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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
2章 南米共同戦線
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2章-輝ける刃-


「あーもう! マジでなんにも見えない!」


〈アサルト〉ごと闇の中から追い出されたシオンは盛大に悪態をつく。


先程から何度も闇の中に飛び込んではグランダイバーの位置を探ろうとしているのだが、闇の中は外側から見た以上に視界が悪い――という全く何も見えず。

センサー類はもちろんのこと、シオンですら強すぎる穢れに邪魔されて満足に感知を行うことができない。


『シオ坊。いくら防壁で防げるとはいえこう何度も穢れの中に突っ込むのは感心しねえぞ』

「わかっちゃいるけど、それ以外に居場所を探る方法がないんだよ」


アンノウンを生み出す根源にして、世界が続く限り存在し続ける呪い。

人間が知覚することができないだけで空気のようにこの世界に常に存在しているものだが、視認できるほどに凝縮しているものに不用意に触れれば無事ではいられない。

たちまち魂を汚染され、運がよくて体調不良、最悪の場合は死に至るだろう。


防壁で防いでいる限り魂を汚染される心配はないが、万が一防壁を突破されてしまえばシオンでも無事では済まない。

穢れの坩堝である闇の中に飛び込むなど本来は絶対に避けるべきことなのだが、それ以外に方法がないというのが現状だ。


『お前、祓いの術とか使えねえのか? それだけの()はあるんだろ?』

「……お前もしかしなくても結構俺の正体わかってる?」

『さあな。で、どうなんだ?』

「やってやれないことはないけど、最終手段。本当にこれやらないと死ぬってならない限り使わない」

『お前が死なねえなら俺様は構わねえが……』

「むしろ朱月のほうこそ隠し玉とかないの?」


朱月がかなり強い鬼であることはシオンも察しているし、かれこれ一か月はシオンから魔力を得続けている。

失った力とやらもかなり回復できているはずだ。

そんな朱月ならこの状況を打破する手立てのひとつやふたつは持ち合わせていてもおかしくない。


『いんや、俺様は魔物でこそねえが、()だ。陽か陰かで言えば陰の者な俺らに穢れを払うような力はねえよ』

「お前はともかく、他は? 例えば……お前を封じてる刀(・・・・・・・・)とか」

『……ほお、そいつぁ俺様も考え付かなかったぜ』


朱月は魂をとある刀に封じ込められているのだと言った。

封じられる以前もかなりの力を持っていたであろう朱月を封じ込められたのだとすれば、それなりの格を持つ神刀、霊刀の類のはず。

その刀から力を引き出せれば、穢れを払える可能性はある。


『試してみる価値はある。……が、この機動鎧の中にしまい込まれてる刀をどうやって振り回すつもりだ?』

「そこは俺のほうでどうとでも」


確実とは言えないが、闇雲に穢れに飛び込むよりはマシな案が出た。

とはいえこれだけの規模の穢れを払えるかどうかは別問題になる。

では、この後具体的にどうするべきなのか。


『――シオン! 聞こえてるわね!? まあ無視してもこっちは気にしないけど!』


考えようとしたところを、強引に送られてきたアンナの通信によって盛大に邪魔されてしまった。

何事かと思うがアンナはシオンの返事を待つつもりはないらしい。


『これから〈ミストルテイン〉が闇に突っ込むから、巻き込まれないようにちゃんと離れておきなさい!』

「……は!? いやいやいや待って待って何やらかそうとしてるんですか!?」

『あ、反応返してきた』

「そんなこと言ってる場合じゃないですが!? 魔力防壁ひとつ張れない戦艦があんなの突っ込んだら乗組員全滅ですけど!?」


冗談ではなく、穢れというのはある種の魔力なので、物理的な壁なんてものは一切役に立たないのだ。

どれだけ硬い装甲板も無意味。魔力防壁なしでは無防備に穢れに晒されてあっという間にあの世行きになりかねない。


『大丈夫よ。うちの娘とハチドリさんが防壁で守るから』

「げ、ミセス」

『ふふふ、「げ」とはご挨拶ね』


ひとまず突っ込んで死亡という最悪のパターンはないらしいが、そうだとしても穢れに突っ込むというのはリスクが大きすぎる。


「艦長殿! こっちでどうにかしますからさっさと回れ右してください!」

『……部隊の行動の決定権は俺にある。独断専行する協力者の言葉に耳を貸す必要はないだろう』


アキトに訴えるもばっさりと切り捨てられた。

これまで彼からこのような取り付く島もない反応を返されたことはなかったので、思わず怯んで言葉が止まってしまう。


『どっちにしろ、もう遅いわよ?』


何がと聞く時間すらなく、シオンの目の前で〈ミストルテイン〉が闇に突っ込んだ。

思わず「わあああああっ!」と悲鳴を上げるシオンだったが、ミランダの言っていた通り船体を覆う球形の魔力防壁が〈ミストルテイン〉を守っている。


広がる闇は大きいが、〈ミストルテイン〉という戦艦と比べれば同じくらいのサイズ感になる。

突撃した〈ミストルテイン〉はものの数秒で闇を突き破り、グランダイバー(・・・・・・・)を押し出してきた(・・・・・・・・)


「……そういうことか!」


一瞬唖然としてしまったシオンだが、すぐにアキトたちの思惑を理解した。


闇と〈ミストルテイン〉のサイズ感はほぼ同等で、〈ミストルテイン〉が一度闇を突っ切れば闇全体を網羅することができる。

であれば、必然的に闇の中に潜んでいるグランダイバーも〈ミストルテイン〉に接触せざるを得ない。


『魔力防壁で守られていれば闇を寄せ付けないだけじゃなく、グランダイバーも体当たりにで弾き出せる。こうして闇から対象を追い出すことさえできれば、あとはシンプルだ』


球形の魔力防壁に押し出されてきたグランダイバーを〈ミストルテイン〉並びに〈アサルト〉を除く機動鎧部隊の集中砲火が襲う。

グランダイバーが目視さえできてしまえば、闇が現れる以前と同じく大地に潜られる前に倒すだけ。

アキトの言う通りシンプルな話だ。


――しかし、どうにも攻撃が効いていない(・・・・・・・・・)


『ちゃんと魔女印の弾撃ちこんでんだぞ!? なんで効かねえ!?』

『対象の周辺に強力な魔力防壁! 弾丸がそもそも届いていません!』


集中砲火で浴びせられている攻撃の全てが、グランダイバーに直撃する前に阻まれている。


魔物にとって魔力防壁は自身の身を守るために本能的に扱えるものなので闇が出現する以前も防壁自体はあったはずだが、魔女印の武器で貫通できていた。

それがここに来て通用しなくなったのだ。


「全部じゃないけど、それなりに吸収して強くなったってことか……!」


グランダイバーが闇の中に潜んでいた時間は短くはない。

回復に加えてある程度の強化はその間になされてしまったということだろう。


攻撃を続ければいつか防壁を貫くこともできるかもしれないが、魔女印の武器は無限ではない。

すでにかなりの数を消費しているので貫通まで弾薬が持つ保証はない。


『シオン。わかっているわね?』


何をとは言わずにミランダはそれだけをシオンに問いかけた。


『もちろん、ここは俺がやるしかないんでしょう?』

『ただあなたがやるだけじゃないわ。……敵が未知数である以上生半可な攻撃をしている場合じゃないの』


今回突然起こった闇の出現。

シオンはもちろんだが、この口ぶりであればミランダにとっても未知の現象なのだろう。


そんなものに出し惜しみなどしている余裕はない。

半端なことをして隙が生じれば、状況が悪化する可能性もある。


ミランダが言っているのは、そういうことだ。


『……朱月、さっきのあれ、やるから』

『ああ、思いっきりやりゃあいい』


通信越しに聞かれないように思念だけで朱月と言葉を交わし、ひとつ息を吐き出す。


「陽光の下に生じる影 月光を映す水鏡 形為す全てに影はあり」


〈アサルト〉の右腕を高く掲げ、詠う。


「形ありて影あり、影ありて形あり。表裏一体にして同位なるもの――その理をここに示さん」


掲げた右腕に集まりゆく魔力は細長い棒状に変化し、さら輝きを強めていく。


「――写影顕現(イミテイト)・神刀 〈月薙(つきなぎ)〉」


一際強い輝きの後、〈アサルト〉の右手で刃を輝かせる一振りの刀。

魔力をもって機動鎧に合うサイズで再現した〈アサルト〉のECドライブに使われ、今もなお朱月を封じ込めている神刀。

魔力で一時的に作り出したものとはいえ、その性質は本体と比べて遜色ない。強い力を持つ破魔の刀だ。


「一気に行きます!」


〈アサルト〉を一気に加速させてグランダイバーを狙う。

〈アサルト〉自身か、あるいは再現された〈月薙〉に対して本能的に危険を感じたのか今まで以上の数の土の腕が真下から〈アサルト〉を狙ってくるが、〈月薙〉のひと振りだけでニ、三本腕がすっぱりと斬れる。


無意味に等しい抵抗を軒並み斬り捨ててグランダイバーに迫った〈アサルト〉は〈月薙〉の刃を高く掲げた。

魔力を刀身に流し込めば、たちまち純白にして清浄な輝きが刃を覆う。


「消し飛べぇぇぇっ!」


雄叫びと共に振り下ろした刃が防壁を引き裂いてグランダイバーを両断する。


半霊体の身に刻まれた一筋の白い光はゆっくりと輝きを強め、最後弾けるように光を放って一帯を白く染め上げた。


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