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-Chapter11-

-Chapter11-


"演奏会"から数日後。

私たちは横浜港埠頭の倉庫へ足を運んでいた。

本当にこの場所で優木の"解体"が行われたのなら……

敵はアメリカそのものだと言っても過言ではないだろう。


疑惑を確信へと変える為に、何としても手掛かりを見つけなければならない。


メンバーはこうだ。私、カイコ、白ウサギ。

キャップは"本業"で来られないそうだ。


……そういえば"演奏会"にもリズちゃんは居なかった。

返答など解り切っていたが、一応カイコに理由を尋ねてみる。

想像の通り「連れていくには気が引ける」とカイコは言う。


……ん?自ら首を突っ込んだとはいえ、私はいいのか?

まったく、白ウサギの爪の垢を煎じて飲んでほしいものだ。労え。


「……おかしい。」


「おかしい、ね。」


二人は顔を見合わせている。

んん……?ミステリーは好きだがスカウトやトラッキングのやり方なんて知らないぞ。

私にもわかるように説明しろ。


「綺麗すぎる。」


「ふむ、あまりにも綺麗だ。」


ああ、なるほど。そういうこと?

私たちは手掛かりを探しに来た。そこには何もない。

しかし、何もなさすぎると。

ただの埠頭の倉庫なのに確かに塵一つない。

……実際はそうでもないが慣用的なアレだ。


「ふむ、見た目は普通の倉庫だが……」


「ああ、普通の倉庫だ。充分な広さのな。

 さっき他の倉庫も確認した。

 大概はほとんど手入れのされていない、小汚いものだった。

 ……だがここと同じような場所がいくつかあった。」


「……集団的かつ、大きい何か。

 カイコ、これはやはり。」


「ああ。勘弁してくれ……」


――雷が落ちたと思った。


スクリームクイーンの悲鳴と聞き紛う爆音。

私たちの背後には男が立っていた。

恐らくコイツが、馬鹿みたいにデカい金属扉を拳でぶっ叩いたのだろう。


「やはり……」


「……アメリカ人、か。」


暫定、敵であろう人間を見ても、二人は動揺の色をみせなかった。


「お前ら、一体なにをしている?」


随分と流暢なニホン語だ。

ガタイの良い、パツキンの外国人さん。

不思議な事に、私も慌てることはなかった。


なぜ?と考える。


……ああそうか、彼は私たちの後ろを取っていた。


仮に優木をバラバラにした連中ならば。

居るべきでない人間に、知られてはマズい事を知られる前に、排除しようとする。

鉄砲なり廃材なり、何かしら攻撃的なアクションを取ったはずだ。

いや、「はず」ではなく実際そうすべき場面なのだ。


それをしなかった。つまり彼はまだ言葉の通じる、警告段階なのだ。


「見張り番か?」


「おそらくね。」


「ちゃんと確認したんだろうな?」


「……仮にも港だぞ?しかも私ひとりだ。

 右から回れば左に着いた頃に、また右をみなきゃいけなくなる。」


これは老体に鞭を打ったカイコが悪い。

二対一なのも露知らず、カイコは深い溜め息を漏らす。


「で?お前らはなにモンだ?」


「それはこっちの台詞だ、クソ野郎。

 ん……?お前、アメリカ人か?」


「だったらなんだ?」


どうしてこうも不遜な態度が取れるのか。

カイコはここを自分の家の床の間と勘違いしているのか?

しかし、まったくもって悔しいが。彼の傍若無人さは心強いものだった。


「……お前ら、ここで日本人をバラしたろ?」


カイコは先制とばかりにジャブを打つ。


「アメリカ人なのに日本の肩を持つのか?

 ここで何があっても、奴らにとっては不可侵領域だ。」


「だが俺はアメリカ人だ。

 それなら関係あるだろ。話せ。」


さて、どう切り込んでいくのか。

カイコがKOを取らなければ、私たちに待つのはきっと死だ。

頑張ってくれなければ困る。


「ん?ちょっと待てよ……?その顔……

 お前は……はは、はははは!

 おいマジかよ!こりゃすげえ!有名人じゃねえか!」


なんだ?彼らは顔見知りなのか?


「……」


カイコの顔は一気に曇った。

彼らには因縁があるのだろうか?


「おい、カイコ。」


「……大丈夫だ。過去は乗り越えた。」


二人は小声で確かめ合う。


「なるほどな。お前なら納得だ!」


そういうとアメリカ人は息を整え、近づいてくる。

敵意は……ある。しかし殺意はないようだった。


「聞かせろ。アンタはいま、なんのために戦ってる?」


「……自由だ。」


「そうか……」


緊張感はあった。張り詰めた空気。ともすればみんな死ぬ。

真っ先に死ぬとしたら、素人丸出しの私だろう。


「自由とは、なんだと思う?」


「わかれば戦わないさ。」


「みんなアンタの事を売国奴だと言った。

 凶悪な殺人鬼。同胞を殺した異常者。

 ……だが俺は心底、アンタを羨ましく思ったよ。」


「戦争以外で人を殺した事がか?」


「違うよ。

 ……俺はアンタの気持ちがわかってるつもりだ。

 きっと、同じことを感じ、同じことを考えた。

 俺にはそれを実行する勇気がなかった。」


「……それが正しい。」


「いや、正しいも間違ってるもないんだ。

 アンタは自分の成すべきことをわかっていた。

 それがアメリカを救える、最後の手段だと信じられた。

 ……俺は、ヒーローにもヒールにも、なれなかった。」


わからない。

アメリカ人はみんなこうなのか?まるで話が見えてこない。

まさかとは思うが、白ウサギはわかっているのか?


過去にカイコは仲間を殺した?アメリカを追われた人間?

だから日本へ?ならどうして復讐屋を?


脳内の時計が何周したかもわからない。

思考はグルグルと回り続ける。


「なあヒーロー。アンタは"俺たち"を救ってくれるのか?」


「……約束は出来ない。」


「そうか……」


アメリカ人は私たちに背を向け、天を仰ぐ。

私には倉庫の天井しかみえないが、きっと彼には、別の何かがみえているに違いない。


「もう、耐えられないんだ。"自由"とはなんだったのか。

 俺たちは誰の為に、何と戦い、なぜ殺し合うのか?

 意味なんて無かった。みんな、生きているだけで幸せなはずだった。

 奪うことも、奪われることも、もうやめにしたい。

 ……なあ、今の名前は?」


「カイコだ。」


「そうか……カイコ、アンタは自由だ。

 自由な者にしかいまの世界は、自由の国は、アメリカは救えない。

 絶対に、絶対に忘れるな。忘れてくれるな。

 お前が殺した人間の事も、お前の信じた祖国の事も。

 ……俺の、事も――」


なんだ?ちょっと待ってくれ。これじゃあまるで……


「これは餞別だ。とっとけ。」


彼は何か金属のようなものをカイコに投げ渡す。


「おい、待て!」


「もうすぐ人が来る。最期にアンタと話せて良かった。

 さようならだ、アメリカ史上最悪の、俺の、ヒーロー。」


それは確かに見えた。が、聴こえなかった。

彼が自分の頭を撃ち抜いた銃声に掻き消され、本当の最期の言葉は私には届かなかった。


「……We were more free.」


カイコは静かに呟く。恐らくはそう告げたのだろう。


"私たちはもっと自由だった。"


「カイコ!マズいぞ!さすがにマズい!千紗ちゃんも早く!」


白ウサギに促され、棒になった足を必死に前へと出す。

彼の決死は、衝撃的な映像として、私の目に生涯焼き付くことになるだろう。


ああ自分の足じゃないみたいだ。両足が松葉杖みたいだ。

腰も抜けそうだ。でも走らなければ死ぬ。

どんなに不格好でもいい、走れ、走ってくれ……


「半ドア!」


「……」


「カイコ!!」


――やがてサイレンが聞こえた。

どんどんと音は低くなってゆく。


「カイコ、彼は何を?」


「あ、ああ……」


「しっかりしろ!!」


「……すまない。少し、取り乱した。

 大丈夫だ、もう落ち着いた。」


私だって面を食らった。足がジェンガみたいに崩れそうだった。

でも、それ以上に。カイコは心を搔き乱されたようだった。


……私には彼らが何を話していたのか、皆目理解が及ばなかった。

だがきっと彼は、カイコの理解者となり得たかもしれない。

それだけは、私にも解った。


「カイコ、それ……」


「……ああ。」


自由に殉じた彼が渡したのは。

遺志を託された彼が手に持っていたのは。


「…….45ACP弾」


「つまり、それは……」


「ああ、アメリカ人にとって最も馴染み深い銃弾だ。」

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