EX02. photograph & autograph
昨日の8月24日が紀香の誕生日ということをすっかり失念していたので、急遽書き上げました。なお誕生日要素はありません。
「我ながらよく撮れたのではないかと思いますが、いかがでしょうか?」
「おおっ!」
纐纈幸来に差し出された一枚の写真を見て、紀香は唸った。
映っているのは自分自身の姿。渾身のフルスイングでボールを捉えた瞬間を見事に収めている。いつぞやの練習試合の日に写真部所属の幸来に撮ってもらったものである。
「上手いこと撮れてるなあ。さすがプロだ!」
「プロだなんて大層ですわ。でもお褒めの言葉を頂き恐縮です」
「こいつが来年度の学校紹介のパンフレットに載るんだよなあ」
紀香はしみじみと写真を見つめた。
星花女子学園高等部には来年度から学科が増設されることが決まっており、生徒の確保に一層の力を入れている最中である。学園の宣伝に紀香の写真が一役買うことになるのだ。
「写真は差し上げますわ。その代わりと言っては何ですけど」
「ん?」
「下村さんのサインを頂けます、でしょうか?」
幸来は若干しどろもどろになった。
「いやそのっ、私のクラスに下村さんの大ファンの子がいて、その子がどうしても欲しいって言うものですからっ! 決して私個人の欲求ではありませんから!」
「へいへい」
あまりにものバレバレな態度に、紀香は顔をニヤけさせた。
「で、ではここにお願いします」
幸来が用意した色紙とサインペンで、紀香はまるで有名人が使うような崩したサインを書いて手渡した。
「なかなか手慣れてますわね」
「父ちゃんに『お前は将来ビッグになるから今からサインの書き方を覚えとけ』って言われて練習させられたからな。子どもの頃から」
「プロ野球選手の帝王学はひと味違いますわね……ありがとうございました。これであの子も喜ぶことでしょう」
「あ、そうだそうだ。纐纈さん、あたしからも頼みがあんだけどさ」
「何でしょうか?」
「写真だけど、もう一枚、ポスターサイズに引き伸ばしたヤツを貰えないかな?」
「ああ、そのことでしたらお安い御用です。よほど気に入って頂けたようで嬉しいですわ!」
その通り、紀香は写真の出来に大満足していた。愛しいあの子へのプレゼントにしても恥ずかしくない程に。
ゲストの纐纈幸来さんはマドロックさんが作られたキャラクターで、パラダイス農家さんの作品『いずれ菖蒲か杜若』(https://kakuyomu.jp/works/1177354054888133237)のメインキャラです。