終章-めでたしめでたしのシナリオ-
巨大アンノウンとの戦いのあと一度気を失ったアキト。
アキトに限らずコヨミとハルマとナツミも同じように気を失ったそうだが、機動鎧の安全装置のおかげで墜落することなく回収され、シオンたちに回収されて無事に〈ミストルテイン〉に帰艦することができたらしい。
それからサーシャたちの治療もあって数時間ほどで目を覚ましたアキトたちは、クリストファーに招かれて〈アイランド・ワン〉を訪れていた。
「――世界を脅かす巨大な災いにふたつの世界の人々は共に立ち向かい、見事打ち倒しました。長く続いたふたつの世界の戦いも終わりを迎え、世界は平和になりましたとさ――めでたしめでたし。……ってね」
関係者が集まった会議室で口を開いたサーシャはまるで語り部のようだった。
「……あの、巨大な災いをつくっちゃったの、僕なんですけど」
「知ってる知ってる。……でも、別に大っぴらに言わなくてもいいと思うのよね」
「えっと?」
「≪月の神子≫にまつわることや、君のことは内緒にしてしまおうということだよ。トウヤ君」
サーシャの言葉に疑問符を浮かべるトウヤに、クリストファーは優しく補足を加えた。
「正直な話、≪月の神子≫に関して公にしても何もいいことがない。むしろ、ようやく普通の家族のように暮らせるミツルギ家の幸福に水を差すことになりかねないからね」
「それってウソをつくってことなんじゃ」
「あっはっはっは」
トウヤのストレートな指摘にクリストファーはわざとらしく笑う。
トウヤが困ってオロオロしているところに、ギルベルトが大きめに咳払いをする。
「クリストファー・ゴルド殿の悪びれない態度はともかくとして、秘密にすることに関しては私も賛成しましょう」
クリストファーほど積極的ではないが、ギルベルト――もとい【異界】側も秘密にすべきという判断らしい。
その点に関してはアキトも異論はない。
「でも、その……」
「トウヤ。こういう難しいことは大人たちに任せておけばいいから。トウヤはこの世界でコヨミさんたちと仲良く暮らすことだけ考えてればいいんだよ」
「ええ。こういうことはゴルドさんたちのほうが上手だもの」
困惑していたトウヤもシオンとコヨミのふたりに宥められ、それでいいという認識になったらしい。
「それじゃあ、ストーリーとしてはさっきみたいな感じで。“穴”の発生原因とかもまとめてあの目玉アンノウンのせいってことにして〜、それを人間と人外が力を合わせてやっつけましたってことにしましょう」
「我々は構いません。そのほうが和平の話も進めやすいでしょう。ただ、人類軍と口裏を合わせる必要があるでしょうな……」
「大丈夫大丈夫。どうせクリスが今の上層部にもコネがあるとかそういう感じでしょ」
「ノーコメントだが、口裏合わせは私に任せてくれたまえ」
「ゴルドさん……」
ノーコメントとは言っているが、口裏合わせができる時点でサーシャの発言を肯定したのと同じである。
クリストファーは人類軍から離れているはずだというのに、これでは完全に裏で世界を牛耳る悪役のポジションではなかろうか。
「(いや、今はその辺りのことは気にしないでおこう)」
そのおかげでアキトたちが助かるのは確かであるし、ようやく大きな問題を片付けたばかりの今、あまり面倒なことを考えたくなかった。
「とりあえず難しいことはまた改めて話し合うとして……今はもっとやるべきことがあるわよね」
「「「やるべきこと?」」」
サーシャの言葉を受けて首を捻る者数名。
アキトもその中のひとりで、サーシャの言う“やるべきこと”がなんなのかわからない。
少なくとも深刻なことではないのは彼女の雰囲気から察せられるが……
「今やるべきことそれは……パーティーよ!!」
「……パーティー?」
予想外のサーシャの言葉に、アキトは思わず鸚鵡返ししてしまった。
「大変な戦いが終わって、世界が平和になったのよ? お祝いしなくてどうするの!」
「まあ、そうかもしれませんが、そういったものには準備が必要では?」
「それは安心して! ≪魔女の雑貨屋さん≫のパーティープランを注文済みだから。場所さえ適当に用意すれば料理もお酒もたっぷり届くわ!」
「もしかしなくても作戦開始前から注文してましたね師匠」
シオンの指摘にサーシャは言葉は返さないものの笑顔で親指を立てた。
つまりはイエスの意だろう。
「はっはっは。まあいいじゃないか。場所が必要ならこの船の大部屋を手配しよう」
「……確かに、労をねぎらう場は必要ですな」
「決まりね! じゃあ準備しましょう」
そうして、〈ミストルテイン〉一行、≪銀翼騎士団≫、クリストファーの艦隊、さらにその他協力者たち入り乱れての祝勝パーティーの開催が決定したのだった。




