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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
2章 南米共同戦線
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2章-出撃前、内緒話-


ブリーフィングから一晩明け、時刻はまもなく午前十時。


これよりグランダイバーを討伐するための作戦が開始される。


機動鎧(アークメイル)全機、出撃準備はいいかしら?』

「〈アサルト〉は問題なし。なんなら今までで一番いいコンディションですよ」


現在の〈アサルト〉はシオンが直接手を加えている。

要するに、シオンによるシオンのためのシオン好みの調整が施されているのだ。

誰にとっても使いやすい調整かと問われれば愛想笑いで誤魔化すしかないが、シオンにとっては一番の調整であることだけは断言できる。


他、ハルマたち三人からも問題なしの報告が入る。

なお、今回の作戦に〈サーティーン〉が出撃する予定はない。そもそも前回の出撃自体が例外中の例外であるし、飛行ユニットを持たないので今回の作戦には向かないだろう。


『一応最終確認だけど、各機作戦は頭に入ってるわね?』

「もちろん」

『『『問題ありません』』』

『……ハルマ君たち三人は全く心配してないの。問題はシオン、アンタよ』

「心外な! ちゃんとブリーフィングだって出たじゃないですか!」

『授業に出てても話なんにも聞いてなかった問題児が何か言ってるわね』

「う……」


アンナの言葉に全く反論できないシオンに対して、ハルマが通信越しに鼻で笑う。


『自業自得だバカ野郎』

「さすがの俺でも聞くべき話は聞くし! それに艦長の説明はわかりやすかったから大丈夫!」

『だといいんだがな。……正直俺もお前が作戦理解してるかだけが心配だ』


ハルマだけの言い分なら噛みつくところなのだ、レイスとリーナも控えめにだがハルマに同意した。

この場において四対一。シオンに反論の余地はなかった。


『まあ、今回は信じましょう。それにシオンが何かやらかしたらすぐにアタシが叱り飛ばすから、ハルマ君たちは安心して』


冗談交じりのアンナの言葉に了解の返事を返すハルマたちに複雑な気分になりつつ、出撃の準備を進める。


『ところでシオン。アンタ本当に魔女印の武器積まなくてよかったの?』

「あー、それは大丈夫ですよ。そもそも〈アサルト〉に実体弾使える兵装ないんで」


魔女の雑貨屋さん(ウィッチ・マート)≫から貰い受けた様々な物資を〈アサルト〉は一切積んでいない。

銃弾を使うような実体兵装がないというのも事実だが、そもそも必要性がないのが一番の理由だ。


魔女の雑貨屋さん(ウィッチ・マート)≫から提供されたのは主に魔法が付与された現代兵器各種――つまりは"魔法や異能と無縁の人間でも使える魔法のこもった武器"だ。

そのため自分で魔法を扱うことができるシオンはそれらに頼らずとも自分の力で代替できる。

であれば、諸々の魔法具はシオン以外に配分するのが最善だろう。


『アンタが問題ないならいいわ。……そろそろ出撃になるから、全員頼んだわよ』

「『『『了解』』』」


締めの言葉で通信は終了したと思ったのだが、すぐさま別の回線での通信が繋がった。


「戦術長殿、どうしました?」

『どうってほどの話じゃないんだけど、ちょっとね』


通信越しなので顔は見えないのだが、声色から彼女の機嫌がいいのが感じられる。


『アンタ、とりあえずハルマ君と仲直りできたのね』

「その話、委員長たちにもされました。仲直りとは若干違う気がするんですけどね」

『そうなの?』

「悪党認定から悪党かもしれない認定にランクダウンした、みたいな? 悪党認定されたあかつきには速攻殺してくれるそうな」

『あー……なかなかややこしいことになってるのね。まあでも普通に軽口叩けるような関係になったのはよかったじゃない』


確かに以前のような出会えば即座にギスギスした空気になる、というような状態になったのは喜ばしいことだ。


『そんな調子で上手く周囲に馴染んでいってくれると、アタシのほうも気が楽になるわね』

「善処しますが、ちょっと厳しそうな人もいますね。眼鏡さんとか眼鏡さんとか眼鏡さんとか」

『ちょっと、一応ブリッジから通信中なんだからそういうのやめてよ。笑っちゃうでしょ』


艦長はともなくシオンが大嫌いな副艦長までいるような場所からこの通信をしてきてるのか、というツッコミはあるが、アンナのことなので上手い具合に誤魔化してはいるのだろう。

普段の様子からしてそういうことに関しては明らかにアンナのほうがミスティよりも上手だ。


『あの子はなんていうか……家柄からしてゴリゴリの軍人だからね』

「そういえば、艦長とか教官ってあの人と昔から知り合いで?」

『軍士官学校時代のひとつ下の後輩よ。アキトにはその頃からすごく懐いててね』

「……あー、懐いてるっていうより、愛してる的な?」

『え、アンタ気づいてたの? いかにもそういうの鈍そうなのに!?』


色恋沙汰に鈍い自覚はあるが、そこまで驚かれるのは心外である。


「あの人の色恋沙汰とかどうでもいいんで置いといて、あの人って親を人外に殺されたとかそういうエピソードあるんですか?」

『それがね。無い(・・)のよ、そういうの』

「……無くてアレなんですか」

『アレなのよね~』


他の軍人たちと比べても極端に敵意が強いのでてっきりそういったバックグラウンドでもあるのかと思っていたのだが、どうもそんなものはないらしい。


「んーと、さっきの馴染んでいってほしいっていう話。とりあえず眼鏡副艦長だけは諦めてもらえます?」

『……世の中どうしても無理なこともあるし、可能な範囲で頑張ってちょうだい』


そんな話をしている内に、作戦開始の時刻がやってきた。


「そろそろ開始ですし、内緒話は終わりましょうか」

『そうね。……ああでもせっかくプライベートな感じなんだし、ひとつ言っておくわ』


ひとつ前置きをしたアンナに首を傾げて、続く言葉を待つ。


『シオン、いってらっしゃい。ちゃんと帰ってきなさいよ』


兵士を作戦に送り出すにはあまりにも軽い言葉。しかしその軽さの中には親しみと温かさがある。


堅苦しい言葉を投げかけられるよりも、このくらいのほうがシオンは好きだと思う。


「いってきます。ちゃんと帰ってくるのでお菓子でも用意して待っててくださいな」

『気が向いたらね』


なんでもないような軽口を交わしてから、シオンはひとつ深呼吸した。

それと同時にブリッジから出撃の指示が来る。


「――〈アサルト〉、出ます!」


気合いを入れるように宣言した数秒後、〈アサルト〉は〈ミストルテイン〉から勢いよく飛び立った。


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