第35話 規格外の大豪邸
「………………まじか」
家を出発してから約一時間後、車を降りた俺は、目の前の光景に息を飲んでいた。
いや、うん……確かに日和の家は、めっちゃ金持ちってのは聞いていたよ? 後で調べたおかげで、凄いデカい会社を経営してるのもわかっている。
でも……物語に出てきそうな大豪邸が目の前に出て来たら、いくらわかっていても驚きを隠せないって!
「ヒデくん、どうしたの?」
「あ、いや……ちょっと家が大きくてビックリしてただけだ」
「そうなの?」
やべえ……足がまるで石みたいになっている。この家には自分は相応しくないって身体が感じているのか?
「ヒデくん、大丈夫。誰もヒデくんをいじめたりしないから」
「日和……」
俺が怯えていると思ったのか、日和は俺の手を優しく握りながら、優しく微笑んでくれた。それだけでも、心が軽くなるから不思議だ。
「では私は車を移動させますので、お二人はお屋敷へどうぞ」
「ありがとう。ヒデくん、いこっ」
「わかった。真琴さん、ありがとうございました」
俺は真琴さんにペコっと頭を下げてから、日和と手を繋いで大豪邸の玄関へと向かう。
すげえな……玄関一つを見ても綺麗な作りだ……あまりにも次元が違いすぎて、凄いとか綺麗とかしか言えないくらいだ。
「ただいまー」
「お、おじゃまします……」
『おかえりなさいませ、お嬢様』
玄関を開けると、十人程の執事さんやメイドさんの人達が、一斉に深々と頭を下げて日和を出迎えてくれた。
なんだこれは……こんな光景が現実にあるなんて、全然信じられないんだが。
「お待ちしておりました、英雄様。お荷物をお預かりいたします」
「あ、は……はい」
とても綺麗な動作で歩み寄ってきた初老の男性に、俺は言われるがままに荷物を預ける。
何もかもが普通からかけ離れていて、頭の処理が追いつかない。こんな時に猿石君がいてくれたら、軽口で場を和ませてくれるかもしれないのに……今だけ来てくれないだろうか。
「おかえりなさい、日和」
「お母さん! ただいま!」
目の前にある、赤いカーペットが敷いてある階段から、一人の女性が降りてきた。日和を大人っぽくして身長を大きくしたような姿をしていて、ウェーブがかかったセミロングの銀髪が良く似合っている。
もしかして、この人が日和の母さんの流華さん? 正直若すぎて、お姉さんと言われても何の違和感もない。
あと、日和は大人しくて可愛いって感じだけど、この人はおっとりとした美人って表現がしっくりくる。日和も大人になったらこんな感じになるのだろうか?
「あなたが英雄君?」
「は、はい! 桐生英雄っていいます!!」
「あらあら、そんなにかしこまらなくていいのよ~。自分の家と思ってくつろいでね」
いやいや! 日和の実家ってだけでも緊張しすぎて口から心臓が出そうだっていうのに、こんなスケールのデカい家でくつろぐとか無理だって! 俺がいつもいる家なんて、この玄関よりも狭いんだぞ!
「それに……いつかはここが、英雄君の第二の家になるんだしね~」
「え!? えっと……その……」
第二の家!? それってつまり……日和と結婚して、流華さんとも家族になって……執事さんやメイドさんにお坊ちゃまとか言われるようになるって事か!?
「お母さん、ヒデくん困ってる」
「あらそうなの? 本当の事を言っただけなのに~」
「あ、えっと! これ、つまらないものですが!」
「まあ、ご丁寧にありがとうね、英雄君。あっ! ここのお菓子好きなのよ~!」
この空気を変える為に、俺は手に持っていた紙袋を流華さんに差し出すと、嬉しそうに笑顔で受け取ってくれた。
ちなみに中身だけど、ピヨピヨって名前の有名な和菓子屋のまんじゅうだ。名前は随分と可愛らしいけど、全国で愛されているお菓子だったりする。
「積もる話もあるでしょう。丁度いい時間だし、ご飯を食べながらゆっくりお話しましょうか」
「うん。ヒデくん、いこう」
「あ、ああ」
日和と流華さんに連れられて、建物の奥へと進んでいく。
廊下もめっちゃ綺麗だな……床はピカピカだし、壁には所々に高級そうな絵が飾られてるし、天井はめっちゃ高いし……情報量が多すぎて、頭がついていけない。
「ヒデくん、そんなにキョロキョロして、どうしたの?」
「い、いや。なんでもない」
隣を歩く日和の問いに対して、俺は適当に笑って誤魔化す。
建物の中が凄すぎてキョロキョロしてたーなんて言うのは、ちょっと恥ずかしいからな。
「二人共~こっちいらっしゃい」
流華さんに呼ばれた俺達は、とある部屋に入る。その中には、縦にメチャクチャ長い机と、椅子がいくつか置いてある部屋だった。天井にはデカいシャンデリアもあったりして、いかにも豪邸の部屋って感じだ。
「適当な席に座ってね~」
「は、はい」
流華さんに促されて、俺は適当な椅子に腰を下ろす。すると、それに合わせるように、日和は椅子を持って俺のすぐ隣に置くと、その椅子にちょこんと座った。
「日和、わざわざ椅子を運んでどうしたの? 英雄君の近くに行きたかったの?」
「うん。いつも一緒にご飯を食べている時はこれくらい近くだから」
「まあ、そんなに近くで!? もしかしてあーんとかしてるとか!?」
「たまにしてくれる」
「きゃ~! まさに青春ね!」
なんかやたらと盛り上がってるな……そんな近くで食べるとか、あーんをするなんて何事だ! って怒られるかと思ってたから、ちょっと意外だ。
あと、いつもは小さなテーブルに対面に座ってるから、こんなに近くでは食べてないぞ?
「っと、二人の仲良し話をもっと根掘り葉掘り聞きたいけど、続きは誠司さんが帰ってきてからにしましょうか。もう少しで帰ってくるって言ってたし、ごはんも揃ったら食べましょうね~」
「日和、誠司さんって?」
「私のお父さん」
日和に耳打ちで聞くと、俺の最も恐れていた回答が返ってきた。
日和の父さん……絶対に粗相は出来ない……ちょっとでもやらかしたら、もう娘とは金輪際関わらせない! って言われる未来が容易に想像できる。
「ひ、ヒデくん? 顔色悪い……大丈夫?」
「だ、大丈夫だ……」
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ~。誠司さんは無愛想であまり喋らない人だけど、怖い人じゃないから~」
「は、はい」
日和が心配そうに表情を曇らせながら、俺の背中を優しくさすってくれる中、俺は流華さんの言葉に答えながら頷く。
俺の緊張を和らげてくれるのはありがたいけど……すみません、やっぱり緊張しまくりです。
「ヒデくん、お父さんは凄く優しいから、大丈夫」
「わ、わかった」
日和にそう答えたのを合図にするように、部屋のドアが開く音が辺りに響く。
音のした方に勢いよく向くと、そこには短めの黒い髪をばっちりセットし、スーツを完璧に着こなした眼鏡の男性が立っていた――
ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は火曜の朝に投稿予定です。
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