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第12話 雷……こわい……!

 雷が怖いから、おさまるまで一緒にいて欲しい――


 日和の願いを叶えるのはいいんだ。怖がってる日和を放っておく事なんて出来ないし、頼ってくれてるのも男として嬉しい。


 でも……だからって風呂に一緒に入ってなんて……!


「ひ、ヒデくん。ちゃんとそこにいて」

「ちゃ、ちゃんといるから」


 風呂場からシャワーの音と共に、日和の震えた声が聞こえる。


 俺は今、日和の部屋に備えてある、ユニットバスの中にあるトイレの部分に座っている。カーテンの向こうで日和がシャワーを浴びていると思うと、気が気ではない。


 はあ……とにかく落ち着け俺。日和は雷が怖いから俺を呼んだだけだ。


 それに、日和は俺を信用してるから、こんな事をお願いしてるんだ。日和を裏切るような真似だけは絶対にしない。


 そんな事を思っていると、今日一番の大きな轟音が聞こえた。


「きゃあああああ!!?」

「日和!? 大丈夫か!!」


 日和の悲鳴に反射的に動いてしまった俺は、カーテンを開けてしまった。それとほぼ同時に、日和は俺に勢いよく抱き着いてきた。


 って…………何やってんだ俺は!? なんで当然のように日和がシャワー中なのにカーテンを開けてるんだ!? 馬鹿か俺は!!


「ご、ごごごごめん!」

「雷やだぁ! 行かないで!」


 俺は謝ると同時に固く目を瞑る。


 これで日和の裸を見てしまわなくて済む……ってこれだと日和の感触に全部の意識がいっちゃうんだけど! 体中が柔らかい感触に包まれてる中、めっちゃフカフカで主張の強い物体が押し付けられてる!?


 とにかくこれは不味すぎる。早く離れてもらわないと!


「だ、大丈夫だから!」

「ぐすっ……ホント?」

「本当だ! だからとりあえず離れて!」

「う、うん……」


 俺の気持ちが伝わったのか、日和の感触が離れると同時に、カーテンが閉まる音がした。


 ちょっと強く言いすぎたかな……ごめんな日和。でも俺が一緒にシャワーを浴びるわけにはいかないんだ……頑張って一人でシャワーを浴びてくれ。


 そんな事を思いながら、じっと目を瞑ったままトイレに座っていると、さっきの日和の感触をふと思い出してしまった。


 女の子ってあんなに柔らかいんだな……いい匂いもしたし……って! だからこれじゃただの変態だって! こんな事を考えると知られたら日和に嫌われてしまう!


「邪念を払うんだ俺……すーはー……すーはー……」


 目を閉じたまま深呼吸をしていると、シャワーの音が止まった。それの代わりに、カーテンが開く音と布の擦れる音が聞こえてくる。


 ——どうやら無事に終わったようだな。


「ひ、ヒデくん……終わった」

「あ、ああ」


 恐る恐る目を開けると、そこには白くてモコモコのパジャマを着た日和が立っていた。頭にはバスタオル巻いていて、いつもとかなり雰囲気が違う。


 ……頬がほんのり赤いのは、きっとシャワーの後だからだろう。


 そんな日和と一緒に居間に戻って来て早々、日和はペコリと俺に頭を下げてきた。


「ごめんなさい……裸のまま抱きついちゃって……」

「あ、いや……その……」


 まずい、なんとか邪念を振り払ったというのにまた思い出してきてしまった。落ち着くんだ俺……!


「嫌だったよね……」

「い、嫌なんかじゃない!」

「え? 嫌だったから離れろって言ったんじゃ……?」

「そ、そういう訳じゃなくて……その、恥ずかしいというか、ドキドキしちゃうというか……とにかく嫌じゃないから!」


 落ち込む日和を見てたら、無意識にそんな事を言ってしまった。


 しまった、やっちまった……! ただでさえさっきカーテンを開けてしまったうえ、これじゃ俺は裸の日和に抱きつかれて喜んだ変態と思われて嫌われる……!


『きゃー! ヒーローに触られた! 変態ー!』


 脳裏に浮かんだ変態という言葉に反応するように、ふと昔の記憶が蘇る。


 それは、俺が何もしないで自分の席に座っていただけだったのに、クラスの女子に勝手に触られて変態呼ばわりされた記憶だった。


 ――俺は何もしていない。


 そう言っても誰も信じてくれず、周りからはゴミを見るような目で見られたのが、未だにトラウマとなって鮮明に頭に焼き付いている。


 優しい日和がそんな事を言うとは考えにくいけど、もし日和に変態呼ばわりされて嫌われたら、俺は二度と立ち直れなくなるだろう。


 嫌だ。嫌われたくない。早く謝らないと……!


「そ、そうなんだ……」


 あ、あれ……? 気持ち悪がられたり、罵倒が飛んでくると思ってたのに、何故か日和は更に顔を赤くしながら視線を逸らしていた。


 これはチャンスだ。今のうちに早く謝ろう!


「その……ごめん!」

「……? なんでヒデくんが謝るの? ヒデくんは何も悪い事をしてない」

「いや、でも俺……カーテン開けちゃっただろ……」

「ヒデくん、私を助けてくれようとしてくれた。だから悪くない。むしろ悪いのは大声を出した私だから……」

「日和は悪くない。日和は雷が怖かっただけだろ」

「ならヒデくんも悪くない」


 互いに互いを悪くないと言い続けていると、同時に笑ってしまった。


「何してんだろうな、俺達」

「本当。おかしいね」


 よほど面白かったのか、日和は上品に手を口に当てながらクスクスと笑っている。やっぱり日和はこうやって笑ってる顔の方が似合っているな。


「私、髪乾かしちゃうね」

「……なあ日和、よかったら俺が乾かすよ」

「え、でも……いいの?」

「ああ。さっきのお詫びって事で」


 お詫びという言葉がお気に召さなかったのか、日和はややジト目で俺の事を見つめてきた。頬も少し膨らんでいてとても可愛らしい。


「むう……ヒデくんは悪くないって言ってるのに」

「まあまあ。ドライヤーは?」

「これ」


 日和は引き出しからドライヤーを取り出して俺に渡すと、バスタオルを頭から外してから、俺に背を向けて座った。


 いつもはサラサラの銀色の長い髪が、風呂の後で濡れているのが随分と色っぽく見える。


「痛かったら言うんだぞ」

「うん」


 不慣れな手つきで、俺は日和の髪を乾かし始める。


 こんな感じで良いのだろうか……自分で言いだした事とはいえ、ドライヤーなんて自分のしかやった事がないから、加減がよくわからない。


 でも、痛がる素振りを見せない所か、「気持ちいい……」という、少し色っぽい声が漏れ出ている辺り、リラックスしてくれているようだ。


 ……日和の声にドキッとしたのは内緒な。


「かゆい所は無いかー?」

「うん。すごく上手。毎日して欲しい」

「ちゃんと自分でやりなさい」

「ヒデくん、ケチ」

「酷い言われ様だ」

「冗談。たまにやってほしい」

「たまにならいいよ」


 表情は見えないけど、声のトーンとか冗談が言える辺り、さっきと比べるとだいぶ落ち着いてきたみたいだ。よかったよかった。


「乾いたぞ」

「もっと」

「乾いたんだからおしまい」

「……はーい」


 なんか今日はいつにも増して甘えてくるな。それくらい雷が怖かったんだろう。


「ふわぁ……はふぅ」

「眠いのか?」

「うん……いつもそろそろ寝てるから」


 日和は小さく欠伸をすると、トロンとした目を控えめにゴシゴシとした。


 まだ二十一時くらいだけど、日和はこの時間には寝てるのか。随分と早いな……だから朝早くから起きれるのか、納得。


「じゃあ俺は部屋に戻るな」

「あっ……待って……きゃあ!」


 立ち上がって部屋に戻ろうとすると、遠くでゴロゴロと雷の音が聞こえてくる。それとほぼ同時に、背中から日和に抱きつかれた。


 だ、だから急に抱きつかれるとビックリするしドキッとするんだよ……全然嫌じゃないけどさ。


「まだ雷鳴ってる……怖い」

「じゃあ……もうちょっとだけいるよ」

「それも嬉しい。でも……お願いがあるの」

「お願い?」

「寝るまで一緒にいて欲しい。一人じゃ怖くて寝れない……こんな事、ヒデくんにしかお願い出来ない」


 まだ震える日和は、俺の腹に回した手にぎゅっと力を入れる。それは、日和の一人にしないでという心の叫びを表してるかのようだった。


 もう大丈夫かと思ったけど、まだ怖いんだな……なら一緒にいてやらないといけない。


「……わかった。一緒にいるよ」

「ありがとう、ヒデくん」


 感謝を示すように、腕に更に力を入れて俺に抱きつく。お礼は良いから離れて欲しい……めっちゃフカフカなのが当たっててドキドキしてしまう。


 それにしても……最近の俺、なんでこんなにドキドキする事が増えたんだ?


 日和のバスタオル姿を見たりとか、今みたいに抱きつかれるのは、これでも健全な男子なんで反応してしまう。


 でも、日和と一緒にいたり、笑顔を見ても起こるんだよな……本当にこのドキドキってなんなんだ。別にイヤってわけじゃないんだけど……ムズムズするっていうか……表現が難しい。


「じゃあ……寝るか」

「うん。ありがとう、ヒデくん」


 俺は日和と一緒に隣の和室に行くと、布団では無くてベッドが置いてあった。そこに日和を寝かせ、俺はベッドのふちに腰を掛けた。


「ヒデくん、一緒に寝てくれないの?」

「さ、さすがにそれは……」

「ヒデくんは私の婚約者なんだから、一緒に寝てもおかしくない」

「いや、でもな……」


 いくら幼馴染で結婚の約束をした相手とはいえ、さすがに同じベッドに寝るのは不味いだろ……。


「………………ヒデくん」

「わかった、わかったから!」


 あっさりと観念した俺は、日和のベッドに横になる。そんな今にも泣きそうな顔で見られたら断れないって……。


「えへへ。あったかい」

「そ、それはよかった」


 俺のすぐ隣で、日和は嬉しそうに微笑んでいる。いまだに謎のドキドキを感じているけど、日和は怯えてない所か嬉しそうだし……ある意味結果オーライか。


 そう安心していたのを邪魔するかのように、またしても遠くから雷の轟音が聞こえてきた。


「ひゃう……」


 日和の方に身体を向けると、日和は俺の胸にくっついて、服をギュッと掴む。その手は小刻みに震えていた。


 どうにかして日和を安心させたいんだけど……よし、効果があるかはわからないけど、昔日和が好きだったあれをやってみよう。


「大丈夫だよ、日和」

「あっ……ヒデくん……」


 俺は日和の頭にそっと手を乗せると、ゆっくりと撫でる。すると、安心したのか日和の震えが止まった。効果があってよかった。


「大丈夫……大丈夫……」

「うん……」


 ゆっくりと撫で続けていると、いつの間にか静かな寝息が聞こえてきた。どうやら眠ってくれたみたいだな。


「もう大丈夫だな。さて、戻って皿洗いしなきゃ……」

「んんっ……ヒデ……くん」


 ベッドから出ようとしたが、日和に服を掴まれてしまって動くことが出来なかった。


 無理やり動く事も出来なくもないけど……きっとこの手は、俺に離れて欲しくないっていう、日和の意思表示なんだろう。


「日和……」

「すー……すー……」


 皿洗いなんて明日すればいいし、今日は日和と一緒にいてあげよう――そう決めた俺は、日和が良い夢を見れるように頭を撫でながら、ゆっくりと目を閉じた。

ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は明日の朝に投稿予定です。


少しでも面白い!と思っていただけましたら、ぜひ評価、ブクマ、レビュー、感想よろしくお願いします。


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