エピローグ・親愛なるアイク様
エピローグ
アイク、久しぶりだな。
お前に手紙を書くのは何年ぶりだろう。初めて会った頃は、溢れちまいそうな土産話を、時折手紙にしたためて城に送っていたな。そう。お前にはじめて会ってから、そしてお前が俺のもとを去ってから、もう随分の時が経ったな。
お前の墓にはたびたび顔を出してるから、近況なんかも聞き飽きてるとは思うんだが。
結局お前との結婚式に旅立たず、ユーリと結婚式して悪かったな。しかもお前を呼べないときたものだから、それこそ殴られても文句は言えねぇよ。ただ、それはお前の望みでもあった。だから許してくれると信じてるよ。
アイクはいつの日も俺の希望で、そして大好きな人だ。そんな大好きな人にこそ、いちばんに届けたい報告がある。まだ公式には発表していない事実だからこそ、いちばんにアイクに届けたい。
なんかやけに身体が怠いと思ったんだよ。熱っぽいような感じが続いていて、王都近郊の討伐依頼に顔を出しても、なんか動きが鈍いような感じがしていてな。体調を崩した? 何かの病気? 俺はもうすぐアイクのもとへ旅立つことになる? 色々心配したが杞憂だった。アイクは頭が悪いから、ここまで匂わせてもわかんねぇか。想像に任せるよ。
そんな訳で暫くは、大好きな冒険はお休みになりそうだ。第一線を退けば、力がなまるんじゃないかと心配だが、それ以上に大事な使命がある。アイクならきっと、微笑ましく見守ってくれるだろう。暫くは粛々と、お前の書き残した大量の手芸レシピノートを見ながら、クマちゃんでも作ろうと思うよ。
ユーリの喜びようには俺も驚いた。飛び上がらん勢いで俺を抱き締めてくるから、こいつが圧死するだろって止めた。俺がこの世でいちばん愛する人と、そういうことになれたのは素直に嬉しいよ。いちばんきつい時に、何もかも投げ出しちまいそうな時に、そばにいてくれた人だ。こいつには猫耳が生えているのかな? ユーリみたいな頭脳をしていたら、俺じゃ勉強を教えられなくなるな。いずれにせよ、会うのが楽しみだ。
お前も空から見てるだろうが、ユーリはラルフとのバトンタッチの準備を整えつつある。
あれが王だって。笑っちまうよな、あの放蕩奔放第二王子が、まさか王。大丈夫なのかという気持ちもあるが、あいつはああ見えて俺やお前よりよっぽどでかい人間だと思うから、まあ隣で見守っていることにするよ。コスプレバーやバニーガールパブを巡ろうとしたら、首根っこ掴んで叱ってやるから安心しとけ。
アリスはルビーマウンテン時代の学友であるカナタと、近頃仲良くやっているみたいだ。いちゃつきながら猫耳をつまむのが癖になるとか、よく手紙に書いてくる。カナタもあながち嫌がっちゃいない。二人ともあんなクセのある奴だから、毒を吐き合うこともあるようだが、基本的には円満だ。カナタに習った拙いワー語を、手紙の末尾に添えたりもしてくるぜ。
お前を一人にして、待たせて悪いな。それは本当に申し訳なく思う。だが、すぐにお前のもとへ飛び込んでいくことは、できないんだ。宿したこいつもそうだし、孫やひ孫の顔まで見てから、お前のもとへ満を持して登場しようと思うんだ。かつて城に持って帰った土産話より、何倍も何十倍も何百倍も土産話ができる。待ちぼうけのお前に、たくさん楽しい話をしてやれる。お前は美しいままだろうに、俺がよれよれになってたらごめんな。お前なら笑って許してくれるはずだ。
生きてる限り、基本的には生きる責務がある。
命ある限り、俺は命あるままでいるべきなんだ。ここにいるこいつのためにも。
お前は俺よりそれを知っていた。知っていながら、お前自身を投げ出した。それは覚悟の要る行為だったと思う。だから俺も、それにちゃんと応えたい。
ユーリがいてくれる。だから俺も笑っていられる。こいつだってやってきた。そんな今を、胸を張ってお前に伝えたい。
愛っていうのは、分かたれて増えるものなんだ。それが命ってものなんだ。お前が俺にくれた今は、こんなに輝いている。お前が可愛がった弟だって、笑っていられる。いつの日か俺たちがお前に再会したら、また愛が増えるんだ。今度はずっとずっと変わらない。時の流れに邪魔されない。誰かの陰謀や、凄惨な悲劇の心配だってもうない。アイク、まだあどけなかった頃の俺たちに戻って、もう一度手をとりあおう。
お前だけのものになれなかった俺を。
お前との再会に殉じず、新しい命とともに生きる俺を。
どうか許して、応援してほしい。
いつかもう一度笑い合えると思えば、いつかやってくる未知の果ても、少しも怖くないよ。
未来は希望で溢れている。それはお前が、ゴールできっと待ってると信じているから。
これは少しの間の別れでしかないって、ちゃんとわかってるからな。
ありがとう、アイク、俺と出会ってくれて。
俺なんかを愛してくれて。
これからもお前のこと、片時も忘れはしない。
一生大切に思い続ける。愛するユーリと同じように。
手紙が長くなると、お前は飽きちゃうよな。
クマちゃんの続きを作りたいよな。
ここらへんにするよ。
お前にラブレターを書けて嬉しい。
本当は今すぐ会いたいって、いつも思ってるが。
それはお前もきっとそうだろうから、お互いちょっと我慢しよう。
お前とあの日見た星空を、今もありありと思い出す。
どうだ、今日もよく晴れててな。外見ると、星がたくさん見えてきれいなんだ。
流星群が来る日だって、ユーリが言っていた。
お前のところからなら、さぞかしよく見えるだろう。
祈ろうぜ、いっしょに。
アイドクレースに幸あれ。
生きとし生ける者に、そして今は亡き者に、そして生まれてくるこいつに、祝福あれと。
じゃ、束の間のさよならだ。
また手紙書くな。
大丈夫。ほんのちょっとの間の、些細なさよならなんだよ。
ルイ・アイドクレースより。




