君はとても優秀なエンジニアでした。

 子供もじきに生まれるとか。その矢先で……」


「優木さんの死後、彼のIDが使われた形跡はありませんでしたか?」


キャップも少し苛ついているのだろう。

警察官らしく聞きたい事を正確にリスニングする。


「……それがですね。

 数日前に、彼のIDを使った不正アクセスの形跡がありました。

 彼のアクセス権は抹消されていた。

 それに、秋星は世界でも有数のソフトウェア会社です。」


「普通なら、ありえないと?」


「はい。手前味噌ではありますが、セキュリティを破られることは絶対にありえません。」


「アリス。」


カイコがうちのエースに確認をとる。


「……確かに、私も、厳しいと思う。

 でも、絶対は、ありえない。……と思う。

 時間を掛けて、準備して、条件さえ合えば……」


「……システムに異常はありましたか?」


「幸い、不正アクセス自体は時間を置かずに発見できました。

 早急にサーバーを隔離、ウイルスのスキャン、メンテナンスをいたしました。

 ……しかし不審な点はなかった。ただ、アクセスをしただけ……」


「あの、ウイルスや偽装は……」


「もちろん念入りにチェックしました。

 それでも、何もみつからなかったのです。」


アリスちゃんでも厳しいセキュリティ。

仮に土壌を作っていたとはいえ、向こうにも優秀な技術者がいるのだろう。


「あくまで、私の推測ですが……」


有識者の意見だ。私たちは背筋と耳を立てる。


「……優木君は、ドッグタグに可能性を感じていました。」


「可能性?」


「ええ、彼は器用でした。ハードウェア、ソフトウェア。両方に精通していました。

 そして彼のアイディアは、社の誰よりもユニークだった。」


私の知らない孝也さんの一面。

真面目で、仕事もできて、奥さん想いな人。

開示された情報は、瞳さんの悲痛な姿を想起させた。


「優木君はドッグタグを、次世代のデバイスに進化させようと考えていました。

 その第一歩として、ハード、ソフト共にドッグタグの制御をより精密に。

 そして情報通信量を大幅に拡張することで、より便利なものにしようとした。」


「それって、タグがあれば電話できるようになったり……?」


私は夢物語に思わず食いついた。


「結果的には、そうなるはずでした。」


いけない、いけない。話の主導権をキャップに渡す。


「はず、というのは?」


「……その技術は優木君の頭の中にしかありません。

 わたし達も夢物語に目を輝かせるほかありませんでした。」


「なるほど。それで推測というのは?」


「話を戻しましょう。

 結論から言うと、乗っ取りではないかと。」


「乗っ取り?」


「ええ、ドッグタグは個人の識別と資産管理を兼ねたマイクロチップです。

 わが社はそのシステムの一部を管理、メンテナンスをしている。

 そして優木君は制御システムの開発、アップデートを担う、チームの中心人物でした。

 ……考えたくありませんが、優木君の死も、不正アクセスも、その為かと。」


「……なるほど。お時間、ありがとうございました。」


「刑事さん。犯人を……優木君の仇を、どうか……」


「……約束します。」


ドッグタグシステムの乗っ取り。

得られた回答は、秋星に赴かずとも辿りつける話だった。


「あの……!不正な、アクセスの、痕跡を、見せてはもらえませんか……」


無駄に終わってしまった。

そう思ったところで声を上げたのはアリスちゃんだった。


秋星の人間は少し渋ったが、優木孝也はよほど人望の有った人間なのだろう。

何人かの技術者の同席、インターネットからは隔離、という条件で了承した。


あの気弱な看板娘がこんな表情をするとは思わなかった。

真剣にパソコンに向かう姿は、思わず「カッコいい」と溢しそうになる。


「……おかしい。」


「何がだ?」


「……確かに、アクセスを、しただけにみえるけど、

 意味不明な、情報の送受信を……繰り返した跡が、ある……それに……」


情報の送受信……?

ともかく"何の痕跡もない"ことは否定されたのだろう。


「あれ、あれ……?」


「どうしたアリス?」


私はパソコンの事はからっきしだ。

映画を観ている時だって「デスクの男」は主人公をサポートするだけの、

「なんかよくわからんが凄いキャラ」くらいの認識だ。


「どうしよう、これ……ハッカー、見つけちゃった……」


しかし目の前の少女は、私たちの停滞を打ち壊してくれた。


紛れもない、主人公だった。

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