どうして打ち切られたのかわからない漫画
「風追い人」という漫画を知っているだろうか。
しっちーしちだ作の少年漫画である。かつてガンガンで連載されていた。
主人公の少年の成長を描いたファンタジーバトルもの……なのだが、単行本は一巻しか出ておらず、物語も「しっかり完結した」とは云いきれないような終わりかたである。
絵は綺麗だ。今見ると古くささを感じるかもしれない絵柄だが、仮にはやった漫画であっても年月が経てばそうなる。連載当時、あの絵柄が受け容れられなかったかと云えばそうではないだろう。
格闘シーン、戦闘シーンの画力は凄まじい。人物だけでなく、武器や服、小物の造形も。
設定もつくりこまれている。
この物語の世界には「世界樹」というものがあり、それが全世界に水分「水精気」を供給している。世界樹を中心に人間の文明は形づくられており、人間は世界樹の恩恵なくしては生きていけない。現に、世界樹からはなれた場所は砂漠なのだ。
水精気を結晶化したものを武器に加工し、それを触媒にして空気中の水精気をつかうことで、人間は強大な敵とも戦ってきた。
正直この設定だけでもクラフト系のゲームをつくれるのでは? というくらいわくわくする。
温室育ちでノーテンキな主人公が、危機に際して力を発揮し、奮起する……というのは、少年漫画で違和感のない展開であると思う。
ヒロインらしき少女がかなり気の強い、「男勝り」なキャラクターに設定されているが、主人公に少々気弱なところがあるのでバランスとしてはいいのではないだろうか。
敵の首魁も、造形、キャラクター、そして悪事をなす理由など、特に瑕疵がある訳ではない。
風追い人連載当時のことを知っているひとがまわりに居ないので、その当時どのような扱いをされていたのか、知らない。わたし自身は、連載終了後何年も経ってから読んだ。作者がその後、漫画を描くのを辞めてしまったようで、次の作品を読むこともできない。どういった理由で打ち切りに至ったか、わからない。
これだけのものが打ち切られるという現実に、読み返す度に震える。