第17話 嵐のような二人
「さて、帰るか……」
健康診断からのホームルームも無事に終わり、俺は帰り支度をしていると、小走りで近づいてくる一人の少女がいた。
「ヒデくん!」
「日和」
「凄いね! 同じ班になれたね!」
いつもの三割増しくらいのテンションと笑顔で言う日和。
彼女の言う通り、俺は見事に日和が引いた四班のくじを引くことができ、無事に同じ班になれた。
まさか本当に同じ班になれると思ってなかった俺は、思わず教壇の前だって言うのにガッツポーズをしそうになったくらいには嬉しかった。
ついでに言うと男子達の妬みの声と溜息を一斉に受けた。
これでいじめのターゲットとかにされなきゃいいけど……いや、昔の俺とは違う。何故なら俺はもう一人じゃないからな……もしそうなっても、日和と一緒なら乗り越えられるさ。
「えへへ。ヒデくんと同じ班で林間学校……楽しみ」
「そうだな。楽しみだな」
「お二人さん、ちょっとええか?」
俺と日和が二人で話していると、ちょっと高めの男の声が聞こえてきた。声のした方に顔を向けると、そこには黒い短髪をツンツンさせた、一人の男子生徒がいた。
「え、えっと?」
「ワイは猿石 間猿! 二人と同じ班になった者や!」
猿石間猿と名乗ったクラスメイトは、俺に右手を差し出した。
これは……握手を求められているのか?
「あ、ああ。よろしく……」
「よろしゅうな、桐生君! あとそっちの神宮寺さんも!」
「う、うん」
俺に続いて日和とも握手をする猿石。
こう言っちゃなんだけど、かなり馴れ馴れしいというか……本当に挨拶に来ただけか? 本当は俺をいじめに来たとか? いや、もしかしたら日和をいじめに来たのか!?
って、決めつけるのは良くないか。長年いじめられてきたせいで、知らない人間が近づいてくると警戒してしまう癖も直さないといけないな。
「それにしても、神宮寺さんみたいな凄い可愛い子と一緒の班になれるとか、ワイもラッキーやな!」
「あ……えっと、ありがと、う?」
なんだかだらしない顔で日和の事を見る猿石君に反応した俺は、日和を守るように前に立つ。
日和をいじめる気配はなさそうだけど……一体どうするべきなんだこれ。
「ちょっと! 二人共困ってるでしょこのアホザル!」
「べふっ!?」
どうするか困っていると、元気な声と共に猿石君の頭に手刀がめり込む。その衝撃で、猿石は目をグルグルにしてその場に倒れてしまった。
今のは……結構痛そうだな……。
「二人共ごめんね~! このアホザルが迷惑かけちゃったね!」
「お、おう……」
猿石を一撃でノックアウトした人物は、肩くらいに短く揃えた真紅の髪とハキハキとした喋り方で、とても元気そうな印象を受ける女子だった。身長は俺とさほど変わらないくらい大きく、モデルのようにすらっとしてる。
「あたしは出雲咲! 君達と同じ班になったから挨拶に来たんだけど……」
「うへへ……こうやって倒れていれば……合法的に女子の生足が拝める……最高やんけ……」
「一回死んどけこのエロザル!!」
「ぐべぇ!?」
自己紹介をした矢先、出雲さんは変な事を言った猿山君の頭目掛けて、思い切りかかと落としをお見舞いした。
さ、さすがにやり過ぎじゃないか……? 猿石君、ピクリとも動かなくなったぞ……。
「あはは。こんなアホザルとあたしだけど、一緒に林間学校楽しもうね! っと、二人共帰る所だったんだよね。ごめんね邪魔して~それじゃね!」
「「…………」」
出雲さんは猿石君の首根っこを掴んで引きずりながら教室を後にした。
まるで嵐のようにやってきて、そして去っていったな……一体何だったんだろう……二人は知り合いなんだろうか?
「なんかとんでもない人と班員になったな」
「うん。でも、すごく楽しそうな人達だった」
楽しい……か? 賑やかな二人だなとは思ったけど、俺は楽しそうとは思わなかった。まあ日和がそう思うならそれでいいか。
「んじゃ帰るか。今日は何食べたい?」
「んー……さっぱりしたものが食べたい」
「さっぱりしたものか……」
結構ざっくりな注文だな。さっぱりしたものだとやっぱり和風なものかな……とりあえずスーパーで安い食材を見てから考えるとするか。
「とりあえず行こうか」
「うん」
俺はスクールカバンを肩にかけると、日和と一緒にいつものスーパーに向けて出発するのだった――
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「ああもう……見せつけちゃって!」
アタシは二人仲良く出ていったヒーローと神宮寺の後ろ姿を、爪を噛みながら睨みつけていた。
ぼっちで惨めだったヒーローが、女と一緒になれていい気になってんじゃないわよ! 所詮はアタシのおもちゃに過ぎないっていうのに!
班もヒーローと一緒にならないし……ああああ!! ムカつくムカつくムカつく!! 一緒の班になれれば、あの女からヒーローを奪い取るなんて簡単にできるのに! なんでアタシの思い通りにならないのよ!
「あの、姫宮さん……凄く怖い顔をしてるけど、大丈夫?」
「無理しない方が良いぜ」
「あ、うん! ありがとぉ~大丈夫だよ」
眼鏡のいかにもオタクって感じの冴えない男二人に声をかけられたから、仕方なく愛想を振りまいておく。
こいつら名前何だったっけ……アタシのおもちゃの一員で、同じ班になったのは覚えているけど、ぶっちゃけ興味がないから名前忘れちゃった。
まあ班員の事なんてどうでもいい。今はとにかくヒーローよ。あんな根暗一人をおもちゃに出来ないなんてアタシのプライドが絶対に許さない! 林間学校で必ずアタシのものにしてやる!
そのためにはまずどうするか……ヒーローにアピールするのは当然として、やっぱりアタシに依存させるようにしないといけない。
アタシに依存させるには、あの女……神宮寺日和が圧倒的に邪魔すぎる。あの女をどうにかしないと、ヒーローは絶対にアタシの所には来ない。
それはわかってるけど……じゃあどうすれば二人を離れさせられる? 物理的にやったところで意味がないし……。
うーん、あの馬鹿不良達のせいで、ヒーローはアタシの事を完全に信用してないみたいだし、やっぱりまずはアタシの事を信用してもらう所から始めないとダメかな。
信用さえさせちゃえばこっちのもの。後は適当に媚び売っておけば、あんな表情の乏しくて何を考えてるかわからないような神宮寺よりも、アタシの方に向いてくるでしょ。何故ならアタシは超かわいいからね!
「でも信用させるためにはどうすればいいのかな……もっと話しかけに行ってボディタッチをしていく……?」
「姫宮さーん?」
「うーん…………あ、そうだ!」
いい方法を思いついちゃった! 要はヒーローの視界にあの女が入ってるからそっちばかりに気がむくんだ! なら、二人がバラバラになってる所を狙えばいいんだ!
その為に……アタシのおもちゃを利用すればいいんだ。なんだ簡単な事じゃない! アタシって賢い!
「ねぇ~二人共ぉ。アタシおねがいがあるんだけど~」
アタシは同じ班員になったおもちゃの二人に、甘えた声でとある事をお願いすると、馬鹿みたいに嬉しそうに頷いてくれた。
あ~ホント、馬鹿って扱いやすくていいわね。
ふふっ……明日の昼休みがとっても楽しみ! 見てなさい神宮寺日和……あんたからヒーローを奪ってアタシのおもちゃにしてあげるんだから!
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それとお知らせなのですが、リアルの環境変化の影響で執筆する時間が激減してしまう為、更新頻度を落とさせていただきます。
今までは毎日投稿だったのですが、今後は火・金・日の週三回投稿に変更します。リアルが落ち着いて執筆時間が取れそうになったらまた頻度を上げていければと思っております。その際には、後書きか活動報告でご報告させていただきます。
お話の構成は全て出来上がってるので、エタる予定は一切ございませんのでそこはご安心ください。
何卒ご理解のほど、よろしくお願い致します。




