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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
終章 選び取った未来
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終章-嘘つき共は月下に踊る-


「――あ、やべ」

「どうした?」

「アキトさんにバレた気配」

「ああ? 早すぎんだろ」


月明かりに照らされた静かな神社――【月影の神域】でシオン・イースタルと朱月はそんな会話を交わす。


「なんでバレた? お前さんが用意した偽物、二割は本物だったしそう易々とはバレねぇ出来だったろ?」

「そういうバレかたじゃないかな。だってあれ、わざわざ右腕切り落として作った特別製の分身だし」


ファフニールを顕現させたときと同じく、本物のシオンの一部を依代にした特別な分身。

右腕をベースに構築したことでちゃんとシオンと同じ体になっているし、≪天の神子≫の能力も扱える。

使い切りタイプだったファフニールと違い〈トリックスター〉のエナジークォーツから魔力供給がされるようにしたので、相当詳しく探らない限りは偽物だとバレない完成度の代物だった。

実際サーシャたちにもまだバレていない。


「なんか、ちょっとした会話の中の違和感とかそういう話でバレたっぽい」


元の世界に戻した偽物と、こっそり【月影の神域】に残った本物のシオンは軽めの記憶共有しかしていない。あまりしっかり接続しているとそこから周囲にバレる危険があったからだ。

なので、偽物の方であったことはぼんやりとしか把握できないようになっている。


「カカカ! こりゃもう完全にアキトの坊主のほうが上手ってこったな!」

「怖……あの人ヤバすぎ」

「せっかく、準備にかこつけてコンテナの影でこっそり腕切り落としてまでこさえた偽物だったのになぁ」


朱月から体を取り戻したときのシオンは間違いなくオリジナルのシオンだった。


そこから準備をするために彼らの視界から消えたところで、朱月の言うようにこっそりと偽物を作り最大限魔力や穢れを託した上で、偽物と〈トリックスター〉のエナジークォーツを核とする分身だけを彼らの前に行かせて、オリジナルは影でこっそり隠れていたのだ。


そんなことまでしてオリジナルのシオンが残ったのは、やはりこの世界に残って管理する存在が必要だと判断したからだ。


アキトたちには伝えなかったが、トウヤの魔物堕ちなどを原因として【禍ツ國】はかなり荒れていた。そうでなくても本来メンテナンスを担うコヨミが長く眠っていたので色々と小さな不具合はあったのだ。


そんな状態で誰も管理者がいなくなれば致命的な問題が発生するリスクは高まる。


人柱を立てることが最善である、という現実はどうあっても変わらなかった。それだけの話だ。


「にしても、あれだけ質のいい偽物なら、偽物をこっちに置いてきゃよかったんじゃねぇのか?」

「それもアリだったかもしれないけど、オリジナルの俺よりは色々劣るし、オリジナルが残るほうが何かと安心だったんだよ。……っていうか、そういう話をするなら朱月がわざわざ分身をこっちに残してるのも変な話だろうに」


シオンはあくまでひとりでこちらの世界に残る予定だった。

では何故朱月が――厳密に言えば朱月の分身が、この世界に残ってるのかというと、シオンもよくわかっていない。

「気づけば何故か残っていた」というのが現時点でのシオンの認識である。


「そりゃあ、どこぞの身内に甘い神様がやらかす予感がしたもんでなぁ。……あのタイミングで俺様に“仕返し”してきたときにピンときたんだよ」


仮に人柱として残るのなら、ちゃんとした肉体を持つオリジナルのシオンであるのが最善。

だからこそシオンはあのとき朱月から体を取り返す必要があった。

表向き朱月に悪さをさせないためと口にはしていたが、あれは建前でしかない。


そういうシオンの思惑をこの鬼は正確に見抜いていたらしい。


「でも、俺が残るから朱月も分身を残すって意味わかんないんだけど」

「……お前さん、本当にアレだな」

「?」


首をひねるシオンに朱月はため息をつく。


「自分で言うのもなんだが、俺様だってそれなりにシオ坊に情が湧いてるんだよ」

「……まじで?」

「言わせんな恥ずかしい」

「……師匠の言ってたのってそういう……」


なんとなく沈黙することしばらく。空気に耐えきれなくなった朱月が話題を変える。


「それはそれとして、バレたのはどうすんだ? 最悪、あいつら今すぐこっちに来るんじゃね?」

「そこは偽物の俺に頑張って止めてもらうのと、こっちで干渉ブロックしとこう」


“書き換え”によって≪月の神子≫以外にも干渉できるようになった“封魔の月鏡”だが、その後、シオン以外が干渉できないように再度いじっておいたのだ。

アキトたち≪月の神子≫はもちろん、サーシャたちもこの世界に干渉できないようにするのは簡単なことである。


「主にミツルギ家にブチギレられそうだが?」

「いいのいいの。せっかくあの一家はやっと幸せになれそうなんだからさ」


三兄妹は全員元気。母親は戻ってきたし、新たな弟だっている。

≪月の神子≫に関するあれこれも秘匿されるのだから、彼らはこれからごく普通の家族としての幸福を得られるだろう。


「あとはまあ、あの人が変な意地張らないでくれるともっと幸せになれそうなんだけどね」

「アイツはなぁ……妙なとこで真面目というか堅物というか……最後は取り繕えてもなかったしよ」

「あの一家なら、化けて出たところで普通に喜ぶだけだと思うんだけど」

「ま、コヨミが気づきかけてるしどうとでもなるだろ。それより、お前さんだシオン」

「ん?」


ミツルギ一家の話をしていたのに突然自分の名前を出されたシオンは目を白黒させる。


「なんの話?」

「なんの話も何も、お前、ナツミの嬢ちゃんに告白されたんだろ?」


朱月の指摘にシオンはピタリと動きを止めた。


「……なんで知ってるの……?」

「一応言っておくが記憶は覗いちゃいねぇ。……覗くまでもなくわかるしな」


自分の恋愛についていきなり話を振られ、シオンは顔を覆う。


「で? どうなってんだ? 恋人になったって感じじゃなかったが」

「……告白されて、返事を考えることになってる」

「……なのにこっちの世界に残ったってお前、ふざけてんのか?」

「だって他に選択肢なかったし……残るって決めたのこの世界の状態確認してからだったし」


朱月の怒りのオーラに気づいて言い訳するシオン。

そもそもシオンも人柱になりたいわけではなかった。

ただ、蓋を開けてみれば誰かがやらないとダメな状態だった。


その上で、元々の≪天の神子≫の性質に加えて一度魔物堕ちしたことでかなり高い穢れへの耐性を持ち、なおかつドラゴンを取り込んだことによって頑強になっていて、さらに本物とほぼ遜色ない偽物を作って人柱になっている事実を誤魔化せてしまうシオンが、人柱になるのにいろいろと好都合すぎたという話なのだ。


「んなこたぁどうでもいい。問題はナツミの恋心を弄んでやがることだけだからなァ」

「お、落ち着いて! というかお前そんなキャラ!?」

「はっきりした返事もせずに偽物だけ残して異空間に閉じこもってどうするつもりだコラ」


圧が強いだけでなく、すでにシオンの胸ぐらをしっかり掴んでいる朱月。

そんな朱月に慌てつつ、シオンは口をひらく。


「ナツミには、ちゃんと返事をする。遅くても一年後くらいには」

「一年?」

「そう、一年以内には人柱なんてやめてやろうと思って」


シオンは善人ではない。

不特定多数のために人柱として身を犠牲にするなんてまっぴらごめんだ。

こうして今人柱をしているのも、あくまでアキトたちのためでしかない。


「今から一年以内にこの【禍ツ國】中の穢れを全部無くそうと思って。で、さっさとあっちの世界に帰るつもり」


そうして偽物と何食わぬ顔で入れ替わってしまえば、嘘偽りない本当のハッピーエンドの出来上がりというつもりだった。偽物のことがアキトにバレてしまったのでそういうわけにはいかないかもしれないが、それは今は置いておく。


「……お前、正気か? 多少減ったとはいえ、千年以上溜め込まれた穢れがあるんだぞ?」

「知ってるけど、だからどうしたって話」


千年以上積み重ねられた人の業。

しかしだからといって、どうにもできないと諦めて穢れの自然消滅をじっと待つつもりはない。


「俺にはまだやることも、やりたいことも色々あるんだ。どこの誰とも知らないやからの負の感情なんてもんにそれを邪魔されてたまるかって話」


なので、消し去る。≪月の神子≫のように優しく浄化なんてしない。


「喰らって力にして、アンノウンとかアンノウン未満のバケモノたちを倒して、魔力が減ったらまた喰らって、また倒して。……暴力振りかざしても穢れが新しく生まれる心配がないって楽だよね」


人間や人外に対して理不尽な暴力を振りかざせば、穢れはもちろん、彼らに何かしらの禍根を残す。

けれどアンノウン相手ならその心配もない。倒してしまえば何も残らない。


徹底的に力で排除してしまってもなんら問題はないというわけだ。


「こう言っちゃなんだけど、もうすでにナツミやみんなが恋しいんだ。だから早速始めようと思う」

「……ハハ! シオ坊の人恋しさだけで、怒りも嘆きも「知らねぇよ」って等しくぶっ潰されるってか? そりゃあまたカワイソウな話じゃねぇか!」


シオンの身勝手すぎる言い分を聞いた朱月は、それはそれは愉しそうに笑う。


「いやぁ、言われてみりゃそうだな。世の理不尽から生まれた穢れだろうが、それを優しく慰めてやる義理なんて俺様たちにゃあかけらもありゃしねぇ」


ニヤニヤと笑みを浮かべたまま、朱月はどこからともなく取り出した刀を肩に担ぐ。


「せっかくだ、俺様も手伝うぜ。穢れを喰えはしねぇが、理不尽にぶっ潰すのは大得意だ」

「さっすが、悪い鬼だね」

「そっちこそ、とんでもなく悪い神様じゃねぇか」


言い合いながら、鳥居を潜って【月影の神域】から【禍ツ國】へ。


いつかの時代の街並みが炎上し、バケモノたちが徘徊している地獄のような場所で、とりあえず手近にいたバケモノをまとめて頭から喰らってやった。

ついでとばかりに朱月はシオンが食べなかったバケモノたちの首を切り飛ばしている。


そんなシオンと朱月に気づいたバケモノたちやアンノウンたちが群がってくるのを前にして、ふたりそろってニヤリと笑う。


「「それじゃあ、大掃除といこう」」


人の業を清めるために造られた世界にて、悪なる神と悪なる鬼による蹂躙はこうして幕を開けたのだった。




END

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