第51話 頼れる友達
「現場を押えるって言うけど……そんな事出来るのかな?」
俺の提案に、山吹さんが少し不安そうな表情で首を傾げる。
普通に考えて、次に相手が何をしてくるかがわからない以上、嫌がらせをしている現場を抑えるのは難しいだろう。
でも、俺にはそれが可能だと思っている。その理由をみんなに説明しないとな。
「可能だ。その根拠だが……相手のやり口にある」
「……ヒデくん、どういう事?」
「相手が今までやって来た事って、日和に直接何かをしてきてるわけじゃない。間接的な嫌がらせをしているんだ」
今までの相手のやり口として、下駄箱にゴミを入れたり、靴に画びょうを入れたり、机に落書きをしたり、机の中に悪口を書きなぐった写真を入れたり……どれも陰湿なものだが、これらは全て事前に仕込む時間がある。そこを突く。
「もちろん今後、日和に直接害を与えるような事をしてくる可能性も無いとは言い切れないが……」
「ほぼゼロやろな。大体の時間は、ワイらの誰かが神宮寺さんと一緒におるし」
「そういう事だ。嫌がらせにこっちが気づいている事は犯人もわかってるだろうし、俺達が日和から離れないのもわかってるはずだ」
「って事は……また日和ちゃんの持ち物に嫌がらせをしてくるって事!?」
凄い剣幕で身を乗り出す山吹さんに、俺は深く頷いて見せる。
「だから、朝にまた嫌がらせをしてくると思う。そこを捕まえるって事だ」
「よっしゃ! じゃあめっちゃ朝早くに張り込みやな!」
「ああ。部活の朝練の関係で、七時から学校に入れる。だから、明日その時間に全員で学校に入って現場を押さえようと思ってるんだけど……みんな協力してくれないか?」
俺は深く頭を下げながら、みんなに協力をお願いする。
今までの俺だったら、一人でなんとかしようとしていただろう。でも、俺の心には以前に誠司さんに言われた、抱え込まないで人に頼った方が良いという言葉があった。
だから、勇気を振り絞って皆にお願いをしてみたんだが……これで断られたらどうしよう。まあその時は今までの様に一人で何とかすればいいだけか。
「ったく、言われんでも協力するわ!」
「任せておいてよ! 犯人にキックを入れてやるんだから!」
「ウチも協力する! 絶対に捕まえようね!」
「みんな……ありがとう」
断られるどころか、協力しない理由が無いと言わんばかりに、キリッとした勇ましい表情で頷く三人の姿に、俺はたまらず目頭が熱くなってしまった。
そうだ、俺は一人じゃない……みんながいる。そう思うだけで、どんな事があっても乗り越えられる気がするのだった。
****
今日の作戦会議が終わり、みんなが家に帰った頃、俺は日和と一緒に静かになった部屋で、お茶飲んで一息入れていた。集まった時は夕方だったのに、いつの間にか外はもう真っ暗だ。
なんか……いつも日和と二人きりでこの部屋にいて、この静かさもいつもの事なのに、さっきまでの賑やかだったせいか、物凄く静かに感じるから不思議だ。
「ヒデくん、みんな協力してくれてよかったね」
「そうだな。それよりも日和、こんな酷い事されて大丈夫か? どこか具合が悪くなったりしてないか?」
「うん、大丈夫。今日も嫌な事をされたけど……良い事もあった」
いつものように、えへへと可愛らしく笑う日和。
良い事……? なんかあっただろうか? どうもあの嫌がらせが頭にこびりついているせいで、思い出そうとしてもそればかりが浮かんできてしまう。
「みんながずっと私のために一緒にいてくれてる。ずっと一人だったから……すごく嬉しいの」
「……そうだな。友達がいるって凄く心強いな」
日和の気持ちは痛いほどわかる。日和と再会してすぐに、姫宮から庇ってくれた時や、黒鉄と対面した時にみんなが来てくれた時……そして今回も、俺には友達がいるって思うと、物凄く心強くて嬉しかった。
「あと、綾香ちゃんにお化粧してもらって、ヒデくんに褒められた」
「…………」
褒められた時の事を思い出したのか、少しだらしない笑顔を浮かべる日和を見ていたら、物凄くドキドキしてきた。
いつもの日和でもめちゃくちゃ可愛くて、ドキドキさせられっぱなしだってのに、メイクをしているからか、可愛さがいつもよりも増していて……!
「日和……」
「あっ……ヒデくん……」
俺は日和に近づきながら、頬を優しく撫でると、俺の意図を察してくれたのか、日和はゆっくりと目を閉じながら顔を少しだけ上げてくれた。
「んっ……ちゅ……ヒデ、くん……」
「日和……」
短めのキスを交わしてから顔を離したが、まだ足りない俺達は、再度唇重ね合わせる。
「んむっ……はぁ……ちゅ……」
「んっ……!?」
にゅるん、と何かが俺の口の中に入ってきたせいで、俺は思わず変な声が出しながら、顔を離してしまった。
え、え……? 今のって、もしかして日和の舌か……!?
「あ……ごめんなさい、イヤだった……?」
「い、イヤじゃない! 急でビックリしただけだ!」
悲しそうな表情で顔を伏せる日和に、俺は急いで弁明をする。
まさか、日和がそんな積極的なキスをしてくるなんて欠片も思ってなかったからな……本気でビックリした。
「その……前に読んだ本に、ちゅーの時に舌を絡める場面があって……」
「なるほど……それでしてみたいって思ったと」
「うん……んむっ」
説明をしながら、顔をリンゴみたいに真っ赤にさせる日和の可愛さに我慢が出来なくなった俺は、三度日和とキスをする――もちろん最初のキスとは違い、舌を絡めた深いキスだ。
「ちゅぷ……んっ……ヒデ、く……はむっ……くちゅ……」
唾液が混じり合う艶かしい音が、部屋に木霊する。
やっている事はキスに変わりはないのに、舌を絡めるだけで……こんなに……。
「……ヒデくぅん……」
「日和……」
いつものキスよりもかなり長い時間交わしてから、ちゅっという音と共に顔を離すと、目の前には目をとろんとさせて俺をじっと見つめる日和の顔があった。
その顔が、俺にはもっとしてほしいという意味なのか、日和は俺の首に手を回した。
そのままキスをしようとした矢先、事件が起こった――なんと、玄関からガチャガチャと音と共に、聞き覚えがありまくるハイテンションな声が聞こえてきたんだ。
「ただいま~! あれ、日和ちゃんも来てるのね~!」
「「ふあああぁっ!?」」
こ、この声……もしかして母さんか!? 今日帰ってくるなんて全く聞いてないぞ! と、とにかく日和から離れないと……!
「あらぁ……ひょっとしてお邪魔だったかしら?」
お、遅かったぁぁぁぁ!! キスしているところじゃないとはいえ、完全に抱き合ってるのを実の母親に目撃されたぁぁぁぁ!!! めっちゃニヤニヤしてるし!!
「あ、えっとその……おかえりなさい、お母様」
「ただいま日和ちゃん!」
「母さん! 帰ってくるときは連絡をくれって言ってるだろ!」
「だから入れたってば~」
……マジで? そんな連絡来てなかったはず……あっ、来てたわ。丁度みんなで作戦会議をしてる時だったから、全く気付かなかった……完全に俺のミスです申し訳ございません。
「二人共仲睦まじくて良いわね~。父さんとラブラブだった日を思い出すわ! あっといけない! お邪魔そうだし、母さん夜ご飯の買い物行ってくるわね! ごゆっくり~」
「か、買い物なら俺が行くから! 仕事で疲れてるんだろ!」
「いいわよ別に~。せっかく日和ちゃんとラブラブしてたんだから、もっと楽しみなさい」
「わ、私もお買い物行きたいです。その……お母様といられる時間も大切だから……」
「もう、日和ちゃんったら可愛い事言っちゃって! じゃあ親子三人で一緒に行きましょうか!」
「親子じゃないって!」
「ほとんど秒読み状態でなにを言ってるんだか。じゃあ母さん外で待ってるわね~」
まるで嵐のようにやって来て、そして去っていった母さんの後ろ姿を見送った俺達は、顔を見合わせながら、どちらからともなくクスクスと笑ってしまった。
「ったく……それじゃ、買い物行こうか」
「うんっ。あ、その前に……ちゅっ」
「ひ、日和……」
「えへへ」
立ち上がろうとする俺の手を掴んだ日和に、まるで小鳥がついばむかのような優しいキスをされた。
うっ……さっきからキスしまくってるのに、なんでこう不意打ちでされるとメチャクチャドキドキするんだろう?
そんな考えても答えのでなさそうな事を考えながら、俺は日和と一緒に外で待つ母さんの元へと向かうのだった――
あ、どうでもいいかもだけど……母さんは外に行くふりをしていたみたいで、最後のキスしてる所をばっちり見られました。恥ずかしすぎて死ねる……。
ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は日曜日のお昼に投稿予定です。
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