お門違い
「友達に戻ろう」
彼は淡々とそう言った。私は、あなたらしいねと言って笑う。それが彼の言葉に頷けない私の精一杯だった。 家からコンビニまでの道を歩く。あまり人気のない、狭いこの道は私と彼が初めて手を繋いだ場所だ。あのよく見かける野良猫はムタに似てるとか何とか言ってたっけ。寒い時はコンビニまで待ちきれずにこの自動販売機でココアを買ってたな。たしか、ここら辺であのバンドの解散を知った気がする。衝撃だった。悲しかった。大好きだったのにな。コンビニに着く頃には視界がぼやけて、よく見えていなかった。それでも歩む足を止められない。止めちゃいけない。私は適当にジュースを選んでレジに向かう。もともと何か目当てがあって来たわけではなかった。気分転換に散歩がしたかっただけだ。コンビニを出て家へ向かう。買ったジュースの蓋をひねり、口に含んでから私が買ったものは桃のサイダーであることを知った。彼の好きなジュースだった。「友達に戻ろう」彼の言葉を何度も反芻した。何度も何度も別れた後の私を想像した。コンビニに向かうたったの数分で、こんなにも彼のことを思い出してしまう私が、彼を友達だなんて思えるはずがない。彼を想って眠れなかった夜も、公園でしたキスも、手を繋ぐとちょっと痛い彼の骨張った手も、初めて目が合ったあの瞬間も、忘れられない。なかったことにできない。友達には戻れない。だって初めから、友達だなんて思ったことなかったんだから。