第62話 俺を怒らせたら……
「あれ、それ私のキーホルダーじゃん。なんであんたが持ってんのよ!」
「落ちてるのを拾ったんだよ」
姫宮を嫌っている三人の女子達が集まる机の上に、この前拾ったイルカのキーホルダーを置くと、三人のうちの一人である、かなり太った女子が、ひったくるように奪ってポケットに入れた。
やっぱりか……俺の予想は当たっていたという事だな。
「これな、屋上の出入り口に落ちてたんだよ」
「あ、ああ! そういえば屋上に昼ご飯を食べに行ったから、その時に落としたのかも!」
「そうなのか。ちなみにそれ、俺が放課後に屋上に出た時は無かったんだけど……戻る時に落ちてたんだよ」
淡々と事実だけを述べると、キーホルダーの持ち主は急にそわそわと落ち着きのない様子をし始めた。
この感じだと、こいつがあの動画を隠し撮りしたんだろう。大方、教室で田中君に声をかけられた時に話をたまたま聞いて、それでついて来て動画を撮ったってとこか。
「不思議だな? 昼飯に行った時に落としたのなら、俺が屋上に行った時には無いと不自然だ」
「あ、えっと……その……」
「ちょっと、なんでそんなもの落としてるのよ……」
「あ、あの時は急いでその場を離れようとして……」
「あー、お前らの仲間割れとかはどうでもいい。それにお前らが姫宮を嵌めようとしたのもどうでもいい。俺が言いたいのはな……」
俺は良い笑顔から一転して、今の俺が出来る最大限の怒りの表情に変えてから、机をバンッ! と大きく叩いた。
「それ以上日和に悪口を言ったり嫌がる事をしてみろ……俺は大切な人達が嫌がるような事をする奴には容赦はしねえ。わかったか?」
「ひっ……!?」
「わかったか聞いてんだよ。はいかいいえで答えろ」
「はっ、はい……」
ドスの効いた俺の言葉に恐れをなしたのか、三人は顔を青ざめさせながら静かに、そして何度も頷いた。
これだけ言っておけば、さっきみたいに日和の陰口を叩くことは無いだろう。まあもしやってきたら、あのイルカのキーホルダーの持ち主が動画をばらまいたって言ってやればいい。
「う~ん……う~~~~ん!!」
「…………」
言う事が終わって日和の元に戻って来たら、日和は一生懸命背伸びをしながら、黒板の上の方を消そうとしているが、どうやらギリギリ届かないようだ。
……頑張って背伸びして、顔を真っ赤にしている日和、可愛すぎて死にそうなんですが。卑劣な女達のせいで溜まったストレスが一気に無くなったぞ。
って、今は頑張ってる日和の手伝いをしてあげないとな。
そう思った俺は、日和と手分けをして黒板の落書きを消すのだった――
****
「——って事があってな」
「なんか想定外な展開になったね~」
昼休み、中庭でいつものメンバーで昼飯を食べながら、朝に教室であった事をみんなに伝えた後、メロンパンを食べる出雲さんがボソッと呟いた。
それについては俺も同意だな。姫宮がなにか日和にしてくると思っていたのに、まさか姫宮が嵌められる展開なんて、誰が予想できただろうか?
「悪い事をしたからバチが当たったんだよ! やっぱり神様は見てくれているんだね!」
小さめだけど、カラフルな弁当を食べている山吹さんの言う事もわかる。俺も姫宮の本性がわかったのは良かったしな。
でも……さっき日和が言っていた通り、いくら相手が悪くても、動画を流したり黒板に堂々と悪口を書いたりしていいとは言えないからな……。
それに、あそこで姫宮を問い詰めないで人気の無い所で問い詰めればよかったな……あれじゃ完全にリンチとやってる事が変わらない。相手が相手だったとはいえ、酷い事をしてしまった。
「それで、あの動画を撮ったのはウチのクラスの女子やったって事か?」
「キーホルダーの一件を見た感じ、十中八九そうだろう」
「ホンマかいな……出所を調べてたのに無駄になってもうたなー」
カツサンドにかぶりつく猿石君に答えながら、俺は自作の弁当のウインナーを口に入れる。
別にあいつらがあの動画を撮って拡散したって、周りの連中に言っても良いんだけど、それで恨まれて日和やみんなに害が及ぼされる可能性もあるからな……日和への陰口の抑止力として持っておくのが正解だと思う。
あと、そんな事をしたらあの女達と同じステージにまで落ちてしまう気もするしな。
「わざわざ調べてくれてありがとな」
「ええって。実はあいつら小賢しい事をしておったみたいでな……捨て垢で動画を拡散しておったから、誰がやっとるかわからんくてな。桐生君の報告のおかげでスッキリしたわ」
随分と用意周到な事をしてたんだなあいつら……それだけ姫宮の事が嫌いだったんだろうか? 俺もいじめてた奴らの事は大嫌いだが、そこまでしたいとは思わないんだが……。
女の嫉妬って奴かもしれないな。女って怖い。
「……花園さんも、姫宮さんも……それに他の人も、なんでそんな酷い事をするんだろう」
日和は持っていた箸を弁当箱の上に置いてから、悲しそうに眉尻をさげながら俯いた。
人間ってのは愚かな生き物だ。自分が気に入らないから悪口を言ったり、嫌がらせをしたりする。自分が気持ち良くなるために他人を利用する。自分が有利になるように、人に平気で嘘をつく。あげたらキリがない。
みんな日和みたいに優しい人だったら、こんな事で頭を悩まさないで、楽しく生活できるのにな。
「まあなんにせよ、これで姫宮さんからの嫌がらせは気にする必要はあらへんな」
「そうは言い切れない。今回の件は姫宮が自爆しただけだが、かなり俺や日和を逆恨みしてそうな雰囲気があった。まだ警戒はしておいた方がいいと思う」
あの姫宮の様子からして、普通に仕返しとかして来てもおかしくはなさそうだし、注意しておいて損はない。
あと、俺には姫宮の発言で引っかかってる事がある。
——アタシを脅したあいつ。
脅した……もしかして、田中くんが言っていた様子が変ってのは、それが原因なんじゃないだろうか?
様子が変だったと言えば、花園もらしくない事をしていたし……まさか、この一連の出来事には、裏で手を引いている黒幕がいるんじゃないか?
もしそう仮定するならば、一体誰がそんな事をしたのか?
可能性があるとしたら、ずっと俺をいじめていた一人である、鬼塚美織だろうけど……日和に嫌がらせをさせる意味がよくわからない。
「ヒデくん、どうしたの? 凄く怖い顔をしてる」
「いや、なんでもないよ」
っと、考えすぎて顔が強張ってしまってたか……現状じゃまだ判断出来るような事じゃないし、今は日和に悪い事をする奴がいたら対応できるように、周りに気をつけるようにしよう。
****
「あらあら、予想外の事態になったわね」
自分の席に座ってお弁当を食べながら、私はスマホでとある動画を眺めていた。それは、ヒーロー君と神宮寺さんが、私の知らない男子から姫宮さんの本性を聞いている動画だった。
なんでこんな動画が撮られているのかしら? よくわからないけど、私にバラされる前に沢山の人にバラされるなんて本末転倒ね。高等な自爆すぎて笑っちゃうわ。
あぁ、でも困ったわ……姫宮さんがどうなろうと興味ないけど、ヒーロー君を苦しめるコマが減ってしまった。とっても悲しいわ。
「……まあいいわ。私のお友達はたくさんいるし……そろそろ行動に出ようかしら」
ちょっとお話しただけで協力してくれると言ってくれた、沢山の優しいお友達にお願いして、さらにヒーロー君を追い詰めていきましょう。
ふふっ……私は神宮寺さんだけなんて事はしない。ヒーロー君の周りにいる子……猿石間猿、出雲咲、山吹綾香……あなた達にとっておきのプレゼントをしてあげる。
ああ、今から楽しみだわ……!
ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は金曜の朝に投稿予定です。
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