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無口な異形の青年は、生意気女子高生に振り回される  作者: 探偵とジョーカーのパソドブレ企画
6/8

異形の青年と見送る者1

「火之さん……! 火之さん、どこですか……!?」

「…………」

 後頭部にズキズキとした痛みを感じながら、ボーっと夜子の声を聞く。

「火之さん……!」

 声を潜めながら叫ぶ夜子――もしかしたら敵がいるのかもと警戒しているんだろう――に、おれはここだと言ってやりたいが、あいにく口から漏れ出たのは呻き声だけだった。


 どうやらおれは、相当高い場所から落ちてしまったらしい。


「……之さん……!」

 そうこうしているうちに、夜子の声はどんどん遠くなっていく。

「…………」

 そしてしばらくすると、声は完全に聞こえなくなった――。


◇◆◇


(つぅ)……」

 ようやく痛みが治まり、おれは頭を押さえながらゆっくり上体を起こした。腕を回してみたり足を触ってみたりして、異常はないか確認する。――うん、コブはできているが、おかしなところはないようだ。

「ここは……」

 辺りを見回してみると、どうやらおれが倒れていた場所は洞窟のようだった。地面はしっとりと湿っており、掌からは苔の感触が伝わってくる。すん、と鼻を鳴らしてみると、水の匂いもした。

「こんな場所があったとは……」

 錫杖を支えにして立ち上がり、空を見上げてみる。

「…………やっぱり無い……」

 おれは確かに「落ちてきた」はずだ。

「どういうことだ……?」

 それなのに、あるべきはずのもの――俺が落ちた穴が、天井には無かった。

 そう呟きながら視線を洞窟へと戻し、目を凝らしてみる――と、洞窟の奥にかすかに光が見えた。

(あれは……?)

 こんなところでこのまま呆けてはいられない。とりあえず探索しなければと、おれは光に向かって足を進めた。

 ――これは、チャンスなんじゃないだろうか?

「上」にこれ以上手がかりはなさそうに思えた。ならばこの場所に――。


「『あの男』がいるんじゃ……?」


 あの男――。

 それは会長殿から探すように頼まれた、岩弓(がんきゅう)という《異形の者》のことだ。

 そいつはちゃんと《機関》にも登録されており、会社を経営することで社会とも関わっている――模範的な生活を営んでいた《異形の者》だった。

 会長殿とも旧知の仲らしく、《機関》の人間曰く、『信用のおける《異形の者》』だったらしい。

 だが……。


 岩弓は、ある日を境に姿を眩ませた。


 夜子と一緒に調べた結果、それは突然というわけではなかったようだ。

(妻が亡くなってからは自宅を売り払い、会社の一角で暮らしていた。だが何十年も暮らしていたその部屋は、おれが行った時には空っぽになっていた……。そして会社のことは信頼できる者達に任せ……。妻の墓じまいもしていた……)


「社長はいわゆる……、終活をしているみたいでした……」

 と、寂しそうに語ったのは、岩弓の部下だった男だ。彼は無理に笑顔を作りながら、おれと夜子に岩弓のことを話してくれた。

「俺は親父と二代揃ってあの人のもとで働いてきたんです。長いことお世話になって感謝していますし……、何より良い人だ。いなくなってしまったのは寂しいですよ、正直」

 男は、「でもねぇ」と目を伏せた。

「奥様がお亡くなりになってから……。お辛い時もひとりずっと歯を食いしばって頑張ってたんだ。もう……最期をお考えになっても、いい時期なのかもしれませんね」

 そう言うと男は、会社の持っている土地について教えてくれた。今は閉鎖しているが、かつて保養所として使っていた場所があるという。岩弓はそこを大層気に入っていたそうで、保養所を閉めてからもたびたび足を運んでいた、と男は語った。


「行ってみる価値はありそうですね」

 提案したのは夜子だった。

「…………」

 男の話した場所は、東京からそう離れていない。現地で調べものをして帰るのに、一日あれば十分足りる。何の収穫が無かったとしても、たいしたロスにはならないだろう。

「――だな」

 そうしておれと夜子は保養所跡地へと向かった。しかし――。


 そこには何もなかった。


 探すどころの話じゃない。更地なのだ。背の高い草が生え見通しの悪いところもあるが……。すべての片をつけ最期にやってくる場所として選ぶには、物悲しい場所だった。

「あの人の話を聞いた時は、ここしかないって思ったんですけど……」

 夜子は肩透かしを食らったように言う――が、すぐにふるふると頭を振った。

「先入観はいけませんね。とりあえず何か手がかりになりそうなものがないか探しましょう」

 言って夜子は、敷地を囲っているロープを跨いだ。もちろんおれもそれに続いたが――。


 ロープを跨いだおれの右足は、地面を踏むことができなかった。


「あ――!?」

 地に着くことの無かった足に引っ張られ、体はバランスを崩す。そしてぐらりと揺れ――落下した。

 こけたのではない。落ちたのだ。

「な……!?」

 さっきまで見えていた地面はなんだったのか。

(足も体も、土に触れなかったぞ……!?)

「火之さん!?」

 夜子の驚愕する声が上から聞こえる。

「ここだ!!」

 そう叫んだはいいが、おれは空を仰ぎ見て焦った。


 ――落ちたはずの穴が、無い。


 上に見えるのは真っ暗闇だ。空が閉じている――とその時おれは思った。

(一体何が――!?)

 どうやら奇妙なことに巻き込まれてしまったらしい。

(まずい……!)

 落下している体は、いつまで経っても地面にぶつからなかった。どうやら相当深い穴のようだ。

「くそっ……!!」

 とにかくなんとかしなければ――! その一心で体を捩じった時だった。

「――ッ!?」

 おれの体は、地面へ思い切り叩きつけられた。


 こうして気を失ったおれは、暗い洞窟で目を覚ますこととなる。

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