第11話 無様な不良の姿
「あっ……ヒデくん」
「日和?」
教室に戻って荷物を取ってきた俺は、早く帰ろうと小走りをしていたら、校門の前にいた日和に呼び止められた。
「あれ、先に帰ってろって言ったよな?」
「そうなんだけど、ヒデくんと帰りたかったから待ってた。えへへ」
そう言って微笑む日和。
まったく、もし黒鉄の一件に巻き込まれたらどうするんだ……でも、日和と一緒に少しでも長くいれると思うと嬉しいし、一緒に帰りたいって言われるのも嬉しい。
……俺って、自分で思ってるよりも単純なのかもしれない。
「じゃあ帰ろうか」
「うん。今日はお買い物、していくの?」
買い物か……俺一人なら、余り物で適当になんか作って済ませるけど、日和がいるからそういう訳にもいかないな。
「そうだな、行こうか」
「うん。またチョコほしい」
「はいはい」
本当にあのチョコが好きなんだな、日和は。俺もおいしいとは思うけど、毎日食べたいと思うほど好きではない。
「そうだ、ヒデくん。さっき面白いものを見た」
「面白いもの?」
スーパーに向かう途中、日和は唐突に話を振りだした。面白いものってなんだろう?
「なんか金髪の大きな男子が、内股でヨロヨロした変な歩き方してたの。すごい汗だった」
「……そ、そうなのか」
もしかしてそれ、金的のダメージを必死に耐えてる黒鉄の事じゃないか……?
「あと、なにかを隠すみたいに股を押さえてた。その姿が面白かったの。周りの人もクスクス笑ってた」
周りも笑ってたのか……まあ黒鉄みたいな、いかにも不良ですって感じの悪目立ちする格好の男が、日和の言うような事になっていたら面白いだろうな。
「そっか。俺も見たかったな」
「きっとヒデくんも笑ってたと思う。でも、あの人何があったんだろう」
「ははっ……」
俺が黒鉄に殴られたうえ、母さんと日和を馬鹿にされたからキレて金的しました! なんて言えるはずもない俺は、適当に笑って誤魔化すのだった。
****
「結構雨、降ってきた……そういえば明日まで天気が荒れるって言ってたな……っと、よし完成。日和〜晩ご飯できたぞ〜」
「うん。今日も凄くおいしそう」
料理を盛りつけた皿を居間に運びながら、座ってテレビを見ていた日和に声をかけると、日和は今日も俺の料理を見て目を輝かせていた。
今日の献立は煮込みハンバーグと、レタスとゆで卵のサラダ、なめこの味噌汁の三品だ。もちろん白米もある。
「ヒデくん、早く食べよう。お腹すいた」
「そうだな。じゃあ……」
「「いただきますっ」」
食事の挨拶が終わるのを待ってましたと言わんばかりに、日和はメインディッシュの煮込みハンバーグを口に放り込む。すると、日和の頬が幸せそうに緩んでいた。
幸せそうな日和の顔を見ていると、嬉しさ以外にも、何故かドキドキを感じる。
「柔らかくておいしい。やっぱりヒデくんは天才」
「日和、食事のたびに毎回言ってないか?」
「だって本当の事だもん」
「褒めても何も出ないぞ。って日和、ハンバーグだけじゃなくてサラダも食べな」
「うー……野菜、あんまり好きじゃない」
「子供みたいな事を言うんじゃありません」
日和は渋々レタスを口に入れてから、急いでハンバーグをもう一度口に押し込む。ハンバーグで苦手な野菜の味を中和しようとしているのだろうか?
俺としては、日和の嫌いなものは出したくない。日和にはおいしいって喜んでもらいたいからな。
でも、それだと栄養が偏って体調が悪くなってしまう。心を鬼にして野菜もしっかり食べさせないと。
「ヒデくん、野菜全部食べた。えらい?」
「お、日和はえらいな。ご褒美に俺の野菜をあげよう」
「え……ヒデくん……いじわる……」
「冗談だよ。俺のハンバーグ少しあげるから許してくれ」
冗談だってのに、日和に本気で受け止められてしまったのか、涙目とジト目という最強の組み合わせを決められてしまった俺は、すぐに白旗の意を込めて、ハンバーグを切って日和の皿に移した。
「これはヒデくんの分。私のはちゃんとある」
「まあまあ、からかったお詫びという事でさ」
「うー……じゃあ私のゆで卵あげる」
そう言いながら、日和はゆで卵を箸で掴んで俺の口元に持ってくる。
日和、これじゃただのおかず交換だぞ……お詫びにならないじゃないか。
それに、その箸は日和が使ってたやつ……これって……あーんと間接キスが同時に行われようとしてないか?
「…………」
わ、わかったから……そんな「食べないの……?」って言いたげな、悲しそうな顔をしないでくれ。日和にそんな顔をされたら、俺は申し訳なさで死んでしまう。
「あ、あーん……」
「えへへ。おいしい?」
「お、おいしい」
嬉しそうに聞いてくるのはいいんだけど、俺はさっきよりもドキドキしてるせいで、イマイチ味がわからない。
なんで俺はこんなにドキドキしているんだ……? なんだこの気持ちは?
「ヒデくん、私にもして」
「……なにを?」
「これ」
日和の視線の先には、俺が日和にあげたハンバーグがある。もしかして、さっきと同じ事をして欲しいって事だろうか。律儀に口を開けて待ってるし、きっと間違いない。
正直緊張するけど、日和がお望みなら叶えてやりたい――そう思った俺は、日和の皿に移した俺のハンバーグを一切れつまんで、日和の口元に持っていった。
「はい、あーん」
「あーん……もぐもぐ……不思議。ヒデくんに食べさせてもらうと、何倍もおいしく感じる。幸せ」
「それなら何よりだよ」
あーんをしたら美味くなる理屈はわからないけど、日和が嬉しいならそれでいい。流石に毎回はあれだけど、たまにやってあげてもいいかな。
そんな事を想いながら食べていると、いつの間にか二人共完食してしまっていた。
「ごちそうさまでした。ヒデくん、今日も美味しかった」
「それはよかった。じゃあ片付けしちゃうな」
「あ……私も手伝う」
「そうか? じゃあ一緒に皿洗いしようか」
「うん」
俺の提案が嬉しかったのか、日和は嬉しそうに微笑みながら頷く。
日和と一緒に片付けて、のんびりテレビでも見てから風呂にでも入るか――そんな事を思っていると、窓の外が一瞬だけまばゆく光るとほぼ同時に、轟音が響き渡った。
「きゃあああ!!?」
「日和!?」
日和は悲鳴を上げながら、持っていた皿を床に落としてしまった。
今のは雷の音か? かなり近かったな……って、そんな事よりも日和だ。皿はプラスチックのを使ってるから、割れた破片でケガをする心配はないけど、今の悲鳴はただ事ではない。
「日和! 大丈夫か!?」
「ヒデくん……雷……」
「雷? 近かったけど停電してないし、大丈夫だ」
「ちがっ……きゃああ!!」
先程ではないが、またしても雷の音が聞こえてくると同時に、日和は俺に勢いよく抱き着き、顔を俺の胸にうずめた。泣いているのか、微かに嗚咽も聞こえてくる。
「ど、どうしたんだ?」
「か、雷……こわい……!」
俺の胸にうずめていた日和は、震えながら顔を上げる。その目からは大粒の涙が零れていた。
「ひ、ヒデくん……お願い……雷がどっかいくまで……一緒にいて……!」
「あ、ああ。わかった」
天気予報通りなら、明日まで悪天候は続くはず。なら、少しでも恐怖を和らげるためにも、今日はずっと日和と一緒にいてあげよう。
そう決断した俺は、日和の顔を見ながら大きく頷いて見せた。
「ありがとう。じゃあ……一つお願いしたい」
「なんだ?」
「一人だと怖いから……一緒にお風呂に入って欲しい」
日和のあまりにも唐突なお願いに、俺の頭は真っ白になってしまった――
ここまで読んでいただきありがとうございました。今日はこのお話含めて二話投稿予定です。次のお話は今日の二十時ぐらいに投稿予定です。
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