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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
2章 南米共同戦線
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2章-アマゾンでの戦い①-


〈ミストルテイン〉から飛び出した〈アサルト〉。

その眼下には生い茂る木々の緑が美しい広大なジャングルが広がっている。

旧世紀から環境問題が声高に叫ばれ続けている現代において、このような大自然を拝めること自体なかなかない体験だと言えるだろう。


そのまま眼下の光景に感動しつつ観光気分でいられればよかったのだが、そうはいかないのが残念なところである。


『アマゾン熱帯雨林中央部にて反応増大! 高エネルギー反応とともに反応範囲が拡大していきます!』


けたたましい警報音とブリッジのコウヨウからの警告に、シオンは反応が確認されている方向へと目を向け、すぐに顔をしかめた。


「こいつはまた……」


少なくとも肉眼で見る分には今までどおりジャングルが広がっている光景しか見えない。

実際、機動鎧で出撃しているハルマたちやブリッジのアキトたちにもそのようにしか見えていないだろう。


しかし、そのなんら不審な点が見当たらないジャングルからとてつもなく嫌な気配が放たれている。


シオンのような人間や人外が感知することができる、所謂"魔物の気配"。

普段からして決して心地よいものではないのだが、今回の不快さは今まで感じた中でも群を抜いている。


単純に強いアンノウンであるというのももちろんあるだろうが、それだけではないとシオンは確信した。


『……相当、食い荒らした(・・・・・・)後らしい』


通信越しにハチドリの深刻な声が届く。

危険な予兆の察知などに役立つだろうからと説き伏せて、この作戦の間はハチドリの鳥かごをブリッジに置かせてもらっているのだが、いい具合にその役目を果たしてくれているようだ。


『何を食い荒らした後なんだ?』

「ジャングルの動物、植物……人外も含めたあらゆる魂を喰らったんでしょう」


感覚的な話にはなるが、発する気配の"濃さ"が違う。

生まれ落ちたときの気配に大小はあれど、濃淡という部分に限れば大差はない。

しかし他の魂を喰らうことで、その大きさと濃さを増していく。


目の前のアンノウンが喰らった魂は、少なく見積もっても軽く一〇〇〇は越えているだろう。


『……それだけ強いということか』

「そんなところです」


人外の観点から言えば喰らわれた魂を解放するために一刻も早く滅ぼすべき、という話になるがそれを人類軍に説明してもあまり意味はない。


ただひとつ重要なことは、確実かつ迅速に殺すべき敵であるということだけだ。


『敵反応に部分的増大あり! 警戒してください!』


コウヨウの悲鳴染みた警告の直後、前方に広がるジャングルの数か所が隆起する。

隆起した大地は瞬く間にその形を人間の腕に似た姿に変えていく。


「来るぞ! こっちのことはたき落とす気だ!」


勢いよく伸びてくる無数の土くれの腕を急速に散開して避ける。

しかし一回避けた程度で止まるはずもなく、腕はこちらのことを追尾してきた。


土のてのひらの大きさは機動鎧一機を腕一つで鷲掴みできる程度と大きく、その分スピードにはいまいち欠ける。

機動性重視の〈アサルト〉はもちろん、ハルマたちの駆る他の機動鎧たちも直線の移動ではまず追い付かれる心配はないだろう。


「とりあえず、一発くらっとけ!」


真後ろから追いかけてくる数本の腕に対して高出力モードの〈ドラゴンブレス〉を叩き込む。

避ける間もなくあっさりと閃光をくらった腕は拍子抜けするほどあっさりと崩れてただの砂に戻ってしまった。しかし――、


『複数のエネルギー反応確認!』


警告とともにセンサーに映し出された反応の数は見事に消し飛ばした腕の数と同じ。

破壊からほんの数十秒で新しい腕が地面から生えてきたわけだ。


『こんなにあっさり再生するの!?』

「再生というか、そもそもアンノウン本体じゃないですから、ね!」


迫ってきた二本の腕を叩き斬りつつ回避行動を続ける。

所詮これらの腕は憑依によって大地を操ってそういう形を取らせているだけに過ぎない。

材料の土は無限にあるので、再生というよりは即座に新しく作り直しているというほうが正しいだろう。


わかってはいたことだが、やはり本体をどうにかしなければ終わらないというわけだ。


『……これより、作戦を開始する。〈ミストルテイン〉は高度を可能な限り高く保ったまま反応からの距離を維持。決して反応範囲に入るな! 機動鎧部隊は散開して事前に説明した通りに作戦の第一フェイズを開始しろ』


ブリッジから届くアキトの鋭い号令。

グランダイバー討伐作戦はここに幕を開けた。


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