第53話 犯人との対面
「え……英雄くん……どうして……」
状況が理解できていないのだろう……花園は日和の机に手を乗せたまま、ヘビに睨まれたカエルの様に固まっていた。
普通に考えて、まさか俺が仲間を引き連れて現場に来るなんて思いもしないよな。
「日和に嫌がらせをする犯人を直接捕まえる為に、みんなに協力してもらって見張ってたんだよ」
「うっ……!」
「はいはい、こっちは通行止めですよ~!」
悔しそうにギリッと唇を噛みしめた花園は、教室の前の入り口に向かおうとするが、そこは出雲さんに塞いでもらっている。
後ろの入口は俺、日和、山吹さんが押さえてるし、直ぐ近くにある掃除用具入れには猿石君もいる……完全に逃げ場はない。
「よっしゃ! まさに袋のネズミっちゅー奴やな!」
掃除用具入れに隠れていた猿石君は、嬉しそうにガッツポーズをしながら出てきた。
言ってる事は間違ってないんだけど、そんな所から出てこられるとちょっとマヌケに見えてしまう。
「さて……花園。話を聞かせてもらおうか」
「英雄くん……わたしは……」
「俺としては、可能性がある人間の中で、お前が一番可能性は低いと思っていた。そんなお前が、どうしてこんな事を?」
目を泳がせて挙動不審になっていた花園だったが、俺の言葉が気に入らなかったのか、急に鋭い目つきで声を荒げ始めた。
「どうして? そんなの決まってる! 英雄くんは再会した時、わたしの話を一切聞こうとしなかった! 拒絶した! ちゃんと謝ったのに……あんなに仲良しだったのに……! だから私は思ったの! 英雄くんはその女に騙されてるって! そうじゃなきゃ、友達のわたしを理由もなく拒絶するわけがない!!」
一体花園は何を言っているのだろうか? 俺が日和に騙されている? そんな事実は一切無い。
「だから、神宮寺日和に嫌がらせをして学校に来なくさせれば、英雄くんはまたわたしを見てくれると思ったの!」
「……まともな理由とは思っておらへんかったが、随分と自己中な理由やなぁ。じゃあ聞くけど、なんでその友達が、ガキの頃に桐生君に嫌いなんて言うたんや?」
「そ、それは……そう言わないといじめるぞって脅されて……ホントはあんな事なんて言いたくなかった! わたしは被害者なの!」
心底呆れたように溜息を吐きながら言う猿石君。一方の俺は、花園の過去の告白に驚きを隠せなかった。
そんな脅しを過去にされていたなんて、全く知らなかった……いじめられるというのは、実際に体験すればわかる事だが、第三者が見たり聞いたりするよりも、何十倍も辛いものだ。
それなら、俺を急に拒絶したのも、ある意味納得のいく事……なのか?
「ねえ英雄くん、わたしは悪くないんだよ。だから許して……ね?」
「あなたは……自分は悪くない、被害者だって言ってるけど……お友達なら、いじめられるってわかっても味方をするものじゃないの?」
日和の力強い言葉に、俺は思わずハッとなりながら日和を見ると、日頃から大人しい日和にしては珍しいと断言しても良いくらい、表情を怒りに染めながら花園を睨みつけていた。
……確かに日和の言う通りだ。俺だって、もしいじめられてあの日々が帰ってくるとわかっていても、日和や友達が助けられると思ったら、喜んでいじめられようと思える。
何故なら、俺がいじめられる事で、一生残ってしまう傷を肩代わり出来るかもしれないからだ。
「あんたなんかに何がわかるのよ! 英雄くんを騙したくせに!」
「そっちこそ何もわかってないじゃん! 日和ちゃんは凄くいい子だから! あんたみたいに、自分の事しか考えてないような女とは全然違う!」
「うるさいうるさい! ていうか、ずっと見てたけど、あんたもずっと英雄くんと一緒にいて! あんたなんか英雄くんの友達じゃない!!」
今にも物理的に噛みつきにいこうとする山吹さんを必死になだめていると、花園から聞き捨てならない言葉が飛んできた。
ずっと見てきた……? それはおかしい。花園は同じクラスじゃないのに、どうしてずっとなんて単語が出てくるんだ?
……もしかして。
「……日頃から誰かに見られてるような感じがしてたけど……お前、ずっと俺の後をつけてたのか?」
「そうよ! ホントは話しかけようと思って後をついていったけど、また拒絶されるかもって思ったら声をかけられなくて……ストーカーをして見つめる事しか出来なかったの!」
なるほどな、これであの謎の視線の正体がわかった。まさかストーカーをされてるとは思ってなかったが。
「ふぅ……とりあえず事情は分かった」
「じゃあ……!」
俺が怒らずに言った事で安心したのか、花園はパッと表情を明るくさせる。
「……お前は自分の為に日和を傷つけた。そんなお前を俺は許すことは出来ない」
「え……どうして……わたし達、友達でしょ……? 図書室であんなに楽しく過ごしたのに……それなのに……!」
「当時はそうだったな。だけど、自分の保身の為に俺を拒絶し、バカみたいな思い込みで俺の大切な人を傷つけたお前はもう友達じゃない。俺の敵だ」
さっきから友達友達って……心底イライラさせてきやがる。
俺は高校生になって、一緒に楽しんだりバカやったり……ホントの友達っていうものを知った。でもこいつの言う友達は……それとは違うように聞こえる。
「俺の友達は……ここにいる猿石君と、出雲さんと、山吹さんだ!」
「あ、あれ……? 私は……?」
「日和は俺の世界で一番大切な……俺の彼女だ」
「っ……! え、えへへ……」
俺の制服の裾を引っ張る日和を安心させるために、俺は日和の頭を優しく撫でながら答えてあげると、不安そうな顔から一転して、嬉しそうな笑顔に変わった。
そのやり取りが気に入らなかったのだろう――花園は地団駄を踏みながら頭を掻きむしり始めた。
「……認めない。認めない認めない!! 英雄くんはその女だけじゃなくて、こいつらにも騙されてるんだ! わたしから唯一の友達を奪うなんて……! どいつもこいつも……憎い……憎い憎い憎い……! そうだ、こいつらがいなくなれば目を覚ましてくれるよね? あはははは! きっとそうだよね!」
急に壊れたかのように笑い始めたと思った矢先、花園は日和の席にあった椅子持ち上げた。
ま、まさか……あの椅子をぶん投げるつもりか!?
「まずはお前からだ! 神宮寺日和ぃぃぃぃ!!」
花園はまるで化け物のような雄たけびを上げながら、持ち上げた椅子を日和に向けて投げた――
ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は金曜日の朝に投稿予定です。
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