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第67話 みんなで日和の元へ

「はぁ……」


 昼休み。俺は階段の踊り場でコッペパンをかじりながら、深く溜息を漏らした。


 日和……今頃何をしているんだろうか……ちゃんと飯を食べてるんだろうか……一人ぼっちで泣いてないだろうか……。


 やっぱり、昨日の時点で追いかけて、無理にでも理由を聞けばよかった……くそっ、俺はバカだ……!


「ちょ、桐生君! パン潰れてるで!」

「え……? あっ」


 猿石君に言われてパンを見ると、いつの間にか思い切り潰してしまっていた。パンに当たっても仕方ないだろ……どんだけバカなんだよ俺……。


「日和ちゃん、大丈夫かな……ウチ心配だよ」

「そうだね……」


 最近、日和に嫌がらせをしてくる連中がいるから、人がいる教室で日和が休んだ事情を話すのはマズいと思った俺は、朝のホームルームの前に、日和は体調が悪いという嘘を皆に伝えてある。


 でも今なら周りに俺達以外はいない……ちゃんと事情を話しておこう。


「その、実は――」


 俺は昨日の放課後から日和に避けられている事、朝になったら姿が消えていた事、日和は実家にいる事、そして酷く落ち込んでいる事をみんなに伝えると、みんな驚いていた。


「桐生君、日和ちゃんがウチ達に相談もしないで落ち込む理由に、心当たりは無いの?」

「うーん……」

「もしかしてだけど……昨日のあたし達の話を聞いてたとか? ほら、日和ちゃんなら桐生君がどっか行っちゃうのを見たら、ついてきそうじゃない?」


 言われてみれば……その可能性はある。もしそう仮定するなら、自分のせいで、山吹さんに続いて猿石君と出雲さんにまでも脅迫状が来たって思ってしまったんじゃないか?


 それで辛くなって、自分がいるせいでみんなを苦しめてしまう……そう思って、ワラにもすがる思いで、実家に連絡をしたんじゃないか?


 多分……いや、きっとそうだ。だから昨日あんなに辛そうな表情をしていたんだ……!


「それ、ウチ知らないよ?」

「俺達三人だけで話したからな」

「え~仲間外れ~?」

「いや、自分の事で手一杯かもしれへん山吹さんに、更に心配をかけたくなかっただけなんや」

「ウチは大丈夫だよ。逆に仲間外れの方が辛いよ~」


 口を尖らせながらブーブー文句を言う山吹さんに苦笑しながら、猿石君は昨日俺に教えてくれた事を山吹さんに話した。


 最初は驚いていたけど、山吹さんは「なんか二人らしいって感じ! むしろ相手がざまぁみろって思っちゃった!」と、コロコロ笑ってみせた。


「とにかく、神宮寺さんに直接聞いた方が早そうやな。桐生君、ワイ達も一緒に行く事は可能か?」


 猿石君に続くように、出雲さんも山吹さんもブンブンと首を縦に振る。みんな日和の事を心配してくれてるんだな……。


「どうだろう……ちょっと聞いてみるな」


 俺はスマホを取り出して通話を始める。相手はもちろん真琴さんだ。


『はい、真琴です』

「あっ、真琴さん。一つお願いがあって」

『なんでしょう?』

「日和の話を友達に話したら、みんなも日和の所に行きたいって言ってるんですけど、一緒に行っても良いでしょうか?」

『問題ございません。むしろご友人方も来られると思っておりましたので』


 そ、そこまで先読みしていたのか……話が早くて助かるけど、ちょっと怖いくらいだな。


「じゃあお願いします」

『かしこまりました。英雄様の御自宅の前に車を手配してますので、授業が終わり次第、そちらにいらしてください』

「わ、わかりました」


 そう言うと、真琴さんの声が聞こえなくなった。とりあえずみんな行けるみたいで一安心だ。


「良いってさ。俺の家の前に迎えが来るって」

「ほな、授業が終わったらさっさと行かなあかんな」


 俺は猿石君の言葉を肯定するように頷いてから、手に持っているパンにかじりついた。


 早く日和の元に行きたいのに……今日ほど授業が長く感じた日はない……そんな焦る気持ちを何とか抑えながら、俺は昼休みを過ごした。



 ****



 放課後、俺達は日和の家へ行くために、飛び出すように教室を後にした。


 別に走る必要は無いんだけど……一秒でも早く日和に会いたいって気持ちが、自然と足を早くさせていた。


 ちなみにジムに関してだが、事前に豪さんに連絡は入れてるから大丈夫だ。


「ねえ桐生君、日和ちゃんのお家ってここから遠いの?」

「大体車で一時間くらいはかかるな。だから迎えが来てるって事だ」

「そうなんだね。って……ね、ねえ……なんか住宅街に似合わない真っ黒な高級車があるけど……ウチの見間違い?」

「残念ながら見間違いじゃない。あれが迎えだ」

「……金持ちなのは聞いておったけど、ごっついなぁ……」

「お待ちしておりました、英雄様」


 俺の家の前に行くと、ゴールデンウィークの時に迎えに来てくれた、黒の高級車の運転席から、いつものメイド服を着た真琴さんが、ゆったり出てきてから深々とお辞儀をした。


「迎えありがとうございます、真琴さん。一緒に行く友達です」

「初めまして。神宮寺家に仕える朝比奈あさひな真琴と申します」


 改めてお辞儀をする真琴さんに釣られるように、みんなもペコペコとお辞儀をしながら自分の名を名乗っていた。


 すっごい今更だけど、真琴さんて朝比奈って苗字だったんだな……俺の中だと真琴さんになってたから、全く知らなかった。


「お屋敷までお送りいたします。どうぞ」


 真琴さんは車のドアを開けて俺達を中に招いてから、再び運転席へと向かっていく。その一方で、三人は普通とはかけ離れている車内に、目を点にさせていた。


 その気持ちはとてもわかる。俺もそうだったからな……きっと客観的に見たら、俺もこんな顔をしていたんだろう。


「おかしい……あたし達は車に乗ったはずなのに……いつの間にか、おしゃれな部屋の中にいるんだけど……」

「しっかりせい咲。ワイも信じられへんが、これはれっきとした車の中やで」

「いやいやいや!? 車の中にソファーとか、こんなキラキラした装飾とかいる!?」


 やっぱりこれが普通の反応だよなぁ……よかった、俺が日和の家のいろんなものを見て驚いたのはおかしい事じゃなさそうだ。


「ウチ、ちょっと思ったんだけど……日和ちゃんの実家もかなりやばめなんじゃ?」

「多分みんなの想像の何倍も凄いぞ」

「ひえぇ……」

「では出発いたします」


 俺達がギャーギャー騒いでいると、真琴さんの声と共に、車はゆっくりと動き出す。


 ちょっとみんなの緊張感が薄れてしまったけど、ここから一時間は最低でもかかるし、今だけは少しリラックスしておかないと、多分持たないだろうし、これでいい。


「ふぅ……」


 俺は少し頭を冷やすために、深く深呼吸をしてから、窓の外に目を向ける。


 ……日和、待っててくれ。すぐにみんなと一緒に行くからな――

ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は火曜日の朝に投稿予定です。


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