第26話 一人ぼっち
「ふ~食べた食べた! お腹いっぱいで苦しい!」
「あれだけおかわりすれば、そら腹もいっぱいになるわな」
ヒデくん達と合流した後、食堂で晩ご飯を済ませた私達は、食堂を出てすぐに所にある玄関ホールへとやって来ていた。
この後はキャンプファイヤー。すっごく楽しみ……行事自体も楽しみだけど、やっぱりヒデくんや猿石くん、咲ちゃんと一緒に楽しめるっていうのが、何よりも嬉しい。
「あ、ちょっと俺、一回部屋に戻る。スマホを充電したままなんだ」
「ワイも充電しっぱなしやったわ」
「じゃあ先に行ってるね~」
そう言うと、ヒデくんと猿石くんは一回部屋に戻っていった。
本当は一緒に私も行きたいけど、異性の部屋に行くのは原則禁止になってるから……仕方ないよね。
「……うぅ」
「咲ちゃん?」
「た、食べ過ぎたかな……お、お腹痛い……」
「だ、大丈夫……? 私、ここで待ってる」
「ちょっと大丈夫じゃないかも……ごめん、時間かかるかもだから、先に行っててもらえる?」
「あ……うん、わかった」
咲ちゃんは「ごめんね!」と手を合わせて申し訳なさそうな顔をしてから、トイレへと向かって駆け出していった。
とりあえずヒデくんに一人で先に行ってるってメッセージを送っておこう。
「ふぅ……行こう」
私はスマホを操作して、咲ちゃんがお手洗いに行ったから、一人で先に行ってるという旨を書いたメッセージを送ってから、私は一人で外に出た。昼間は暖かかったけど、夜になると風が思ったより冷たい。
「…………」
一人ぼっち、寂しい……高校生になってからは、お家でもお外でもヒデくんと一緒にいたし、男女別々の授業は咲ちゃんが一緒に居てくれたから、一人ぼっちって本当に久々……。
「あれ、なんだろう」
広場に一人で来ると、中央に木が綺麗に積み重ねられたものが置いてあった。あれを燃やしてキャンプファイヤーをするのかな……?
正直、私はキャンプファイヤーの経験はないし、映像で見た事も無い。名前からして、何かを燃やすのかなっていうのはわかるんだけど、それがどういうものなのかっていうのはわからない。
「とりあえず……みんなを待ってよう」
私は近くのベンチに腰を下ろすと、ぼんやりと周りの景色を眺め始める。周りには、沢山の生徒が楽しそうに会話をしたり、私と同じように一人でいる生徒もいて、色んな人がいるんだなって感じた。
「遅いなぁ……ヒデくん、早く来ないかなぁ」
「おい、お前」
「え?」
しばらくボーっとしていると、急に横から少し低めの男の人の声に呼ばれた私は、少しビクッとしながら、声のした方に顔を向ける。そこには、大柄の金髪の男の子が立っていた。
あれ……いつだったか、変な格好で学校を歩いてて、みんなに笑われていた人に似ている気がする。
「お前、神宮寺だろ」
「う、うん」
「ヒーローがお前を呼んでたんだ。なんか困ってるって」
ヒーローって、ヒデくんの事だよね? 確か姫宮さんがそう呼んでたはず。
それよりも、ヒデくんが困ってるって……一体どうしたんだろう。何かあったらスマホで連絡が来るんじゃないかな……あ、でもスマホで連絡する余裕がないとか?
「何かあったの?」
「俺も知らん。凄い焦りながら、お前を呼んできてくれって言われただけだ」
「どうしたんだろう……」
ちょっとだけ怪しく思ったけど、これでもし本当にヒデくんが困っていて、取り返しがつかない事になっていたらどうしよう。実際にさっきからヒデくんは来ないし、連絡も来ていない。
……やっぱり心配。行ってみた方がいいかも。
「わかった。ヒデくんはどこ?」
「俺が案内する。こっちだ」
金髪の男の子の後ろを数分ほど歩いていくと、そこは宿泊施設の裏だった。薄暗いし、誰もいないしで……ちょっと怖い。
「えっと、ヒデくんはどこ?」
「ヒデくん……? ああ、ヒーローの事か。ヒーローは……ここにはいない」
「え……?」
いない……? どういう事なの?
「俺がお前に用があるから、ヒーローの名前を使っただけだ」
金髪の男の子は、僅かに口角を上げながら、視線を上下にゆっくりを動かしながら言う。
私に用……? それなら普通に声をかければいいのに。それに、どうしてわざわざこんな所に連れてきたんだろう。
「やっぱり、見れば見る程良い女だな……お前、俺の女になれ」
「……? それって、お付き合いしてくださいって事?」
「いや違う。俺が好きなのは美織だけだ。お前は俺の女になれって言ってるだけだ」
……?? よくわからないけど、私はこの男の子の事は全然知らないし、そもそもヒデくん以外の男の子なんて興味がない。
「違いがわからないけど……ごめんなさい。私は他に好きな人がいるので、あなたの女? にはなれません。それじゃ」
なるべく彼を傷つけないように、深くお辞儀をしてからその場を去ろうとしたが、彼に腕を掴まれてしまった。
「いたっ……」
「何を勘違いしてるんだ? お前に拒否権は無い。嫌だっていうなら……断れないようにしてやるだけだ」
****
「やれやれ、まさか充電できてないとはな」
「そらコンセントにちゃんと刺さってなければ充電は出来んわな」
「悪かったって」
俺は部屋からスマホを回収してから、大げさに肩をすくめる猿石君と一緒に、宿泊施設の廊下を歩いていた。
本当はもっと早くに戻るつもりだったんだけど、充電器がちゃんとコンセントに刺さってなくて充電がうまくできていなかった。仕方なく少しだけでも充電をしていたら、戻るのが遅れてしまったという事だ。
とりあえず早く行ってあげないとな……さっき一人で先に行ってるってメッセージがあった。きっと一人ぼっちで寂しい思いをしているだろう。
そう思うと、自然と歩くスピードが上がっていった。
「あれ? おーい間猿ー! 桐生君ー!」
玄関ホールにまでやって来たタイミングで、出雲さんの声が聞こえてきた。振り返ると、少し疲れた様子に彼女の姿があった。
「出雲さん、なんか疲れてるけど……大丈夫か?」
「ちょっとお腹が痛くてさ~。食べ過ぎたかなぁ」
「そらあれだけ食べれば腹も壊すわな」
「うっさいわね! あんたに言われると無性にムカつくのよ! それよりも日和ちゃんが先に行ってるから、早く行ってあげよう!」
「お、おう。そうだな」
相変わらずうるさ――こほん。賑やかな二人に苦笑いをしつつ、キャンプファイヤーが行われる広場に向かったものの、そこに日和の姿はなかった。
「いないな……先に行ってるってメッセージ来てたんだけどなぁ」
「神宮寺さんもトイレとちゃう?」
「まあその可能性はあるか」
「ねえねえ、神宮寺さんを探しているの?」
猿石君の言葉に小さく頷いていると、見覚えのある暗い緑色の髪の女子に話しかけられた。少し短めのポニーテールが良く似合っている。
「あれ、昼間にケガをしてた……」
「ウチは山吹 綾香。あの時は手当をしてくれてありがとう」
山吹綾香と名乗った彼女は、笑顔を浮かべながらペコっと頭を下げる。
俺としてはそんなに大した事をしたつもりは無いのに、そんな頭を下げられたら逆に申し訳なくなってしまう。
「別に大した事はしてないから頭をあげてくれ。ケガの方は大丈夫か?」
「大丈夫! それで、神宮寺さんを探してるんだよね」
「まあな。山吹さん、日和を見てないか?」
「さっき男の子と一緒にどこかへ行っちゃったよ?」
男の子……? 日和の知り合いだろうか? でも日和の事だから、もしその男の子とやらに用があるから、少し広場から離れるって連絡があってもおかしくない。
なんだ……凄く嫌な予感がする。
「その男の子とやらの特徴、覚えているか?」
「うん。金髪で大柄で、なんかいかにも不良です~って感じだったよ?」
金髪で……大柄で……不良……!? それって、まさか黒鉄か!? 黒鉄が日和を連れていったってのか!?
「山吹さん! 日和はどこに連れていかれた! 教えてくれ!!」
「え、ええ!? それは知らないよ!」
「ちょちょ、桐生君! 急にどないしたんや!」
俺は勢いよく山吹さんの両肩を掴みながら問い詰めると、猿石君に強引に引き剥がされてしまった。
あいつは前に日和の事を気に入ったような事を言っていた! もしかしたら日和に酷い事をするかもしれない!
「くっそ……日和!!」
「ちょっと、桐生君!? どこ行くの!?」
出雲さんの声が後ろから聞こえた気がするけど、そんなに知った事ではない。早く日和を見つけて助けないと! でも一体どこに連れていかれたんだ……!
手掛かりは全くないから、とにかく手当たり次第に近い所からあたっていくしかない!
日和……頼む、無事でいてくれよ!!
ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は火曜日の朝に投稿予定です。
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