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第14話 俺を絶望に叩き落とした女

「ふぁ~あ……あれ、ここどこだ?」


 ここは和室だよな……でもいつもより天井が近い気がするし、布団もいつもと違う。っていうか……これベッドじゃん。


「ああ、そっか……昨日、日和の部屋で寝たんだったな……」


 確か……日和を寝かせた後、そのまま俺も同じベッドで寝て……あー駄目だ、頭が働かない……まだ眠い……。


 このベッド、俺の布団よりフカフカだなぁ……枕も日和のシャンプーの匂いなのか……それとも洗剤なのか……めっちゃいい匂いだなぁ……。


「日和は……まだ寝てるのか……今何時だ?」


 俺は枕元に置いてある時計を確認すると、時刻は八時を示そうとしていた。


 あーもう八時か……八時……八時!?


「完全に寝坊だ! 起きろ日和!」

「んっ……ヒデくん……ダメぇ」


 日和の色っぽい声に、不覚にもドキッとしてしまった。日和は一体どんな夢を見てるんだ!?


「もう……食べれない……」

「夢の中でも俺の飯を食ってるのかよ!」


 夢に出てくるくらい、俺の飯が好きなのはもちろん嬉しい。いつもだったら、日和めー嬉しい事を言ってくれるじゃないかーじゃあ日和の為にごはんを作るかーってなるけど、今はそんな時間はない!


「日和! 起きろ!」

「んにゅ……ヒデくん?」

「早く起きて準備しろ! 完全に遅刻だ!」

「えー……? 大丈夫……目覚ましセットしてる……」

「鳴ってないからこんな時間なんだって! もう八時だぞ!」

「八……八時!?」


 ようやく現状のヤバさがわかってくれたのか、日和は珍しく声を荒げながら、勢いよく起き上がった。


「た、大変。早く着替えないと……」

「俺がいるのに着替え始めるな!」


 俺が出ていく前に、日和は服を勢いよく脱いだ。俺がいるのに躊躇ちゅうちょなさすぎるだろ! 反射的に顔を反らしたおかげで見なくて済んだけど!


「……? 別にヒデくんなら着替えくらい見られてもいい。それとも私のなんか見たくない……?」

「そ、そういうわけじゃ……」


 いや、見たくない訳じゃないんだ。俺だって健全な思春期真っ盛り男子だし……しかも日和は魅力的な女の子だし……って! だからそんな事を考えてる場合じゃないんだって! 早く部屋に戻って着替えないと!


 その後、俺は急いで制服に着替えた後、日和と一緒に走って学校に向かうのだった。


 ——明日こそ朝ご飯を作ってあげられるといいな。



 ****



「さて、次はどこに行くか……」


 制服ではなく、体操着を着た俺は、一枚の紙とにらめっこをしながら理科室を後にしていた。


 今日は健康診断。体育館や教室などを回り、身長体重や視力といった定番の検査をする日だ。


「ちらほら女子が歩いてるし、体育館の測定は終わったっぽいな……ちょっと行ってみるか。日和はいるかな?」


 ちなみになぜ日和と一緒ではなくて一人なのかというと、女子が体育館で身長や体重といった計測を、男子と一緒にさせるわけにはいかない為、先に男子は教室で行う聴力や視力といった検査をさせられる。だから必然的に一人になってしまうという訳だ。


 まあどっかで合流する約束でもすればよかったんだが、朝はバタバタしていたからそんな約束をする暇がなかったんだよな。


「こういう時に一緒に行動する男友達がいれば問題ないんだろうけど……そんなのいないしな」


 自分で言っておいてなんだけど、どんだけ寂しい奴なんだよ俺。けどまあ、実際に都会に来てから、学校で友達なんて一回も出来た事……。


 いや、一応一人だけいた。小学校の図書室で知り合った女の子で、いつも一人で本を読んでる大人しい子だった。


「……嫌な事を思い出しちまった」


 唯一の学校で出来た友達《《だった》》彼女の事を思い出してしまい、少し気分が悪くなってきてしまった。


 今思うと、あの日辺りからいじめの酷さがワンランク上がったんだよな……まずい、いじめられていた時の事を思い出したら更に気分が悪くなってきた……。


「はあ……はあ……」


 気分の悪さに加えて、胸の苦しみと息苦しさまで出てきたしまった俺は、思わずその場で壁にもたれかかる。


 通りかかる連中が遠巻きに俺の事を見ているが、誰も助けてはくれない。


 分かってはいた事だけど、こんな時にサッと助けてくれるヒーローなんてものは存在しない。


 落ち着け……落ち着くんだ俺。もうあれは終わった事だ。あいつとはもう会うことは無い。


 それに俺は変わるんだ。日和と一緒に楽しい学校生活を……幸せな日常を過ごすんだろ? だからさっさと落ち着け、俺の身体。


「あの……」

「え?」


 壁に手をついて息を整えようとする俺の背後から、一人の女子の声が聞こえてくる。まさか声をかけてくれる人がいるなんて思ってもなかったぞ。


 声のした方に顔をやると、そこには暗い紺色の髪をおさげにした眼鏡女子という、いかにも地味というのがしっくりくる女子が、俺を心配するように眉尻を下げていた。


「英雄君、大丈夫ですか?」

「あ、ああ。って、なんで俺の名前を……」


 なんでこの女子は俺の名前を知っているんだ? 苗字なら体操着に書いてあるからわかるのは当然なんだけど、彼女は俺の下の名前で呼んだ。どこかで会ったことがあるのか?


「あの……覚えてないですか? 小学校一緒だった……」

「…………!!」


 馬鹿な。そんなはずはない。


 けど……彼女の見た目と、俺を英雄君と呼ぶ彼女の体操着に書かれている苗字を見て、俺は確信してしまった。


 彼女は小学校の頃に俺と友達になり、そして突然俺を拒絶して絶望に叩き落とした女——花園はなぞのこころだった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は今日の二十二時ぐらいに投稿予定です。


少しでも面白い!と思っていただけましたら、ぜひ評価、ブクマ、レビューよろしくお願いします。


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