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第34話 日和のお家へご招待

「ヒデくん、起きて」

「んー……」


 母さんと久しぶりに食事を取った翌日——俺は身体を揺さぶられる感覚に反応するように目を開ける。


 あれ……日和? なんで俺を起こしに来たんだ? 今日からゴールデンウィークで早起きの必要はないんだが……ていうか、玄関のカギは閉めたはずなんだけど……。


「……どうやって入ったんだ?」

「昨日、ヒデくんのお母様から合い鍵を貰った」


 ちょっと自慢げに口角を上げながら、日和は俺に鍵を見せてくれた。


 ああなるほど……それで開けたのか……締め忘れたわけじゃなくてよかった……ん? 合い鍵? 母さんいつの間にそんなのを渡していたんだ?


 まあ俺としても、合い鍵を渡すのは全然構わないからいいんだけどさ。


「ふぁ~……朝飯用意するから、ちょっと待っててくれ」

「ヒデくん、私も一緒に作りたい」

「ああ、そうだったな……ごめん、まだ頭が起きてない……顔洗ってくる……」


 寝ぼけているのか、ボーっとしたままの頭をシャキッとさせるために、俺は顔を洗いに洗面所に向かった。


 ちなみに母さんの姿はもう無かった。きっと既に仕事に行ったあとなんだろう。また帰ってきたら日和と一緒に出迎えて、三人で飯を食べながらゆっくり話したいな。


「ふ~……目が覚めた」


 タオルで顔を拭きながら、鏡を見て自分の姿を確認する。おっと、寝癖があるな……これくらいならすぐに直るな。


「これでよしっと」


 寝癖を素早く直した俺は、今で待っている日和の元に向かうと、日和は何故か少しジト目で俺を見つめていた。


「ど、どうした?」

「むぅ……寝癖、直ってる……また直してあげたかったのに」

「え、え~……?」


 日和がちゃんと直せって前に言ったから、ちゃんと直してきたんだけどなぁ……まさか直さないのが正解だって思わなかったんだが。


「えへへ、冗談」

「じょ、冗談か……日和を怒らせたのかと思って焦ったぞ」

「そんな事で怒らない。でも今度直させてね」

「わかったよ。とりあえず一緒にご飯作るか」

「うんっ」


 嬉しそうに微笑みながら頷く日和と一緒に、俺は朝ご飯を作るためにキッチンへと向かうのだった――



 ****



「うぅ……難しかった」

「最初はそんなものだよ」


 出来上がった朝食を眺める日和は、少し疲れたようにふぅ……と息を漏らしながら言う。


 今日は白米とソーセージ、豆腐とわかめの味噌汁にスクランブルエッグにした。日和には豆腐やソーセージを切ってもらったり、スクランブルエッグを作ってもらった。


 だが、ソーセージは大きさがバラバラだし、豆腐は切るのに失敗して形を大きく崩してしまっている。スクランブルエッグは上手く作れたのがせめてもの救いだ。


 初めて誰かに料理を教えたけど、教えるのって凄く難しいな。でも……凄く楽しかった。次もまた日和と一緒に作りたいと思う。


「それじゃ食べようか」

「うん」

「「いただきますっ」」


 仲良くいただきますをしてから、日和と一緒に用意した朝食を食べ始める。


 味は……うん、いつも通り美味しく出来ている。とはいっても、ソーセージは買ってきた物を炒めただけだし、味噌汁もいつも通りの味付けだし、スクランブルエッグは成功してる。不味いはずがないか。


「美味しい。でもお味噌汁の見た目が……」

「気にすんなって。次こそ一緒に上手く作ればいいさ」

「うん。あ、そうだヒデくん。ちょっと話がある」


 話ってなんだろう? 真剣な感じはしないから重要な話って感じはしなさそうだけど……。


「昨日の夜に、実家から連絡があったの。それで、明日と明後日の二日間、実家に帰ることになったの」

「そうなのか。ゆっくりしておいで」


 実家に帰るのか……二日間寂しいけど、だからといって行かないでなんて子供みたいな事は言えないしな。


 あ、そうなると数日分の飯は一人分で良いんだな。間違えて日和の分も作らないように気をつけないと。


「それで、ヒデくんも一緒に連れてきなさいって」


 ………………俺も??


「ど、どういう事だ?」

「お母さんが、ヒデくんに会いたいからって言ってた」


 マジっすか。日和の母さん……えっと、流華さんだったか。日和と遊んでいた頃に一回だけ会ったことがあるんだけど……それでも緊張する。


 会いたいからには、きっと何か目的があるんだろう。もしかして、もう日和に会わないでって言うつもりなのか? それとも、日和に俺はふさわしくないから抹殺するとか!?


 ……流石にそれは無いか。


「わかった。俺も一緒に行くよ」

「ありがとうヒデくん。明日の十一時に迎えが来る予定」

「十一時な。ちなみにどれくらいで着くんだ?」

「大体一時間もあれば着くと思う。道が混んでたらもうちょっと遅くなると思うけど」

「わかった」


 俺は日和の言葉に頷いて見せてから、落ち着きを取り戻すために味噌汁をすする。


 とりあえず朝飯はこっちで食べていかないとダメだな……緊張で喉を通らない気がするけど。


「ごちそうさまでした。ヒデくん、一緒にお皿洗おう」

「俺が洗っておくから大丈夫。日和は明日の準備をしておいで」

「ダメ。一緒に洗う」

「わ、わかったから」


 ジト目でふくれっ面の日和だったが、俺が了承をすると満足げに微笑みながら、空になった皿をキッチンに運んでいく。


 とりあえず皿を洗い終わったら、日和の家に持っていくお土産を考えないと……もう今から緊張しすぎて死にそうだ。


 無事に二日間乗り越えられますように――俺は心の中で神頼みをしながら、日和の待つキッチンへと向かうのだった。



 ****



「忘れ物はないな……お土産も持ったし、身だしなみも……だ、大丈夫だよな」


 翌日、日和も朝飯を食べた後に一回解散した俺は、約束の時間まで一人でソワソワしていた。


 そりゃ日和の家にご招待とか、緊張するなって方が無理に決まっている。失礼な事をして嫌われでもしたら……もう日和と会わせてもらえなくなるかもしれない。


「そうなったら……うっ、考えたくもない」


 ピンポーン――


「うおっ!?」


 もしかしたら来るかもしれない最悪の事態を想像する俺を襲うように、インターホンの音が部屋に鳴り響く。


 あービックリした……タイミング良すぎるだろ……あれ、でもまだ迎えに来るのにちょっとだけ時間があるな。って事は、日和が来たのか?


 俺は玄関へ向かって扉を開くと、そこには予想通り、既に準備が整っている日和が笑顔で立っていた。


「やっぱり日和だったか。合い鍵があるんだから、インターホンを鳴らさなくてもいいぞ」

「あ、確かにそうだね。久しぶりに帰るのが楽しみで、忘れちゃってた」


 えへへ、とちょっと照れたように笑う日和。


 しっかり者の日和にしては珍しいミスだなと思ったけど、約一か月ぶりに帰るんだから、テンションが上がってそれ以外の事が疎かになってもおかしくない。


「それじゃ仕方ないな。とりあえず部屋の中で待つか?」

「えっと、今日晴れて暖かいし、一緒に外で待ちたいなって……ダメ?」

「全然いいぞ。荷物を取ってくるから、ちょっと待っててくれ」

「うん」


 急いで部屋に戻った俺は、事前に用意しておいた着替えやスマホの充電器などを入れたカバンと、お土産が入った紙袋を持って玄関に戻ると、日和と一緒に外に出た。


 今日は雲一つない青空で、ポカポカと暖かい。日向ぼっこには最適な感じだ。


「あ、もう迎え来てる」

「……もしかしてあれか?」


 日和の視線の先には、閑静な住宅街には全く似合わない、縦長で真っ黒の車が停まっていた。


 そ、そういえば日和と別れた時も、あんな車に乗っていたな。金持ちなのは知ってるけど、俺の想像以上なのかもしれない。


「お待たせしました、お嬢様」

「お迎えありがとう、真琴まこと


 車から出てきて深々とお辞儀をする女性の姿に、俺は見覚えがあった。そうだ……日和と色んな場所で遊んでいた時に、俺達とずっと一緒に居てくれたメイドの人だ。真琴さんっていうんだな。


「お久しぶりです、真琴さん」

「お久しゅうございます。大きくなられましたね、英雄様」


 俺の事を覚えていてくれたのか、とても優しい微笑みを向けてくれた。


 なんだか懐かしいな……いつもメイド服を着ていて、どんなところでも嫌な顔一つせずについてきて、ずっと見守ってくれていたんだ。


 この人がいたから、日和が遊んでいる時に調子を崩しても、大事にならなかったと言っても過言ではない。


「ではお屋敷までお送りします。こちらへどうぞ」

「ヒデくん、行こう」

「ああ」


 日和に手を引っ張られた俺は、真琴さんが開けてくれたドアから車に乗ると、フカフカの椅子に座る。


 車の中、めっちゃ豪華だな……何気なく座ったけど、車の中にソファがあるとか凄すぎるだろ。ちゃんとシートベルトもついてるし……こんなの見た事無いぞ。


「では出発します」


 常識離れした車への動揺と、日和の両親への緊張で余裕がない俺と、終始嬉しそうな日和を乗せた車は、日和の実家に向けてゆっくりと動き始めた。

ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は日曜のお昼頃に投稿予定です。


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