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あの頃はそれが全てだった  作者: 熊谷充白
4/10

かさぶた

「大丈夫。時間が解決してくれるから」

と、元恋人のことを忘れられない私に友達が言う。私はそうだよねと返したけど、そんなわけないと心の中で否定する。だって時間が解決してくれたって言えるのはただの結果論で、恋人との思い出から苦しめられることに抵抗するのをやめた人が、ただ時間の流れに身任せた結果"忘れられた"って言う話だ。そうじゃない。私は忘れられないのが怖いんじゃない。心にこびりついてる彼を今、剥がしたいのだ。例えばコンビニで彼の好きそうなお菓子を見つけた時とか、彼とよく待ち合わせていた場所を通る時とか、彼の名前が変換に出てきた時とか、次の駅が彼の最寄りの駅だった時とか、彼の好きなバンドの曲がイヤホンから流れた時とか。そういう時、私はまだ胸がときめいてしまうのだ。彼の喜ぶ顔が、嬉しそうに話す顔が、私を見つけた時の顔が浮かんでしまうのだ。その度に、別れた時の衝撃が今もなお私を襲う。それが耐えられない。 彼は私の中の一部だったのだと彼がいなくなってからわかる。私の生活の中に、思考に、感覚に彼は上手く溶け込んで、硬く固まって、こびりついている。剥がしたい。剥がしたくて剥がしたくてたまらない。 私は窓を開けて夜風にあたる。彼と夜中のコンビニに行った帰り道、転んで膝に出来た傷が目に入る。彼が笑って家までおんぶしてくれたことを思い出した。血の塊になっているそれを私は剥がして、赤い血が脛に垂れて気づく。無理に剥がしてはいけないことに。

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