-Chapter10-
-Chapter10-
車窓から見える街灯は、輪郭も保てないくせに私たちを導いた。
キャップとカイコは演奏会の"お片付け"をするために山に残った。
私は白ウサギと共に帰路に就くことに。
白ウサギは心なしか枯れた表情を浮かべ、縒れたスーツは妙な色気を醸し出していた。
きっと心も身体も消耗している。それでも、彼は私への気遣いを忘れない。
どうでもいい世間話にユーモアを織り交ぜ、お気に入りの紅茶を差し入れてくれた。
私は、私の身近な。半径十数メートル内で拷問と殺人が行われたことに動揺していた。
いや……どうだろう。後味が悪い、といった感じか。
罪悪感や後悔とは違う。実際、彼が死んでもなんとも思わなかった。
ただただ自分と他三人の異常性に凍り付いた、うーん……
考えを巡らせる度に、先ほどの事象から得た感情は薄れ、
適切な言葉を持ち合わせない自分への苛立ちに変わる。
「……千紗ちゃん。」
「え、はい?」
何を話していたか思い出せないほどに、
くだらなくも馬鹿馬鹿しい話を終えた彼は、そっと切り出す。
「思っていたよりも、平気そうだね?」
「あはは、自分でもそう思います。」
その通りだ。自他ともに拍子抜けするほどに平気だ。
「当然だが、私は心配していた。
……アレを体感しても、君はまだ私たちに関わりたいのかい?」
「……」
肯定しきるほどの度量はなかった。
ただ、否定ではないと、行間で主張をする。
「……そうか。」
彼は私の想いを汲み取ってくれた。そういう人だ。
「私たちは、正しくない。それを忘れてはいけない。
蛇の道は蛇だ。毒を中和するのもまた、劇薬だ。
その熱反応に浮かされてはいけない。
……自分を、見失わないようにね?」
ゆっくりと、子供に絵本を読んでやるように、彼は私に言い聞かせる。
いや、彼もまた、自己確認をしているのかもしれない。
優木孝也殺害の実行犯。
その男から得られた情報は、彼の遺体を運んだ場所。
「横浜」。そこで優木を"解体"し、ドッグタグを回収した。
アメリカとの共同自治区で起こったであろう、異常かつ不可解な出来事。
キキッ、ガチャ、トトッ、バタン。思考を遮る音。
気付けばいつもの場所に戻ってきていた。そして……
――カランカラン、と音が鳴る。
「千紗ちゃん……!」
思わず「グェッ」と品の無い声を上げそうになる。
扉を開けると、リズちゃんが私の腹を目掛けて飛んできた。
「大丈夫……?」
「う゛ん、ありがとうね。でもそんな……」
ハッ、とした。
可愛い女の子とのスキンシップはヤブサカではない。
しかし、彼女のそれには違和感を覚えた。
……ああ、そういうことか。
私を抱き締める彼女の腕は、私の、私の魂の形を。
見えも触れもしないのに、確かめていた。
「……リズちゃん、私はちゃんと帰ってきたよ。
私は私。貴女は貴女。何も、変わらない。」
「うん、うん……ごめんね、ごめんね、私が止められれば……」
私よりもずっと年下であろう彼女。
そんな彼女がこの異常な日常と背中合わせに生きている。
私は彼女にとって、不変でいなければいけない。
魂の形を、歪めてはいけない。
幼気な少女の眼は、濁っていないのだから。
私は彼女を優しく、抱き締める……




