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-Chapter9-

-Chapter9-


車は山奥にいた。当然、私も山奥にいるわけだが……


「思ったよか早かったな。」


「いやー、千紗ちゃんがぶっ飛ばすもんでさ。」


カイコは掘っ立て小屋を背に優雅な一服をキメていた。

どうやら先行していたらしい。


半グレは意識を取り戻していたらしく、涙を流しながら怒っている。

三人は河でバーベキューでもやるかのように、せっせと小屋へと運び入れる。


……小屋の中は、一つのランタンでほんのりと照らされていた。

味気のないアームチェア、よくわからない箱型の機械。

そして、日曜大工初心者フルセット。

なにが行われるか容易に想像がつく。


思わず「ゲッ」という表情を浮かべてしまった。


「千紗ちゃんは外に居て!先に帰るとかいう冗談はなしね?」


「カイコ。少し煙草を控えろ。車の内装をこれ以上黄色くする気か?」


「……さ、やるか。」


二人はよほどカイコの車には乗りたくないらしい。

狭い、暗い、なんか臭い。三拍子に加えて"お茶会"だ。

私が小屋に留まる理由はなかった。そそくさと外へ行く。


山、か。久々に来たなあ。

小学校の遠足とか、山登りとか。意外と嫌いじゃなかったんだよなあ。

ボケっとしていると、小屋から割れた喉声が聞こえた。


ああ、きっとゴリラテープを剥がされたんだろう。

アレだけグルグルに巻いたんだ。きっと皮膚が剥がれそうなほど痛いだろう。

口元は真っ赤に腫れるだろうし、髪の毛も束で抜けるに違いない。

想像しただけでブルッと身が震える。


私はカートゥーンアニメのキャラクターのようにヒョコヒョコと飛び回る。

あー、あの葉っぱを踏んで……あの枝へ飛び移って……

真っ暗闇と澄んだ空気は、私を童心に帰してくれる。

都会の昼間だとこうはいかないだろう。夜の山にひとりきりのシチュエーション。

心を解放するにはもってこいだ。


……やがてこの素晴らしい静寂に相応しくない機械音が響く。

私の独り舞台はここで終いのようだ。……今回は"お茶会"ではないらしい。


夜の演奏会は幕を切った。

濁りの無かった機械音はみるみる澱んでいく。

"何か"に当たりながらも、力強く前進する勇ましい音色だ。


ただでさえ前衛的なノイズミュージックにコーラス隊が加わった。


怒号と悲鳴はお互いに一定のリズムで共鳴している。

さしずめ、私の足音はドラムセットだ。


……そろそろサビなのだろう。半グレは最高音のキーで囀る。

噛み締めたままに息を吸い込み、絶望を音で奏でる。

ノンフィクションはいつだって心を打つ。

……それが感動とは限らないのが、嫌いな理由だ。


ああ、そういえば鳥を絞め殺す動画をみてしまった事がある。


ちょうどこんな――


長い時間が経った。

ドラマティックだが単調でつまらない演奏会。

ハリウッド俳優が監督した映画みたいだった。


とっくに席を立っていた私はとうとう頭の中でしりとりを始めていた。


「ふう……」


「だからタバコ!」


「まあ、さすがに気持ちは解るよ、カイコ。私も貰おう。」


三人が出てきた。

彼の事は気にならなかった。

どうせ考えたってこの先の私の人生に関わりのない事だ。


それに、当然だ。人を殺した報いは受けて然るべきだ。

……ああ、また私は自分の狂気を自覚してしまった。


きっと、奇麗な月のせいだ。


「……あの、お疲れ様。何か、分かった?」


「それがさー、何も知らないって言うもんだから、困っちゃうよね?」


お前には聞いてない。とはわざわざ言わないが。

私はそのまま、カイコへと目をやった。


あれだけの長い演奏会だ。疲れているのはわかる。

……しかし彼らは複雑な表情を浮かべていた。


「いや、なぜ殺したかは判らなかった。」


「だがね、ひとつ、成果はあったよ。」


二人は私に向きながら煙を吐き出す。

私まで黄色くなったらどうする、風向きを考えろ。


「ああ、奴が遺体を運んだ場所だ。」


謎が解けるかもしれない。

その期待は裏切られたが、真実を手繰り寄せる蜘蛛の糸だ。

私は軽く息を飲むと、吐くのを忘れて身を乗り出す。


「いま日本で最も厄介な場所。――横浜だ。」


横浜……神奈川県はアメリカとの共同自治区。

実質的なアメリカ領ともとれる。

なるほど、彼らが複雑な面持ちになるのも頷ける。


……しかし、どうしたものか。確かカイコも――


「……処刑台にはまだ遠い。」


カイコはそう呟くと、煙草を踏み消した。

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