表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/84

第27話 日和を救い出せ!

 山吹さんから日和の事を聞いた俺は、外を闇雲に走り回って日和を探す。


 こんな事をしている間にも、日和に危険が迫っているかもと思うと、気が気ではない。


「くそっ! どこにいるんだ!」


 一旦足を止めた俺は、まだ日和が見つからない焦りをぶつけるように、握り拳を二つ作る。あまりにも強く握り過ぎたのか、掌から少し血が出たが、そんな事は些細な事だ。


「おーい!」


 俺の後を追ってきたのか、後ろから出雲さんの声が聞こえてきた。振り返ると、彼女以外にも、猿石君と山吹さんの姿もある。


「急に走りだして、一体何があったんや?」

「……日和を連れていった男が、危ない奴なんだ。このままじゃ、日和は何をされるか……!」


 端的に説明をすると、三人は神妙な顔つきで俺を見つめてきた。

 

 今はこんな事をしている場合じゃない。一秒でも早く日和を見つけないと!


「なるほど。ならワイらも一緒に探したる!」

「そうだね! 人数は多い方が良いし!」

「ウチはまだ足が痛んで沢山走れないから、他に神宮寺さんを見た人がいないか聞き込みしてくる!」

「みんな……いや、そんな迷惑はかけられない。俺一人で探す!」

「何を言うとるんや! みんなで一緒に探した方が早いやろ!」

「お、おう……」

「とにかく何かあった時にすぐに連絡が取れるように、通話を繋げておいたほうが良さそうやな!」


 猿石君の勢いに負けた俺は、スマホを手早く操作してみんなと通話を繋げた状態にすると、スマホを手に持った状態で走りだした。


 まったく……ありがとな、みんな。今はゆっくりお礼を言っている時間が無いから、心の中での感謝になっちゃうけど……あとで必ず礼を言わせてくれ。


「ふう……」


 三人が一緒に探してくれることによって、少し俺の心に余裕が出来たのか、それとも時間が少し経って頭に上っていた血が引いたのか――少し冷静になった俺は、深く深呼吸をする。


 日和はどこに連れていかれたか……黒鉄の事だから、きっと人気のない所で日和に手を出していると思う。


 その場所とはどこだ? ここは山の中だし、少し離れて森に入っちゃうのが一番手っ取り早いけど、夜にそんな所に行ったら、迷子になって自分も帰れなくなるリスクがあるよな。


 まあバカな黒鉄が、そんな事にまで頭が回っているかは定かではないけど……。


 そして、短気な黒鉄の事だから、さっさと目的を達成したいと思っているだろう。


 そうなると、なるべく離れた場所にはいかないはず。そして、この時間はみんな広場に向かっている。


「なら……あそこか!」


 俺はとある場所を目指して走りだす。目的地は……広場のある場所から真逆である、宿泊施設の裏だ。


 頼む……すぐに行くから、無事でいてくれよ!


「い――はな――」

「声……!? 日和!」


 微かに人の声が聞こえた俺は、全速力で目的地へと走っていく。間もなく着いた薄暗い宿泊施設の裏には、見覚えのある二人の人物が立っていた。


 ここからだと薄暗くてよくわからないけど、黒鉄が日和を壁に追い込んで、そこから逃げられなくしているように見える。


 あの野郎……! 俺の大切な日和に何をするつもりだ……!!


「あんな馬鹿なヒーロー気取りよりも、俺の方が何億倍も良いって事を教えてやるよ!」

「いやっ……放して!」

「日和っ!!!」


 今まで生きてきた中で、一番の声量と言ってもおかしくないくらいの大声で日和の名を呼びながら、全速力で駆け寄っていく――が、ある程度近づいたところで、俺は足を止めざるを得なくなってしまった。


 何故なら、黒鉄は俺の姿を確認してからすぐに、その太い腕を日和の首に回したからだ。あれでは、いつでも日和の首を絞めることが出来てしまう。


「ひ、ヒデくん!」

「ヒーロー……ずいぶんと早い到着じゃねえか」

「日和! 今助けてやるからな!」

「おーおーかっこいいねぇ……けど、それ以上近づいたら……この女がどうなるかわかってるか?」

「くっ……」


 近づいた事でわかったが、日和は恐怖で顔を歪める一方、黒鉄は余裕綽々《よゆうしゃくしゃく》と言わんばかりに、不気味な笑みを浮かべていた。


 まさかホントに日和の首を絞めたりはしないとわかっていても、相手は俺を苦しめるためには、殴るのも奪うのも一切の躊躇ちゅうちょをしない黒鉄だ……一体何をしでかすかわからない。そう思うと、迂闊には近づけなかった。


 俺一人じゃこの状況を打破できない。なら……!


「こんな宿泊施設の!! 裏に連れてきて!! 日和を返せ!」

「返せって言われて返すわけないだろ? お前はバカか?」


 俺を心底馬鹿にするように、鼻からフンッと息を吐きながら言う黒鉄。


 メチャクチャ腹が立つし、今すぐにでも飛び掛かりたいくらいだけど……今はとにかく我慢して、時間を稼ぐんだ。


「黒鉄! お前、俺に嫌がらせをしたいなら、俺にやればいいだろ! 日和を巻き込むな!」

「つくづくバカだなお前は。なんでお前の許可を取らないといけないんだ? それともこの女はお前の所有物だっていうのか? あぁ?」


 確かに黒鉄の言う通り、日和は俺を婚約者と言ってくれるけど、付き合っている訳じゃないし、もちろん日和は俺の所有物という訳でもない。


 でも……そんなの関係ない! 俺は日和が大切で、こんな奴に渡したくない!


「日和は俺の大切な幼馴染で、大切な人だ! お前みたいな外見しか見ないようなクズには、死んでも日和は渡さねえ!」

「ヒデくん……」

「ギャハハハハ! 随分とヒーローらしい、かっこいい事を言うじゃねえか! つい最近まで、散々俺にいじめられてた雑魚のくせによ!」

「いじめられてた……どういう事?」


 ぼそっと呟きながら目を丸くする日和は、黒鉄の顔を見上げる。


 そうだ、日和はこいつが俺をいじめていた主犯の一人って教えてなかった。あくまで俺が日和に伝えてあったのは、姫宮に騙された事と、ずっといじめられていたって事しか伝えてない。


 くそっ……誰にいじめられてたかを伝えておけば、日和が騙される事もなかったかもしれないのに……完全に俺のミスだ。


「もしかして、ヒデくんをいじめてたのって……」

「この俺よ! あの頃は楽しかったなぁ……毎日のようにヒーローをボコしたり嫌がらせをしたり……」

「どうして……」

「あ?」

「どうしてヒデくんをいじめたの!? ヒデくんは優しくて、カッコよくて、困ってる人を助ける凄い人なのに……!」


 いつもの大人しい日和とは思えないくらい、怒りを全面に押し出しながら、黒鉄の腕の中で暴れる。だが、黒鉄は一切調子を崩す事なく、不敵に笑うだけだった。


「その人を助けるとかいうヒーローみたいなこいつが、心底うぜぇからだよ! それと、そんな勘違いバカがボロボロになり、暗くなってく姿が……さいっこうに気持ちいいからだ! 今もそうだ! 大切な女が目の前にいるのに、助けられなくて悔しそうにしてるその顔……ホントに気持ちいいぜぇ!」

「うわぁ……最低過ぎるね。見た目も汚いのに、心も汚いとか……生きてる価値ある?」

「い、出雲さん!」


 背後から黒鉄の言葉に心底呆れる声と共に、出雲さんがやって来た。


 よかった……わざと俺達がどこにいるかを大声で言う事で、繋いだままの通話の向こうにいるみんなに伝えてきてもらう作戦だったけど、上手くいったようだ。


「咲ちゃん……!」

「お前は確か……ヒーローと一緒に居た女じゃねえか! どうしてここに!?」

「悪党にそんな事を言う必要は無いよ! さっさと日和ちゃんを解放しなさい!」

「はっ! バカの知り合いはバカってか! 返すわけねえだろバカが!」


 出雲さんが来てくれたのは良いけど、まだ状況は好転したわけじゃない。黒鉄を戦うためには、なんとか人質になってる日和を助けないといけない。


「あたしの大切な日和ちゃんに手を出した大バカ野郎には、きつーいお仕置きをしてあげなきゃね!」


 指の骨をバキバキと鳴らす出雲さんの表情は、怒りに満ち溢れていた。


 それについては俺も同意見だ。こいつには散々苦労をかけられたし、殴ってやらなきゃ気が済まない。


 けど……今は一個人の感情よりも、日和の安全が最優先だ。


「桐生君、今は一緒にあのバカの注意を引きつけて」

「え……?」

「いいから。あたしを信じて」

「……わかった」


 黒鉄に聞こえないように小声で、かつ真剣な表情で俺に訴えかける出雲さんに、俺は小さく頷く事しか出来なかった。


 もしかして何か日和を助ける策があるというのだろうか? もしそうなら……それに賭けてみようじゃないか!

ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は金曜日の朝に投稿予定です。


少しでも面白い!と思っていただけましたら、モチベーションに繋がりますので、ぜひ評価、ブクマ、レビューよろしくお願いします。


ブックマークは下側の【ブックマークに追加】から、評価はこのページの下側にある【★★★★★】から出来ますのでよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ