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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
2章 南米共同戦線
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2章-急転の戦況②-


「武器を持たない民のために、身を危険に晒すと?」

「それが軍人の役目だと、俺は思う」


問いを投げかけるハチドリに、アキトははっきりと答えた。

向かい合うふたりの間にしばしの沈黙が流れる。


『……残念だけど、艦長殿は折れないよ』


わずかなノイズを走らせつつ、呆れたようなシオンの声が静寂を破った。


『俺も撤退してほしいけど、残念なことに決定権持ってるのはミツルギ艦長殿だから』


シオンの言う通り、ここで決定権を持つのは艦長であり部隊のトップであるアキトだ。

協力者のシオンも扱いとしては捕虜に近いハチドリも、アキトの決定に異を唱える資格を持たない。

ただ、そのような言い方をされるとまるでアキトが人の意見を聞かない暴君であるかのようで釈然としない。


『道連れは嫌だろうし、鳥かごの魔法解こうか?』

「……不要だ。人間を見殺しにしてまで生き延びたいなどとは思わない」


大きくため息をついたハチドリはアキトを睨んで「好きにしろ」とだけ言った。

もう戦うことに反対するつもりはないらしい。


『で、この後について俺から作戦のご提案です』


器用にも迫ってくる土の腕を薙ぎ払いながらシオンは言う。


「勝算があるのか?」

『一応は』

「聞かせろ」


ハチドリ曰く、勝ち目のない戦いだというこの状況に少しでも勝算があるというのならためらう理由はない。

アキトの即答を予想していたのかシオンは流れるように言葉を続ける。


『幸いというかなんというか、グランダイバーはまだ動けません。……多分さっきまでのダメージの回復と、あの闇を取り込むのに時間がかかってるんです』

「ダメージの回復はともかく、闇を取り込むのにも時間がかかるのか?」


問題の闇はセンサーで反応を見る限りはアンノウン反応のみしか感知されない。

要するにアンノウンの魔力、ということなるのだろうが、アンノウンであるグランダイバーがそれを取り込むのに時間がかかるというのが引っかかる。


『規格の問題というか……強すぎる(・・・・)んですよ。闇の持ってる魔力が強すぎて受け入れる側のグランダイバーの半霊体がついていけてない。コップにバケツいっぱいの水を入れようとしてるみたいなもんです』


現在のグランダイバーは可能な範囲で闇を吸収しては自身の受け入れられる魔力の最大容量を増やしつつ、残る闇を吸収するという行為を繰り返しているのだとシオンは説明した。


『あれだけ闇が広範囲に広がってるってことは、全部吸収するまでにはまだまだ時間がかかります。それまではあっちも動かないでしょうし、時間は結構あると言ってもいいでしょう』

「……だが、時間が過ぎれば過ぎるほど敵が強くなるということでもあるんだろう?」

『それはまあそうですけど』


確かにグランダイバーが行動を起こすまでには時間があるのだろうが、いたずらに時間を与えればそれこそハチドリの言う、人間の手ではどうにもできない存在になってしまう。


「吸収が終わる前に倒すことはできないのか?」

『闇が邪魔で目標の居場所がわかりませんし、半端な攻撃じゃ当てたところですぐに回復されて終わりです』


広がる闇は〈ミストルテイン〉をも覆い隠せるほどの大きさに広がっている。

センサー類で中の様子を探ることもできない状況下で機動鎧と同じかそれよりも小さいサイズのグランダイバーの位置を探り当てることは至難の業だ。


『……とか言いつつも、方法がないわけでもないんですが』

「本当か!?」

『この状況で嘘つくほど空気読めなくないですよ』


普段のような冗談を交えたシオンの態度と自信を感じさせる言葉に、緊張が少しほぐれる。

少なくともシオンはこの状況にまだ絶望も恐怖もしていないのだと伝わってくるからだ。


『提案したいのはそれに関する作戦です。乗ります?』

「……時間が惜しいし俺たちにそれ以外の選択肢はない。聞かせてくれ」


普段であれは作戦の詳細を聞いてから判断したいところだが、今はそんなことで時間を使っている場合ではない。

ここまでのシオンの行動を思い起こせば、少なくともアンナや十三技班のいる〈ミストルテイン〉に危険が及ぶようなことはしないだろう。

詳細を聞く工程を省いたとしても問題はないはずだ。


『了解。時間もないのでいくつか俺から直接指示出しますけど、いいですね?』

「……わかった。任せる」


アキトの言葉にそばに立つミスティが不安げにしているが、あえてそれは見ないフリをしておく。


『じゃあとりあえず〈ミストルテイン〉と護衛の機動鎧はできるだけ下がりましょう! 多分今なら回頭して闇に背を向けても大丈夫です』

「ナツミ、百八十度回頭、最大船速で距離を取ってくれ」

「りょ、了解!」


ナツミの操舵で迅速に〈ミストルテイン〉の向きが変わっていく。

依然として土の腕は伸びてきているが、背中を向けたことで闇のほうに変化が起きることはない。

シオンの見立て通り特に問題はなさそうだ。


「シオン、そもそもあの土の腕っておかしくない? グランダイバーは大地に潜ってないのよね?」

『潜ってませんけど、それでも多少土を操るくらいできるんでしょう……まあさっきまでと比べると数も精度も劣りますけど』

「確かに腕の反応数がさっきまでよりも少ない……回復と吸収に忙しいなら、牽制の意味合いのほうが強いのかもしれないわね」


アンナの分析にはアキトも頷く。

今〈ミストルテイン〉を狙う土の腕は動きが直線的であるし、背中を向けたにもかかわらずなんの反応も示してこないのも、そう考えれば納得もいく。


『それなら俺たちとしてはありがたいことです。十分に距離を取りましょう』


完全に闇に背を向ける形で一気に距離を取る。

土の腕は自動に近いのか変わらず追いかけてくるが、距離が開いた分対処はしやすくなっていく。


「イースタル。これだけ離れれば十分ではないか?」

『……そうですね。こんなもんでいいでしょう』


シオンの反応にアキトは若干の引っかかりを覚える。

指示を出したのは他でもないシオンなのだが、今の反応はまるでどの程度離れるか決めていなかったかのようにも聞こえた。


「次はどうする?」

『次は簡単です。俺が声かけるまで、防御以外何もしないでください(・・・・・・・・・・)


こちらが指示の意図を聞き返すよりも先に〈アサルト〉は急加速して〈ミストルテイン〉を離れてしまう。


「ちょっとシオン! アンタ何する気!?」

『そんなもん、あれをどうにかするに決まってるでじゃないですか!』


聞くまでもないことだろうとでも言いたげに答えるシオンに迷いもためらいもない。


『〈ミストルテイン〉は安全圏で待機。俺がアレをぶっ殺す。シンプルかつ安全な作戦でしょ?』

「そんなの作戦とも呼べないわよ!」


アンナの怒鳴り声を歯牙にもかけず〈アサルト〉はすでに闇のすぐそばまで迫ってきている。


『ハチドリも言ってたでしょ? もう人間の手に負えるものじゃないんです。なら魔法使いの俺がどうにかするのが一番でしょ?』

「お前、最初からそのつもりで!」


はいともいいえとも言わないシオンだが、「人類軍に被害なしで万事片付くんです。悪い話じゃないでしょ?」などと笑い交じりに言ってくる時点で確信犯だったのは間違いない。


シオンが〈ミストルテイン〉を危険に晒すことはないというアキトの考えは間違えていなかったが、まったく別の方向から、まんまとシオンに踊らされたのだ。


『万が一にも突っ込んで来ないでくださいね』


最後に一言だけ告げて、シオンは通信を切ってしまった。

以前と異なりこちらから強引に通信を繋げることはできる状態だが、それをしたとしてもどうせ無視されるだけだろう。


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