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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
2章 南米共同戦線
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2章-急転の戦況①-


前方で爆発的に広がった闇を前に、ブリッジでは異常を知らせる警報がけたたましく鳴り響いている。


「後退だ! 前方の闇から距離を取る!」


現在何が起きているのかはアキトには全くわからない。反応を見る限りシオンもハチドリも同じようなものだろう。

しかし、何かよくないことが起きていることと、目の前で広がっていく闇がその元凶であることはわかる。


「各兵装はいつでも撃てる状態で待機! 回頭はせずに後退用のブースターを使って下がるぞ!」


最速で距離を取るのなら艦首を百八十度回頭させるのが正しい。

だが今の状況で闇に対して背を向けるのは危険だと、そう本能が訴えてくるのだ。


そしてその判断は正しかった。


「前方でエネルギー反応増大! 地表で再び土の腕が出現している模様!」

「人間ども! 攻撃が来るぞ!」

「ラムダ! 迎撃しろ!」


コウヨウとハチドリからの警告に指示を飛ばす。

力強くそれに応じたラムダの正確な砲撃とミサイルで迫ってきていた無数の土の腕が弾け飛ぶ。


「ダメだ、手数が足りねえ!」


第一波はなんとかしのげたが、戦艦の兵装は主に船体上部に集中している。

下部に全く兵装がないわけではないが下から断続的に迫ってくる無数の腕を捌ききれるほどの数はない。


「攻撃まだ来ます!」

「副砲はともかくミサイルは間に合わねえ! 何発かくらう覚悟はしとけ!」

『いや、大丈夫です!』


ラムダの怒鳴り声に割り込んだ通信越しのハルマの声の直後、〈ミストルテイン〉直下に飛び込んできた〈セイバー〉が迫ってきていた土の腕を瞬く間に斬り捨てる。


『〈ミストルテイン〉! 無事ですか!』


続いて〈アサルト〉や残る機動鎧も〈ミストルテイン〉を守るように周囲に集結し始めた。


「今のところダメージはない。……戦況は非常によろしくないがな」

『……ええ本当に』


この会話の最中も各機動鎧やラムダの手による攻撃の迎撃は続いている。


消滅しかけだったグランダイバーがいた位置には、どす黒い闇が分厚い雲のような状態で存在し、闇の中の状況はセンサー類をもってしてもうかがい知れない。

現状ブリッジからわかるのは、目の前の闇が非常に強いアンノウン反応を発しているということくらいだろう。


はっきり言って、戦況はかなり不味い状況にある。


「イースタル。あれはなんだとお前に聞いて答えは出てくるか?」

『残念ながら、俺にもわかりません』


予想はしていたことだったが、シオンの返答は早かった。


『凝縮した穢れ……なんでしょうけど、こんな現象初めて見たしどう考えても自然現象とは思えない』

「自然現象なわけがない! あんなものが自然に起きていてはこの星などあっという間に滅びるぞ!」

『タイミングも良すぎました。……あんな、死にかけのグランダイバーを救うみたいな……』

「……分析は後だ。今俺たちがすべきことは状況への対処、目標の討伐だ」


土の腕が襲い掛かってきたということはグランダイバーは未だ健在なのだろう。

反応を捉えられていないが、おそらく目の前の闇の中にいる。


であれば、アキトたちの優先すべきことが目標の討伐なのは変わらない。


「……いや、やめておけ」


アキトの言葉に反対したのはハチドリだった。

現状この南米での問題の解決を一番望んでいるはずの彼からの反対はアキトも全く予想していなかった。


「何故だ? このままグランダイバーを放置するのは危険ではないのか?」

「もちろん危険だ。……しかしお前たちだけの手で対処できる域を完全に越えてしまっている」


先程までは声を荒げることもあったハチドリだが、今は冷静さを取り戻しているようだった。


「先程までならお前たち人間でも事足りた。魔女の助言もあったのだからな。……だが、今はもう違う。あの闇はやつをより強い魔物にするだろう」

「……私たちでは倒せないと?」

「ああ無理だ」


ミスティの言葉に対してハチドリは当然のことのように答えた。

なんの疑いもなく、絶対にそうであると確信している。そんなハチドリの心情がこれ以上ないほど現れている言葉だった。


「幸い、まだグランダイバーは動けないらしい。今の内に逃げろ、人間」

「アタシたちのこと、気遣ってくれるってわけ?」

「この世界に生きるものを守るのは神の眷属たる我らの使命。無駄死にさせるわけにはいかない」


皮肉を込めたアンナの言葉に対して、ハチドリは毅然とした態度で答えた。

思えばハチドリは人を見下すような立場を取りつつも、一度たりともアキトたちに対して害意を見せたことはなかった。

彼は自分の望みよりもアキトたちの命を優先すべきと判断したのだ。


「……だが、それでもここで退くわけにはいかない」

「何故だ?」

「この状況を放置すれば、民間人にも被害が出てしまう可能性がある」


ミランダも言っていたことだが、このままグランダイバーを放置すれば一番危険なのは人間の民間人だ。

しかも問題のグランダイバーは謎の現象により生きながらえている上に、より強いアンノウンに進化してしまうのだという。


ここで〈ミストルテイン〉が撤退したとして、他の人類軍に対処できるとは考えにくい。

そんなグランダイバーがもしもアマゾンから人里へ移動するようなことがあれば、どれだけの人間が犠牲になるかわからない。

仮に体勢を立て直すための一時撤退だったとしても、その選択が決して少なくはない人間の命を奪いかねない。


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