ヒロイン
「なんでわかってくれないの」
彼は今にでも泣いてしまいそうだった。わかってないのはそっちだよ。情けないくらいか細い声が彼を傷つけるのがわかる。本当はこんなこと言いたくない。彼とずっと一緒にいたい。終わらせたくない。私が目を背ければいい。でもそれができない。彼はこんなにも好きなのに、と俯いている。その言葉に嘘がないのは確かだ。彼が私のことを好きでいてくれることはわかってる。でも、彼の心の真ん中にいるのは私じゃなく、あの子だ。彼はその気持ちに目を逸らし続けて、目が合うことのないようにその横にいる私と必死に目を合わせている。ただそれだけのことなのだ。こんなこと言ったって彼が否定することは容易に想像できる。でも、私にはわかる。好きな人が誰を好きでいるかくらいわかる。それほど私は彼を見てきたんだ。彼の言葉を、彼の視線の先を、彼の癖を、全部全部見てきた。好きだから。彼が自分でも気づけていないことにまで気づいてしまったのだ。でもきっと、私があなたの好きな人は私じゃないなんて伝えたらもっと傷つけることになる。その言葉が一生ついて回ることになるかもしれない。だからこうして彼を振る。取ってつけた言葉で彼を傷つける。こんな風にして終わらせること、私が一番願っていない。それでもこれしか思いつかなかった。不器用でごめんね。傷つけてごめんね。一緒に目を逸らしてあげられなくて、ごめんね。
人生において誰しもが主人公であると思っていて、でも好きな人の好きな人になれないってことはその人にとってのヒロインにはなれない。その特等席に座らせてもらえない時点で、好きな人の人生においてただの脇役で。それに気づいてしまった子の話でした。