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あの頃はそれが全てだった  作者: 熊谷充白
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今夜だけは泣かない

今夜だけは泣かない

「別れたいなって思ってる」

最近あまり上手くいっていなかったことに自覚はしていた。でもいざこうして文字にされるとやっぱりきつい。想像はあくまで想像で、現実に勝つことはできないのだ。私は会って話そうと、送った。冷静を装う。でもちっとも冷静ではいられない。だって、別れたいのだと彼が私に伝えてきた時点で、もうとっくに彼は決心がついてるのだと思う。それでも会って話すのはまだ納得のいっていない私に、彼の言葉や目線や体温で、もう終わりなんだと実感させるためだ。付き合っていた時の彼と、別れることを決心した彼とはやっぱりきっと違うと思うから。それを間近で身をもって体験してしまえば、きっともう諦められるはずだ。 いつもの公園を指定する。私の家から一番近くの公園だ。私はいつも彼からのついたよという連絡がきてから、家を出ていた。でも今日は違う。今日は私が彼がくるのを待つことにした。いつもと同じじゃ、ダメだと思った。彼と離れる準備をしなくちゃいけない。心はきっとまだ追いつけないから、行動から変えていくしかない。私は別れを告げる彼に縋りたくなかった。惨めだとか、情けないとか、そんなふうに思われるのが嫌なのではない。どちらかが終わらせると決断したのなら、それは飲み込まなくちゃいけないことだと思うから。どんなに嫌でも、どんなに彼のことが好きでも。だってきっともう元に戻ることはできないから。もしも、私が別れたくないと泣いて縋って、彼がそれを飲み込んでくれて、今まで通り過ごしてくれても、私がもう今まで通りでは居られなくなるのだと思う。不安に押しつぶされて、彼の気持ちを疑って、彼の言葉を信じられなくなって、そうなれば結局待っているのは別れなのだと思う。だから今、私が飲み込むのが一番なのだ。夜の公園に1匹の蝉が鳴いている。そういえば蝉が鳴くのは求愛行動なんだっけ、と彼が教えてくれたことを思い出した。

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