第18話 日和に近づくな!
「う~~~ん……! やっと昼か……」
翌日、俺は自分の席に座りながら思い切り身体を伸ばした。
今日から本格的に授業が始まったのはいいんだけど、まだ春休みボケが抜けていないせいか授業の最中眠くて眠くて……。
昼飯前にこの体たらくじゃ、腹がいっぱいになった後に待っているのは爆睡の未来だろう。流石に授業初日から寝落ちして先生に目をつけられるのは避けないとな。
「日和と飯でも行くか……って、あれ?」
首をゴキゴキと鳴らしてから日和の席の方を向くと、男子二人に囲まれていた。
いつの間に日和に男の友達が出来たんだ? 正直、俺以外の男と仲良くしてるのは何故か少しだけムカつくけど、内気な日和に友達が出来るのは喜ばしい事だな。
でも……なんか様子が変だな。日和、何か困ってる?
「神宮寺さん、俺達と飯行こうぜ!」
「あ……その……えっと……私はヒデくんと……」
「まあまあ、いいじゃん!」
あいつら、日和と一緒に飯に行こうとしてるのか。
日和を飯に誘うのは自由だから別に構わないんだが……完全に日和の意思を無視して、無理やり連れていこうとしてないか?
この輪を割って入って日和を連れていったらかなり妬まれそうだな……って、何考えてるんだ馬鹿か俺は。変わるって決めたじゃないか。
それに、困ってる日和を放っておけるわけがない。日和の為なら妬まれようが関係ない。
俺は弁当が入っているカバンを持って日和の所に行こうとしたが、それを邪魔する者が現れた。
「ヒーロー、お昼一緒に食べよっ」
「…………」
俺の前に立って邪魔をする人物——姫宮杏奈は、少しだけ前かがみになって下から俺を覗き込むようなポーズで声をかけてきた。
ブレザーのボタンを外し、ワイシャツも第二ボタンまで外している状態でそんなポーズをするせいで、胸の谷間がくっきり見えるが、そんなものを見ても何も感じない。
ていうか邪魔なんだよな。早く俺は日和の元へ行きたいというのに。
「邪魔だ。退いてくれ」
「ひっど~い! ヒーローが一人で寂しくごはんを食べないように、わざわざ来てあげたっていうのに!」
……そんな事、一切頼んでないんだけど。それになんで姫宮は一々上から目線で言うのだろうか。人をイライラさせる天才なのかもしれない。
「俺は姫宮と食うつもりはない」
「え~いいじゃ~ん食べようよぉ! あんな子と食べるより、アタシと食べたほうが楽しいってぇ」
「誰と食うかは俺が決める事だ。それに、日和と一緒に食べるのがつまらないとか、姫宮が勝手に決めるんじゃねえだろ」
俺の腕を抱きしめながら、甘えた声を出す姫宮だったが、それを振り払って日和の元へと向かう。
「ほらいいから行こうぜ!」
「いや……放して……!」
「なっ……あいつ!」
連中の一人が日和の腕を掴んで無理やり立ち上がらせようとしたため、俺は咄嗟にその男子の腕を掴んで力を入れた。
「お前、日和に何をしてるんだ?」
「ヒデくん……!」
「あ? 出たな桐生! 邪魔すんじゃねえよ!」
「神宮寺さんにまとわりつくハエめ!」
男子の一人は俺の手を勢いよく振りほどくと、敵意を剥き出しにしてくる。それに続くように、もう一人も罵声を浴びせてきた。
ハエ呼ばわりは中々に酷くないか? 俺からしたらお前らの方が日和にまとわりつくハエのような気がしてならない。
「日和が嫌がってるだろ」
「なに勝手に決めつけてんだ! 神宮寺さんは俺達と飯を食いたがってるんだよ!」
「そうそう! お前は引っ込んでろ!」
「ひうっ……」
……お前らこそ、なに勝手に決めてんだ? 日和が誰と食うかは日和が決める事だ。お前らが決める事じゃない。姫宮もそうだったが、なんでお前らが俺達が誰と昼飯を食うとか、誰と食べたほうが楽しいとか決めつけてんだ? 何様だよ。
それにお前らが大声を出すから日和が怯えてるじゃねえか。日和を怖がらせるなんて、随分と良い度胸してるな……!
「日和、行こう」
「ヒデくん……うんっ」
「あ、お前なにを勝手に……!」
日和の手を取って教室を後にしようとしたが、日和を狙う連中が後を追いかけてくる――が、二人の人物が俺達と連中の間に割って入ってきた。
「はいはーい、そこまでやで!」
「悪いね君達! 桐生君と神宮寺さんとはあたし達が先に約束しててさ!」
割って入ってきた二人……猿石君と出雲さんに怯んだのか、連中はうっ……となりながらその場に静止する。
これは……俺達を助けてくれたっていうのか?
「そういう訳やから桐生君に神宮寺さん、飯に行こか!」
「二人は購買? あ、それとも学食かな?」
「俺も日和も弁当だけど……」
「ならテラスで食べようか!」
いまいち状況が飲み込めない俺は、日和と一緒に猿石君と出雲さんの後を追うように、教室を後にするのだった。
****
「あの……」
特に何事も無く中庭に来た俺と日和は、猿石君と出雲さんと一緒にテラスのテーブルに座る。そのタイミングに、俺は二人に声をかけた。
「助けてくれてありがとな」
「礼には及ばへんで!」
「そうそう! 実際あいつらうるさかったし、あたし達も班が一緒の二人とご飯も食べたかったし! 神宮寺さん、怖くなかった?」
「ちょっぴり怖かった」
やっぱり怖かったんだな……もっと早くに助けに行くべきだったな。日和には申し訳ない事をしてしまった。
「ごめん日和、俺が姫宮に捕まったりしてなければ……」
「ううん。ヒデくんなら必ず来てくれるって信じてたから、大丈夫だった」
日和は先程の怯えた顔から一転し、安心しきった微笑みを浮かべてくれた。
真正面からそう言われるとちょっと照れるけど……それ以上に凄く嬉しいな。それだけ俺の事を信じてくれてるって事だしな。
「ありゃりゃ、これはあたし達お邪魔だったかな~」
「かー! 仲がようて羨ましいわ! なあ桐生君、ものは相談なんやけど……神宮寺さんと咲を交換せえへん? こいつゴリラすぎて扱いがたいへ――」
「だ・れ・がゴリラですって!?」
出雲さんはとても良い笑顔で猿石君の後ろに回り込むと、腕を猿石君の首に回して思いきり締め上げ始めた。
「ガチで締まってるから!? 本来なら頭に感じる胸の柔らかさが全くあらへんくてただのじごごごごご!!!?」
「誰がぺったんこじゃあああ!? いっぺん死ねこのエロザルうううう!!」
「ワイが悪かったから許したってええええ!!」
ガチ泣きをする猿石君のお願いが通じたのか、出雲さんは「まったく……」と言いながら首のホールドを外した。
一体俺と日和は何を見させられているんだろう? 助けてくれたし、いじめっ子達みたいな悪そうな感じはしないけど……このテンションについていけない。
「あ、ごめんね騒がしくて! ほんとに間猿ってばエロザルすぎて嫌になっちゃうよ」
「はぁ……はぁ……ちょい待たんか咲。ワイはエロいんやない……紳士なだけや」
「はいはい。こんなエロザルは放っておいてご飯食べよっか! って、一緒に食べていいか聞くの忘れてたけど……いいかな?」
少しバツが悪そうに、あははっと苦笑する出雲さん。
俺としては日和と二人きりで食べたいけど、さっき助けてもらった恩もあるし、蔑ろにするのは申し訳ないな。
「俺はいいけど、日和はいいか?」
「うん。一緒に食べよう」
「二人共ありがと~!」
そう言いながら、出雲さんは持ってきたコンビニ袋の中からおにぎりを一つ取り出してかぶりつく。とても美味しそうに食べていて、見ていて気持ちが良い。
それに続いて、猿石君もコンビニの袋から焼きそばパンを取り出して食べ始めた。
……日和以外の人間と昼飯、か。折角の機会だし、俺の目標である楽しい学校生活の為に、まずは林間学校の班員である二人との交流から始めようじゃないか。
「お、二人は弁当……卵焼きにハンバーグに煮物に……ん? 弁当の中身が同じやな」
「これ、ヒデくんが作ってくれたの。絶品」
「へ~! 桐生君って料理できるんだ! すごいね!」
日和も俺の料理を褒めてくれたけど、そんなに料理が出来る事って凄いのだろうか? 俺にとっては普通の事だからな……でも褒めてくれているんだし、素直に頷いておくか。
「ありがとう。まあ一人分も二人分も変わらないからさ」
「もぐもぐ……今日も美味しい。もぐもぐもぐ……」
今日のご飯も日和にお気に召してもらえたようで、とても美味しそうに弁当を食べ進めていく。こうやっておいしいって食べてくれる日和の姿を見ていると、とても嬉しくなる。
「ねえねえ、ちょっと疑問に思ったんだけど……二人って入学式の時から一緒だったよね」
「まあ、そうだな」
「付き合ってるの?」
「んふっ!?」
「あ、それワイも気になってたんや!」
出雲さんのあまりにもドストレートな質問に驚いた俺は、口に入れていた卵焼きを噴出しそうになってしまった。
ま、まあ入学式の時から基本的にずっと一緒にいたからな……見てたらそう思うのは無理もないな。
付き合ってるかどうか、か……俺達の関係ってどう説明するべきなんだろうか?
俺は日和が大切だけど、この感情が異性を好きになるっていうのかわからないし、日和と付き合おうって話もしたことがない。だから付き合ってるかと聞かれると、答えはノーだ。
でも日和とは婚約者で、日和もそれが当然だと思っている。それを考えると、付き合ってるって言えるのだろうか……?
ダメだ、よくわからない。どう答えるのが正解なんだ?
「ヒデくんとは幼馴染」
「ひ、日和?」
「ほうほう、だから仲良しなんやな!」
「うん。幼馴染でもあるけど、今は一緒に住んでて……私の婚約者」
「「……へ?」」
日和の爆弾発言のせいで、猿石君と出雲さんは変な声を漏らしながら目を点にしている。
あのー……日和さん? あなたはとんでもない事を言っている自覚はおありですか? あ、うん……その「私、何か変な事を言った?」って言いたそうなキョトンとした顔、自覚はなさそうですね。
あとお隣さんだから一緒には住んでないから……って、よくよく考えると、家にいても風呂と寝る時以外はだいたい一緒にいるから、一緒に住んでるって事になるのか?
「「え……ええええぇぇぇ!?!?」」
事情をしらない二人の驚きの叫びが辺りに響き渡る。
そりゃそうなるよな……さてどう説明すれば良いんだろうか……。
ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は金曜日の朝に投稿予定です。
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