第60話 第二回作戦会議
「みんな、急な招集なのに来てくれてありがとう」
翌日の昼間、俺は家に集まってくれた友人達を見ながら、深く頭を下げた。
昨日、何の前触れもなく、日和の事でまた話したい事があると言ったら、みんな喜んで協力してくれると言って来てくれた。ホントに良い友達を持ったものだ……ちゃんと何かの形でこの恩を返さないとな。
「それで、急にどうしたの? ウチ、何があったか知らないんだけど……」
「ワイも聞いとらんわ」
「ああ、実は……」
俺は昨日、田中君から聞いた姫宮の事をみんなに丁寧に説明すると、驚く出雲さんと山吹さんとは対照的に、猿石君だけは何故か納得したように頷いていた。
「なるほどなぁ。いろんな男に良いカッコをしとるとは思っておったが、自分に都合の良いおもちゃにしたかったっちゅー事か」
「そういう事だろうな」
「じゃあ、間猿が姫宮さんの誘惑に乗ってたら……」
「ワイは今頃姫宮さんのおもちゃやったな。何か魂胆があるのは見え見えやったし、騙される要素が無かったけどな」
ハハッ、と姫宮を小馬鹿にするように笑ってみせながら肩をすくめる猿石君。
猿石君はなんだかんだで頭が切れるから心配はないけど……もし何かの間違いで猿石君が姫宮の下についてたらって思うと……ゾッとするな。
「それにしても、騙される男も大概だけど……おもちゃにするってのも、かなり性格が悪いっていうか……あたしにはよくわからないなぁ」
「咲やったら誘惑せずに暴力で支配しそうやな! アハハハハ!」
「アハハハハハ! 十秒以内に謝らないと、頭カチ割るぞクソザル?」
「いやマジでスミマ――へぶんっ!?」
十秒を待たずに謝ろうとしていた猿石君の顔面に、出雲さんの拳が思い切りめり込む。
だ、大丈夫か……? 猿石君の顔が米印みたいな形になってるぞ……痛いどころじゃ済まないと思うんだけど……いつもの事だから放っておこう。
「その……みんな、ごめんなさい。また迷惑をかけちゃって……」
「日和ちゃんが謝る事ないって! ウチ達は迷惑なんて全く思ってないから!」
「そうそう! お友達を助けるのは当然!」
申し訳なさそうにしゅんとする日和を慰めるためにか、女子二人が一斉に日和を抱きしめたり頬ずりしたり、頭をなでなでし始める。
なんだか随分と激しいスキンシップだな。日和が嫌がってるなら止めないといけないけど……なんか嬉しそうだし、このままでいいか。
「おほー! 美少女達の濃密な絡み!! 永久保存版やー!!」
……こっちはこっちで、さっき粛清されたばかりなのに懲りないなぁ……変に緊張するよりも、いつも通りの方がいいよな。
「でもさ、今回は相手がわかってるんだし……前回よりはまだいいんじゃないかなってウチ思うんだけど?」
「誰がやってくるかわからないって理由でビクビクする必要が無いって意味で言うなら、その通りだと思う。けど、姫宮が何をしてくるかがわからないのがな……」
あれ……言ってて思ったんだけど、この程度の内容だったら、普通にメッセージで済ませればよかったんじゃないだろうか? 完全にミスった気がする。
「あー……ごめん、この程度ならメッセージでよかったな」
「あたしは全然気にしてないよ! この後に遊べるし!」
「それさんせー! みんなでこの後遊びに行こう!」
なんか出雲さんと山吹さんの二人で話がドンドンと盛り上がってる気がする。まあ家で姫宮の事で変に悶々とするよりはいいだろう。
「じゃあじゃあ! ウチ、駅前のラウンドスリーいきたい!」
「ラウンドスリー? 確かボーリングとかカラオケが出来る所だよな」
「そうそう!」
「ラウンドスリー……私、行ってみたい」
俺としては行っても全然構わない。日和にも意見を聞こうとした矢先、日和は既に目をキラキラとさせていた。
「あー……ワイはパスや。もうちょっとしたら親が出かけてまうから、弟達の面倒を見ぃひんとあかんねん」
「猿石君、弟がいたのか。初耳だな」
「歳の離れた弟と妹が一人ずつおるねん」
「それなら……仕方ない。また今度遊びに行こうね」
ちょっと悲しそうに笑う日和を励ますように、猿石君は「もちろん!」と高らかに宣言しながら、ビシッと親指を立ててみせた。
****
週明けの月曜日、ムシムシとした暑さにうだりながら学校に行く途中、俺はいつもとなんか違う雰囲気に首を傾げていた。
自意識過剰かもしれないけど、登校中に会う青蘭高校の生徒達が、俺達を見ながらヒソヒソと話をしているような……そんな変な感じがしていたんだ。
「ねえヒデくん、なんか同じ学校の人が私達を見てる気がする」
「日和もそう感じるか?」
俺の問いに、うんと小さく頷いて見せる日和。
んー……マジで何なんだろうな? 日和と手を繋いで登校をしているせいか? でも、こんなのは付き合うようになってから毎日のようにしてるし……今更注目を浴びるっていうのもおかしな話だ。
「よくわからないけど、気にしないで行こうか」
「そうだね」
気を取り直して学校に向けて歩き出すが、やっぱりなんか視線を感じる……視線の方に向くと、顔を背けられるし……ホントになんなんだろうか?
考えてても仕方ないか。そんな事よりも、今は日和と楽しい事を話すとしよう。
「ラウンドスリー、楽しかったな」
「楽しかった。またおやすみの時に行きたい」
「そうだな。今度は猿石君も一緒にな」
「うん」
作戦会議が終わった後、猿石君以外の四人でラウンドスリーに行ってたくさん遊んだんだが、色々な発見があった。
まずカラオケをしたんだが、ビックリするくらい山吹さんは歌が上手く、何度も九十五点前後の高得点をたたき出していた。
一方で日和はビックリするくらい音痴だったんだけど、そんなのは全く気にする事はなく、楽しんで歌っていた。俺と出雲さんは普通くらいの点数で、パッとしなかった。
その後にボーリングをした。わかってたって感じはしたけど……出雲さんがめちゃくちゃ上手い。三ゲームやって、全部二百点オーバーという好成績。
体格が全く違う黒鉄と互角に戦える運動能力があるんだから、そりゃ運動が得意でもおかしくはないよなって感じだな。
その次に点数が高かったのは俺で、百後半くらい。山吹さんが百いかないくらいだった。腕が完治していれば、もうちょっと伸びたかもしれない、
最下位は日和で五十点くらいだった。ちなみにこれには理由がある。どうやら腕の筋力が無さ過ぎて、毎回顔を真っ赤にして、身体をプルプルしながら投げていた。そのせいで、なかなかボールが真っ直ぐ行かなかったのが理由だ。
その時の日和がめっちゃ可愛くて……俺ら三人揃ってとても和んでしまうくらいには可愛かった。後半には疲れちゃって両手で投げてたし。
そんな訳で、色々新しい発見があって充実した休日だった。一番良かったのは、沈んでいた日和が、終始楽しそうに笑っていた事だろう。遊びに行こうって言ってくれた山吹さんには感謝しかない。
「日和、上履きを取ってくるから待っててくれ」
「わかった」
とりあえず学校に到着した俺は、日和から靴を受け取って下駄箱の中にある上履きと取り替える。
とりあえず、今日はイタズラはされてないな……よかった。なるべくイタズラをされないように、早めに出てきたのが功を奏しているのか?
「はい、上履き」
「ありがとう。いつもごめんなさい」
「日和の為ならこんな事くらい、いくらでもやるよ」
俺は上履きを触っていない方の手で日和の頭を撫でると、ちょっとくすぐったそうに笑ってくれた。
姫宮の事があるから、全て解決したわけじゃないけど……少しずついつもの日常が戻ってきた。この調子で、また楽しくて幸せな生活に戻れるだろう。
そんな事を想っていた俺の思惑は、思わぬ形で叶えられる事になる。
「なんだ……これ?」
まだ十人程度しかいない教室に入った俺と日和の視線の先――そこには『姫宮死ね・性悪女・ビッチ・ぶりっ子・勘違い女・男に色目を使っておもちゃにする最低女』といった、酷い言葉が殴り書きにされた黒板が俺達を出迎えた。
ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は日曜のお昼に投稿予定です。
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