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プロローグ
氷水を全身に受けると、突き刺すように痛い。
雪深い谷の底の里。表面の凍てついた小川に突き落とされて、びしょ濡れで見上げれば、身分の高い子供たちが、群れてこちらを指差して笑う。
傑作だ。
弱いからこうなる。
悔しかったら、つよくなれ。
悔しかったら、えらくなれ。
非力な者に与えられるのは、いつの世も苦悩と絶望だけ。
ああ、もしも強ければ、もしもこの非情な現実を変える力があれば。
麻の着物が水を含んで、立ち上がるにも重い。
眩んで倒れてしまいそうだ。凍えて崩れ消えてしまいそうだ。
そのときたしかに思った。力があれば、きっとこの谷の外へ――……
終わらない迫害の外へ――……
大切な人と、笑っていられる場所へ――……
これは、その日確かに力を望んでしまった、一人の女の子の物語。
力とはなにかもつゆ知らず、やみくもに憧れてしまった、一人の女の子の物語。
まだ見ぬ王子様の手を取って、いつの日か幸せになりたかった、一人の女の子の物語。